第4話 苦悩は重々しく

「これで……大丈夫かなモント?」


 ナイアの手によってモントの傷跡には包帯が巻かれ、2人はリビングで見つめ合った。破れてしまった黒いコートを再び着用したが、やはり不格好でモント自身は気になっている様子。


「ありがとうございます。助けて、くれて……でも、ロォドさんが」


 2人とって、ロォドは10数時間程度付き合った短い関係。泣き叫ぶほどの情は生まれていなかったが、疲弊しきったロックの様子を見て同情はしていた。ジャムを倒せなかった責任も感じている。


「ロォドさんは最後に、僕の事も心配してくれたみたいでした……僕は、あんなに不躾な態度をとったというのに」

「もしかしたら、キーネさんの所に行く事をモントが提案して、実際に傷を治してもらったから。モントの本音を信じてもらえたんじゃないかな……」


 確かめようのない物事を推測だけで語っている。自分達の力不足を思い知り、これからをどうするのか。考えているものの解決策は見えていない。


「今のままじゃ、僕達はきっと勝てない……いっそ、警察や権力に頼ってしまいたくなります」

「でもそれだとモントと、人質に取られてるモントの大切な人に危険が……」

「……そうなんですよね。今度こそ、僕の大切な人が死んでしまうかもしれない。でもそうこうしている間に、ロォドさんは死んでしまって……!」


 ソファにもたれかかり、視線を自らの膝に向けたモント。黒い服装だが雰囲気までもが黒くなってしまった。小さな身体では収まりきらない大きな後悔と感情を抱き、深呼吸を繰り返している。


「僕には、正解が分からないです……! 自分達の事は捨てて助けを求めたら良いのか、このまま自分達だけで解決を押し切るのか……! どちらが、正解なのかが!!」

「モント……」


 ナイアは助言もできなかった。彼女自身も、モントと同じ悩みを抱えている。考えが纏まる事はない。


「……話は、ちょっと耳に入ったで」

「あっ、レイジ」


 リビングに足を踏み入れ、凛々しい表情を浮かべるレイジ。続いてロックも入り、悩んでいた女性陣に提案を持ちかける。


「ひとまずはその話は後回しや。今すぐにでもナイド達が襲ってきてもおかしくはない……せやから、【ROCKING’OUT】にロォドさんの【OVERLOADING】の力を合わせる。【GLORY】と同じように、や」


 ロックが握る【OVERLOADING】のカプセルは透明。2人は灰色のカーペットに座り、手順を説明する。


「今回は【GLORY】の時とは違ってカプセルが手元にあるから、モントの力は借りんくてええ。俺とロックで調整している間、2人には見張りをしてて欲しいんやけど……ええか?」


 レイジは傷を負ったモントの方を主に心配していた。だがモントは深く頷き、レイジを信じる視線を向けた。ナイアの方は小さい頷きではあったが。


「はい」

「う、うん……わかったよ」


 跳ねている緑色の髪を弄り、やはり不安な様子をナイアは見せていた。


「襲ってこないに越したことはないんやけどなぁ……一応、念の為って事やし。戦力を少しでも増強しておく事にも、異論はないやろ」

「……本当に大丈夫なのか、ナイア?」


 暗い表情のナイアを、やはりロックは心配して声をかけた。

 先程のジャムとの戦闘でも、モントが有効打を与えていた。ブッチャーナイフである【JUMP COMMUNICATION】の片方を奪い機転を利かせ、ナイドの妨害が無ければジャムを倒せていたという事実。実戦経験の違いはあれど、自らに責任を感じていた。


「多分、大丈夫。うん……でも、やっぱり私、力不足だよ?」

「そうか?」

「ずっと車輪回転させてればええんとちゃう? そしたら迂闊に近寄れないやろ」


 ロックは一言だけ残し、直後にレイジがふざけた口調だったがアドバイスした。


「まぁ、確かに……。ありがと2人とも。私なりに頑張ってみるよ」


 薄い笑顔。自信を無くしかけ、自分に諦めかけている。


「そんじゃガレージいこか」

「あ、うん……」


 いつもと変わらない態度をとるレイジに、3人は着いて行く。レイジの中には『皆を引っ張る』という覚悟があった。彼自身は直接戦う事などできないが、だからこそ他の面で努力するという心意気がある。しかしそれが理由で、直接戦っている、立場が違うナイアに具体的な励ましが送れない。ジレンマでもあった。



「【OVERLOADING】【ROCKING’OUT】」


 ガレージで2つの人形ドールを出現させたロックは、【RAGE OF ANGER】の荷台に乗り込みレイジからの指示を待った。

 モントとナイアは閉まっているガレージの扉近くに立ち、いつ襲撃されても対応できるよう人形ドールも臨戦態勢に。


人形ドールのエネルギーはまだまだ豊富にあるで。出しっぱなしでも全然無問題や。あぁロック、ちょっとレンチ取ってくれや」


 両方のバイクに挟まる形でレイジは整備を始めた。彼の意思で荷台にレンチが現れ、言われた通りにロックは差し出す。


「にしてもやっぱ【ROCKING’OUT】の能力ややこしすぎんか? わざわざ俺みたいな整備能力持った奴がおらんと発揮できへんとか、ちょっと欠陥やろ。その分強いんやけどな」

「強い分、能力に制約がある……そう考えて良いのかもな」


 ロックも整備の様子をまじまじと見つめ、話し合ってもいる。

 前回の【GLORY】は単に合体させただけであったが、今回はレイジも力を入れている。まるで【OVERLOADING】のパーツを鎧のように装備させ、特殊能力すらも模倣し、コピーしようと考えた。


「“走っている道路の規制速度の4倍のスピードを出す事ができる”能力を、こいつにも使えるようにする……もしかしたら上手くいかへんかもしれんけど、まぁやってみるわ」

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