第11話 崩壊
林にある木々を飛び移るタスクを追うべく、空中に水の道を作るイーサン。ボート故に細かい方向転換は難しいものの、船首に触れたものを破壊する【INSIDE】の力でカバーしていた。
「本当に木をぶっ壊しながら追ってくるじゃん……弁償とかする気あるの?」
「俺は保安局の局長だぞ。自然環境を再生させる力を持つ知り合いくらい居る」
「どういう理論よ、それ」
しつこいイーサンに嫌気がさしたタスクは木の幹を思い切り蹴って加速。ローラースケートの形をしている【FLAME TUSK】のかかと部分、そこから伸びる刃をイーサンへ差し向けながらの飛び蹴りを行う。しかしイーサンも対抗策を練っており、水の道を壁のように伸ばして目の前に設置した。そして船首を突っ込ませる事で自ら破壊。多量の水がタスクへと降りかかった。
「見えない……っ!」
水越しに見えるイーサンとボートのシルエットは歪で、タスクの蹴りは外れ水滴を斬るだけ。時間経過により目くらましの水が地に落ちても、彼女の視界にはイーサンの姿は無かった。だが自身を照らすはずの太陽の光が遮られていた事に気づき、タスクは落下しながら両足を天に向けた。
「ぶっ潰してやる!」
太陽光を背に浴び、ボートに乗ったままタスクを押し潰すべく真上から激昂するイーサン。しかし【FLAME TUSK】の靴底が【INSIDE】の船底に触れた瞬間、タスクへの重力が反転する。タスクはぶら下がる体勢で僅かな助走をつけ飛び上がり、またしても重力が反転。地面に頭が擦れる寸前、空中で一回転し無事に着地した。
「
「一筋縄ではいかないか」
タスクは強がる態度を見せたが、イーサンに攻撃を与える隙をなかなか見つけられずにいた。近づかなければ倒す事もできないが、至近距離であれば破壊の能力をまともに受けてしまう危険性もあり、見極めは慎重に行わなければならない。改めて息を整えるタスクだったが、そんな彼女の背後から声をかける少女が2人。
「……タスクさん! どうしても、戦わなきゃならないって言うんですか」
「イーサンも! 【INSIDE】ならタスクの身体にある爆弾だけを破壊する事ってできないの!?」
並んで大声を出すモントとマイだった。モントの左手には黒いカプセルが握られており、戦闘態勢には入っている。マイは何の武装も持たずイーサンへの提案を出したものの、彼は聞く耳を持たない。【INSIDE】は水のクッションと共に着地した。
「こいつがそう簡単に応じてくれると思うか? それにな、ピンポイントで小さい爆弾だけを壊すのも難しいんだよ」
「ウチも捕まりたくないからね。死ぬのはもっと嫌だけど」
タスクは振り向かずに背後の2人に答えた。考えを変える気のないタスクを目にしたモントは覚悟を決め
「【FINAL MOMENT】!」
「モント……ほんとに戦うの?」
モントはスケートボードに飛び乗るが、マイはやはり心配する。【BE THE ONE】の力は強力ではあるが四肢を一時的に失う痛みは想像を絶するもの。
「大丈夫です。できるだけあの力は使わずに頑張りますから」
「モント……」
スケートボードの車輪が回転し始め、モントはマイのそばから離れていった。急いで駆けつけたというのに何一つとして状況が変わっていない事に、マイは自らの無力を嘆いた。
「私にも何か、できること……戦えないけど、何かを」
彼女は【WORLD】が持つ複数の能力を活用する事を考えるが、どれもタスクの体内にある爆弾を無力化できるような能力ではなかった。
多勢に無勢となったタスクは正面から迫るイーサンを睨みながら、尚且つ背後から走ってきているモントも意識し打開策を練る。イーサン1人に苦戦している状態でもう1人が加わるとなれば敗北は必至と捉えられるが、タスクの瞳は相変わらずイーサンだけを見ていた。
「やっぱり殺す気満々だよねイーサンは」
背後からのモントからは殺気を感じておらず、その場を動かなかったタスク。【INSIDE】が進むべき水の道は一直線に伸ばされ、イーサンは更に加速を試みた。
「ならウチはこうする」
次の瞬間、タスクはついにモントの方へ振り向いた。同時に走り出しお互いの距離が縮まる。突然の急接近にモントは驚いたがすかさずスケートボードと共に跳ね、車輪と底面で打撃を加えようと考えた。ところがタスクの右足によるハイキックがボードの底面に直撃し、重力が操作されてしまう。
「なっ!?」
ボードの底面に重力を預け、まるで単なる段差のように使ったタスクは思い切り力を入れて飛び上がった。衝撃によってモントは地面に転がる。間もなくイーサンもそばまで近づいたが、足を離した事でタスクへの重力の影響は元に戻り。これは先程のイーサンとタスクの状況が逆になったも同然だった。勢いに乗ったままタスクはイーサンを真上から狙う。
「その脳天、かち割る!」
「お前もなかなかぶっ飛んだ奴じゃないか!」
冷や汗と苦笑いを浮かべたイーサン。ボートである【INSIDE】は真上への攻撃には対応できず、水の力も氷などとは違い直接の防御手段としては扱えない。ボートの方向転換も時間がかかる上、直進でもすれば倒れたモントを轢いてしまう。
「がぁぁ……っ!」
左かかと落としによる刃は深く突き刺さる。叫ぶイーサンを見て勝利を確信したタスクだったが、震えながらイーサンは両手でタスクの左足首を掴んだ。
「うそ……っ」
「大人を舐めるなよ!!」
そのまま背負い投げの要領でタスクの身体は前方へと倒れた。その先にあったのは、【INSIDE】の船首。タスクの胸部とぶつかり、イーサンの意思によって能力が発動した。タスクの身体は内部から崩壊し、血を吹き出しながら少し跳ね飛んだ。
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