150 異世界帰還者の胎動 15

 二日目である。

 早速だがダイジェストだ。

 いや、ダイジェストでは生ぬるい。

 はしょる!

 どいつもこいつも癖が強く特定条件でべらぼーに強いという連中ばかりである。なんだろうな、そういう尖がったクラスにならないと生き残れなかったのか?

 答えが見つからなかった時代はコミュ能力の高い奴がまとめて平均的に成長させた連中を従えることで勢力を作り、歪な異世界を攻略して還って来た。もちろんその中で英雄的に強くなる奴もいる。

『王』位とか、佐神亮平みたいなのとかだ。

 群衆を率いて戦う中での強さがそこにはある。

 亮平だってあいつの強さの真骨頂は『より強い剣をより多く所持すること』にあるけれど、同時に『自身の戦闘状態が長く続くほど味方に勇気を与える』というスキルも所持している。

 そして今回の連中はコミュニケーション能力が低いか、あるいは上記の連中が自身の勢力を作る上で不要と断じられたような連中が生き残るために限定条件に特化した能力を獲得し、そして最後まで生き残ったわけだ。

 異世界帰還者の新世代だなんだと調子に乗っていることを言うようなのもいるが、要はより多くとともに生きる術を持てなかった連中ということでもある。

 オンラインゲームのアップデートやスマホゲームの新キャラ登場でゲームの効率化が激変したようなものではある。

 勝ち組というものが存在し、残りを淘汰していく。

 世の中というのは弱肉強食ではなく適者生存だという話を聞いたことがある。

 本当に弱肉強食が真理なのならば、ライオンやトラが絶滅しそうなのはどういうことなのか、ということだ。

 なぜ、弱者であるはずの鼠や兎は全滅していないのか?

 しかし、その論で行くと数の暴力である亮平たちの世代の方が生き残るということになるのではなかろうか?

 異世界帰還者の存在が公になったことでそういう連中が生き残る土壌ができてしまったというのは、はてしてよいことなのかどうなのか。


「まっ、知ったこっちゃねぇか」


 ドン、とそいつの腹に掌底を喰らわせて終了。


「強い! 強い強い強い! 強すぎる! これが最強女王の実力。これがクラン『王国』の実力だぁぁぁぁぁ!」


 実況さんの興奮がすごいな。

 でもそれが実況さんの仕事だ。この人の興奮につられるように観客の人たちも盛り上がる。


「さあ、残るは一人。この試合を実現させた挑戦者、刎橋貴透! 彼の勝利はあるのか!? それとも封月織羽が最強女王であることを認めてしまうのか!?」


 大モニターが控室にいる貴透君を映し出す。

 うんうん、良い顔をしてベンチに座ってる。

 集中してるように見えるのかな?

 俺にはトイレに逃げたそうな顔に見えるけどな。


「織羽さんなら楽勝ですよね!」


 なぜか俺の控室に当たり前にいるサチホちゃん。

 面白くない顔の霧。

 でも居座らせているということは受け入れているということなのか?

 実は狙っていたりするか?

 霧さんの性欲は底知らずやでぇ。


「織羽」

「うん?」


 そんな俺の考えを読んだかのように一睨みした後で名前を呼ばれた。


「どった?」

「……いえ、やっぱりいい」

「ふうん」


 霧が含みのある言い方をするということはなにかがあるということだ。

 だけど言ってしまうと俺の楽しみを取ってしまうかとも考えていると読んだ。


「ふっふーそれは楽しみだ」

「やっぱりそうなるのね」

「むう!」


 俺と霧のそんなやり取りを見てサチホちゃんが頬を膨らませる。


「どったの?」

「なんだか二人だけでわかり合ってるみたいで面白くないです」

「素直だねぇ」

「そうです。素直でかわいいんだから、もっとかわいがってください」

「はいはいよしよし」

「むっふー!」


 水木しげる先生調の興奮は止めなさい。

 そんなことをしている間に準備が終わり、係に呼び出される。


「さて、それじゃあ貴透君と遊んでくるか」

「いってらっしゃい」

「がんばってください!」


 二人に見送られて控室を出る。


『おもしろき こともなき世を おもしろく…………幕末の長州藩士、高杉晋作の詠んだ句です。この句の解釈には諸説がありますが、この女に読ませれば、その意味はただ一つ! おもしろくなければおもしろくすればいいのだ! 最強女王! 封月織羽の登場だ!!』


 実況さんが頑張って盛り上げてくれる。

 二日続けての勝ち抜きだ。最終版でそろそろダレて来ているだろうに、観客の熱気は相変わらずすごい。

 何回目の登場だって俺にも歓声が降り注ぐ。


『そして最後の挑戦者! この二日間のきっかけを生んだ男。彼の編み出した最強攻略法は最強女王にも通用するのか!? 刎橋貴透! 登場!!』


 そして貴透君も登場する。

 照明で誤魔化されているけど顔が青いぞ。


「お望みの舞台だぞ、貴透君」

「…………」


 うつむき気味にこちらを睨んでくる貴透君ににやにやと笑いかける。


ネーム:刎橋貴透

レベル:400(限界値)

クラス:人災乃化身


 ステータスに変化はなし。

 それにしても厨二心をくすぐるクラス名だな。


『さあ、泣いても笑っても最後の試合だ。最強女王の結末は……試合開始だ!』


 カーンと開始の鐘が鳴る。

 瞬間、貴透君の姿が視界から消えた。


「死ね!」


【空隙の支配者】

 それが貴透君の持つ特殊スキルだ。

 簡単に言ってしまえば自身を視界に収めていない者への攻撃力が爆増というもの。

 人災乃化身とかってカッコイイ名前だが、そのクラスになる前は暗殺者とかだったのだろう。


「残念、幻影だ」


 背後から俺の首を刈った貴透君だが、その一撃に手ごたえがなくて驚いている。

 もちろんそれは幻影だからだ。

 本体である俺は舞台の角に立っている。

 相手から見られていたら本領を発揮できないのなら、この状態ならどうかな?


「ちっ」


 貴透君は舌打ちすると拳を握りしめて、空手の正拳突きのような構えを取る。

 そういえば武器を持ってないな。

 でも、素手ってわけではなさそうだけど。


「後悔しろ」


 そう言った貴透君の拳から毒々しい紫が滲み出る。


【病魔の刃】


 拳が突き出されると同時に、その紫が視界を覆った。


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