152 異世界帰還者の胎動 17
なにかおかしいとは思っていたのだ。
協力すると言っておきながらさっさと帰るなんていうから。
有言実行が服を着て歩いているような連中なのだ。果たす気もない約束なんてするはずもない。
しかしまさか、こんなやり方とは。
「やらかすなぁ」
ぼそりと呟く。
ああ、現実逃避したい。
観客席は悲鳴で溢れている。
それもそうだろう。
さっきまで人間だったのが、いまでは十メートル……はないかなぁぐらいの怪物になってしまったんだから。
筋肉パンパン。頭髪が凝固して角になり目や口は裂けるように鋭くなる。
肩甲骨が異常発達して骨の翼のようなものができている。
一言で説明するとそれは……。
「悪魔だ!」
と、言うことになる。
「どうしたもんかなぁ」
カメラはまだ生きている。
放送は続いている。
生放送なので残虐シーンはできれば勘弁してやりたい。
「う~ん」
(マスター、ちょっといいかい?)
(おっ)
と、通信を使って聞こえて来た声は亮平だ。
(非常事態だよね?)
(そうそう。どうしたもんかな?)
(僕が実況席に行っててきとうに話作るから。マスターは彼を無力化して欲しい。殺しはなしだよ)
(やっぱそうなるよなぁ)
(当然。マスターならできるよね?)
(おっ、煽るねぇ)
(どうとでも。ボーナスを弾んでくれればそれでいいよ)
(ボーナスもらえるぐらいに良い言い訳を考えてくれよ)
(考えますよそれぐらい)
(それにしても、今日って見物に来るって言ってたっけ?)
(…………)
(おおい、亮平君?)
(僕にも、挑戦者来ないかなって……)
(お?)
(霧ちゃんにも来たんだから、僕にだって……)
(わはははははははは!)
(うるさい! 絶対にボーナスはもらうからね)
涙目な亮平を想像したら面白かった。
「さて、それじゃあ幻繋がりで……面白い体験をさせてやるよ」
変化が終了したらしい貴透君……デビル貴透に指をちょいちょいする。
かかってこい、だ。
GUOOOOOOOO!!
「言葉も忘れたか?」
にやにやと挑発する。
騙された感のあるデビル貴透だけど、ここまで来ると同情の余地はないな。
落ちぶれパターンにはまりまくりだからね。
周りの声が聞こえなくなってるんだからどうしようもない。
こうなってしまったら騙されてしまったと本人が納得するまで突き進むしかないのだ。
ぶっ飛ばしてでも止めるほど親しいわけでもないしね。
そしてこいつは、その『ぶっ飛ばしてでも止めてくれる仲間』を作れなかったのだ。
『一人で最強』の副作用みたいなもんだよな。
俺も気を付けよう。
GUOOOOOOO!!
物思いにふけっているとデビル貴透が突っ込んでくる。
「あーらよっと」
そんな巨体を前にして、俺はふわりと踊ってみせる。
そうするとあら不思議。
GUA!!
巨大なデビル貴透が触れてもいないのに前のめりになって倒れる。
「ほらよ」
さらにもう一動作。
起き上がろうとした巨体が足を払われたかのように尻もちをつく。
理解できずにデビル貴透は混乱している。
「ははは、大きければいいというものでは……ないんだなぁ」
これぞ幻影魔法の師匠ダキア直伝の戦闘法……幻魔闘法だ。
相手の無意識下に働きかけて、体が勝手に『こうされた』『ああされた』と錯覚して投げられたり転んだりする。
意識している部分で理解することは決してできない。
抗うことも許されない。
「残念だが、お前の活躍の出番はないな」
あらさほらさと投げ飛ばしデビル貴透はなす術もなく舞台にばんばんと打ち付けられる。
さすがの硬さと重量で舞台は粉々に砕けてしまったけれど関係ない。
どんどんやる。
やがてあちこちに傷ができて血が零れだす。
それをこそ待っていた。
「デモンブラッドスライム、カモン」
指を鳴らして召喚するはかつて魔神王の血から作り、その血を吸いまくったスライム君の一部。
血を操るという特異な能力を持つこいつにデビル貴透の血を抜き取らせる。
瀉血治療ってわけではない。
貴透君の飲んだ薬は経口摂取から粘膜を通って全細胞に行き渡っている。血だけの問題ではない。
だが、血を抜くことはダイレクトに体力の減少となる。
動きも鈍くなったし、体力も減った。
抵抗する要素をとことんまで削りぬき、そして取り出したるは……白魔法。
デビル貴透がデビルになる前まで時間を戻しつつ、血中に存在する薬液を解析して抜き取り作業も行う。
「ああもう、めんどうくさい!」
ただ殺すよりもはるかにめんどうだ。
師匠連中は俺がこうすることを見越していたのか?
どうだろうな。
どっちだっていいやとか思ってそう。
ともあれ作戦は成功。
ボロボロの舞台の上にはまっぱの貴透君が転がり、そして俺の手には彼をデビル貴透にした薬が残る。
「あるいはこれを俺の手に渡すのが目的だった?」
普通に渡すのが大嫌いな性格の師匠もいる。
「あるいはそうかもしれない……が」
俺はそれをそのまま地面に落とした。
「こういうのは好かないね」
地面に残ったのを誰かに悪用されたらたまらないから中和するようにいくつかの魔法をぶちまけ、その上で踏みにじった。
見ているか師匠たち?
「いつまでも掌の上にいると思うなよ?」
だけどその言葉は歓声にかき消される。
亮平の説得は成功したようだ。
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