第7話 ジャムの策が効くだろぉ!

「こんな所で、終われないッ!」


 走馬灯から帰還したラディはなんと空中で自らの肉体を回転させる。タイヤバリアに両足で着地、そして反動で跳ねる事で、尚も転がり続けていた【DESTRUCTION】目掛けて突っ込んだ。

 車体が起き上がった瞬間、タイミング良くラディが飛び乗り。尻を座席に乗せる事にも成功。倒れそうになったものの根性で制御し、体勢を立て直した。


「うおぉっイケた!? さっすがボクだ!」


 転倒を覚悟していたラディは自らのセンスに驚き、笑顔と共に加速し直す。これには停車していたロォドも対応に追われてしまう。


「まさかこれを切り抜けるとは……でも、今の足止めでロックとの距離も少しだけ縮まった。2人で協力すれば倒せない敵じゃあないはず。だけど……」


 彼女の先に待ち受けるきついS字カーブ。丁度このカーブの直前で停車したため、加速しづらい環境だった。


「ここじゃあアクセル全開なんて無理。緩やかなスピードで……妨害に精を出すか。ロックが追いつけないなら、あたしがスピードを落として待てば良い」


 ロックへの『優しさ』が詰まった発言。レイジの次にロックとの付き合いが長い彼女だからこそ、トラウマ持ちの本人の前では見せない優しさ。そしてロォド自身、ロックの事を息子の様に意識し可愛がっている、という理由もあった。


「あの警備員は恐らくジャム。ナイア達が上手くやってくれると信じたけど……すぐにこのレースを終わらせて戻らなきゃいけない」


 S字カーブを走る【OVERLOADING】。引き続き基礎能力である氷をラディに差し向けていた。



 *



「他の観客はレースに夢中だ! ここに入ってくるという事はない!」


 戦闘の舞台はホスピタリティーエリアの観客席から、人気のない通路内へと移っていた。ジャムが言う通り、他のスタッフは全員始末されており邪魔は入らない。そして観客はラディ達のレースに気を取られる。トイレも観客席の近くに設置してあるため、わざわざ出入口近くまで戻ってくる事もない。


「ここじゃ狭すぎる……! 追わない方が良かったかも」

「建物の天井までが、あの刃物の射程圏内です……か」


 ナイアとモントが眉間にシワを寄せる。広かった廃工場や公園とは違い、天井が低く行動も制限されるこのエリア。上からの奇襲は封じられ、通路も狭いため仮にオートバイ&サイドカーである【GLORY】を使用したとしてターンやカーブも難しい。

 そして【JUMP COMMUNICATION】は巨大なブッチャーナイフ2本。この空間で振り回すだけでも脅威だ。


「モント! なんか他の良い人形ドールとか無いんか!?」

「申し訳ないけどありません。さっきまた人形ドールけれど、実戦に使えるものは【GLORY】と【LIAR】だけ……それに【LIAR】は多分相性悪いです。的がでかいですから、すぐに斬られそうなんです」


 実際に【JUMP COMMUNICATION】の攻撃力は最高クラス。【MIDNIGHTER】の弾丸を防ぎきっていた【LIAR】も切断攻撃には耐えられない。

 モントはスケートボードに右足を乗せ、左足で灰色の壁を蹴り加速した。直後にナイアも腕に装備した自転車の車輪を回転させ始め、共にジャムへと向かっていく。


「あかん俺何にもできてへん……レンチとかを武器にしても勝てるビジョンが浮かばん」


 1人取り残されたレイジは頭を抱えていた。【RAGE OF ANGER】は軽トラックであり轢く事も不可能ではなかったが、狭い室内ではそれも叶わない。荷台から工具を取り出す事も出来るが、巨大な刃物相手に立ち回るの覚悟はレイジに無かった。


「レイジさんはロックさん達の所に行ってください!」

「なんでもありって事は【GLORY MODE】も使えるはず。2人じゃあれを上手く活かせないはずだから、レイジが加わって3人になれば!」


 ブッチャーナイフの斬撃を回避しながら助言する2人。床に残る跡は大きく、派手に破片を散らしており威力をはっきりと見せつけていた。だが大ぶりのため、ナイドが扱う【MIDNIGHTER】の弾丸よりは避けやすい攻撃。


「って事はコースを先回りして待ち伏せやな! 悪い、2人とも頼んだで!」


 この場から去る事に罪悪感を抱いてはいたが、このままでは何も成し遂げられずに敗走するのがオチと踏んだレイジは走った。そう簡単にレースの決着がつかないと判断し、S字カーブの終着点へと向かう。


「戦ってる最中にお喋りとは……舐められたもんだな!? だけど良い策だとも思う!」

「褒められても嬉しくないよ!」

「あーうっせ! 横の部分で殴ってやる」


 突然、次の攻撃を告白したジャム。紫色の後ろ髪をたなびかせながらブッチャーナイフを横ではなく縦に傾け水平に振った。切断する力は無いが質量で押す力はある。

 ナイアは咄嗟に2つの車輪で受け止めたが、想定外の怪力な押され吹き飛ばされてしまう。


「次はモント、お前の番!」


 左のナイフがモントへと差し向けられた。ナイアと同じく受け止める形でスケートボードを盾がわりに使用したが、これも耐えられそうになかった。

 しかし吹き飛ばされる寸前、あの人形ドールの名を口にした。


「【ULTRA INFORMATION】……っ!」

「その名は……!」


 吹き飛ばされはしたものの、スケートボードがメジャーへと変形。帯の先端にある、固定する為の金具ツメがナイフに引っ掛けられ、一気に巻き付くとモントの方に引き寄せられる事でジャムの手から離れた。


「片方、貰いました」


 壁に激突した痛みを堪えながら、モントは勝ち誇った笑みを浮かべ、掴み取ったナイフをまじまじと見つめる。


「それはオレが以前殺した奴の……まさかこのサーキットに来た時にその人形ドールを!?」

「どうやら【FINAL MOMENT】の“人形ドールの持ち主が死亡した現場”の対象は広いみたいです。【LIAR】ならあの廃工場、この【ULTRA INFORMATION】はサーキットに入った時から使えるようになっていました」

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