179 Dの世界線


「超ゴイスーレーザー発射!」


 ノイギーアの環境でLがハイテンションに叫ぶ。

 ボタン押すだけでいいんだけどな。

 いや、自動防御モード中だからボタンさえもいらない。

 わかっているはずだからそういう気分を楽しんでいるのだろう。

 ホーミングレーザーがヨーロッパ・アラブ連合の対空火力を次々と撃ち落としていく。


「うふふふふふ……いつまで通常近代兵器を無駄消費する気なのかしら? そろそろ魔導化兵装の出番じゃないかい? ないかい?」


 オペレーター席で楽しそうにしているLを俺は艦長席で眺めている。

 艦橋は一応有人操作に対応した作りになっているのであちこちに計器と操作卓などを備えた席があり、そこには『王国』で希望者を募って採用したクルー候補が座っている。


「しかし、一つのクランで国家連合を相手にするなんて正気の沙汰じゃないね」


 と、クルー席の一つで亮平が苦笑している。


「まっ、人死には最小限にするつもりだけどな」


 九条レーザーはないので無事故無死亡とはいかない。

 気を付けては戦うがね。

 しかしまぁ、『気を付けて戦う』っていうのがすでに強者の驕りだよな。


「いや、勝つ気なのがそもそも狂気の沙汰だよ」


 なんていう常識論は無視する。


「おお! 出た出た!」


 と、Lが歓声を上げる。

 レーダーが反応を告げている。

 レーダー上で高速で接近する光点を正面モニターで映像にする。


 映し出されたのは戦闘機……ではなく、竜だ。

 胴体が小さく翼が大きい。飛竜だな。

 だが、ただの飛竜ではない。

 総金属……というわけではないようだが総人工物であることは確かだろう。


 メカゴ〇ラ……ならぬメカワイバーン。

 俺の【魔甲戦車】と同じようなものだな。


「艦長! 航空戦力だよ! 艦長!」

「へいへいよ」


 ハイテンションのLに急かされたので、こちらも航空戦力を出すことにする。


「ほんじゃ、魔銃騎士団の新兵器を出すとしようかね」

「了解! ブリットスカッツ。発進承認!」


 ハイテンションLに促されてノイギーアのカタパルトデッキが顔を覗かせて、それを発進させる。


 ブリットスカッツ。

 十メートル級の戦闘機だ。

 が、もちろん俺とLが作るものがただの戦闘機であるはずがない。

 可変機である。

 戦闘機と言ったが発進時の格好は弾丸である。相手はでかい質量弾だと思って回避行動を取って終わらせているがそんなことはない。

 リンゴの皮を剥ぐように表面が解けると、そこから人型兵器が姿を見せる。

 解けた表面装甲が後頭部や肩から伸びて髪やマントのように見える。ちなみにこれが飛行ユニットと放熱板の役割を果たしている。

 スカッツはスカート&パンツの和製英語で、その通りに弾丸形状の一部を残した下半身部分からきている。

 全体像として戦う乙女な感じになってしまった。

 リーダー機に収納されているのは五十代のおっさん(覇王)の脳だけどな。

 弾丸の芯となっていた雷撃槍を抱え、人型兵器がメカワイバーンの背後を突く。

 奇襲の形ですぐに片が……とならないのは残念だが空中戦が展開されることになる。


「おお、ちゃんと飛んでる! 戦ってる! ひゃっはー! アガルアガル!」


 うれしそうなLの背中を見ていたら俺の感覚がそれの接近を伝えた。


「意外に早く出番が来たな」


 艦長席から立ち上がる。


「マスター、どうかしたかい?」

「ご指名の客が来た。行って来る」

「こういうのは下っ端が露払いをするべきでは?」

「適材適所だよ亮平君。俺の楽しみを取るな」

「やれやれ」


 気取って肩をすくめる亮平とクルーの全員に「じゃっ!」と手を振ると転移する。


 出た先はノイギーアの屋根の上。


「防空圏内をすり抜けてくるというのが嫌がらせ臭いよな」

「いきなり艦橋に入り込んで君の部下たちを支配するということもできたのだけどね」

「イきるな。できなかったくせに」

「…………」

「その体のことはお前以上に知ってるんだ。なにができてなにができないかもお見通しだ」

「はたしてそうかな?」

「だからイきるなよスペクター。使いこなせてないだろ? その体?」

「なにを?」

「それを使いこなせてるなら、最初から俺が呼ばれることはなかったんだしな」


 そこにあるのはこの世に存在できる限界領域に存在する美貌だ。

 あらゆる存在を魅了する美。

 人間という形に集約できる最大限の美しさ。


 それがイング・リーンフォースという存在の外見に対する形容だ。

 その形だけで見る者を魅了する。

 俺だって●で転んでなければ危なかった。


 ん?


 よしよし、出てきたな。


「さあて、お前は覚えているか?」

「……なにをだ?」

「覚えていないならいいさ。これは間違いなく、俺への試練だしな」


 スーツ姿のイング&スペクター……めんどいから今後はスペクターと呼ぶ。

 スペクターが身構える。


 ほう、その構えは。

 イクンの仙法か。


「お前に修行してる暇はなかったと思うが、となるとやっぱり、そいつは俺の動きを覚えてるってことか」


 スペクターはなにも答えず、距離を詰めて来る。


「ちぇぇぇぇぇぇぇいっ!」


 気合と共に放たれる貫手。

 たいした速度だが今の俺の前では意味はない。

 ギリギリで避ける。


 チッ。


「ん」


 避けたつもりが頬から血がしぶいた。

 皮膚が裂けた痛み以上のものが俺の魂に響く。


「なるほど、この感触か」


 即座に傷を癒やしつつ、接近したスペクターに仙法による拳打を浴びせる。


「ぐうっ!」


 腹に数十発の打撃を浴びながら数歩後退するだけで済むのだから、まったくその体は丈夫だ。


「なるほどね。最初からそれが目的だったわけか」


 イングの肉体に俺という魂を乗せ、そして元の世界に変える時にはイングの肉体を使わせなかった理由。

 俺が望まなかったというのもあるだろうが、もし俺がその肉体ごと元の世界に戻ることを選んでいたとしたら、あれやこれやと手を回して邪魔をしていたことだろう。

 なぜならば……。


「イングの肉体に神殺しの特性をコピーさせる」


 それが目的だ。


「で、本来なら失敗して亜神か、魔神王の下僕にでもなっていただろう俺でコピーできたか実験するつもりだったってわけか?」

「……何を言っている?」

「お前が残念な操り人形って話だよ」

「ふざけ……!」

「よっと」

「ぐふっ!」


 なんか攻撃魔法を使おうとしたのでその前に接近してノイギーアの船体にぶん投げる。


「さて……そろそろ色々と謎解きの時間じゃないかな?」


 なにしろこの戦い、もう何回もしてるしな。




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