128 深淵狂騒曲 15
それからほどなくして、死人色だった将軍にどこぞから連絡が届き、重病人のような肌色になって戻って来た。
とりあえず首の皮は繋がった、みたいなところだろうか?
上が支払いを認め、それがこの将軍の交渉失敗とはならなかった、ということなのだろう。
この将軍はなにも頑張っていないし、むしろ俺を騙そうとしていたのだから同情の余地はない。
上司の腹いせレベルで首が飛んだりしたら面白いのに……とは思うが無駄な恨みを買う必要もない……か?
余計なことは言うまい、ということだな、うん。
「たしかに」
スマホでクランの口座に入金されたのを確認する。
ゼロが多すぎて鬱陶しいね。
「んじゃ、もう帰ってもいいかな?」
「……お送りしよう」
「けっこう。自力で帰る」
なんていうやりとりをニースの通訳を介して終えると俺たちは【転移】でさっさと住居にしているホテルに戻った。
「ただいま」
「おかえりなさい。いい子にしていた?」
「それは俺が言う台詞じゃないか?」
「悪い子はあなたの方でしょ」
霧のそんなやりとりに癒される。
「見てみろニース。あの死の勇者がこんなになるんだぞ?」
「あら? この子は前から好色よ。それに中身は普通なのだから、甘えられるなら甘えるでしょう」
「普通? よく言う」
「普通だということがこの子の不幸なのよ」
そしてそんな癒しの時間に茶々を入れる無粋ども二名。
俺はニースとフェブリヤーナをじろりと見た。
フェブリヤーナはいつも通りにスウィッチの画面を見たままだ。器用だな。
「ていうか、なんでそんなに仲良くしてるんだ?」
お前ら敵対してたよな?
「あら、もうあなたに屈服しているのでしょう? 勝負がついたことをいつまでも持ち出すほど器が小さくはないわよ」
「……言い方はともかく、そういうことだな」
訂正。
仲良くはないな。
密やかな殺気が室内に満ちてたわ。
君たち、室温が下がるからやめなさい。
「それで、ニースはなんでこっちに?」
「あら? わざわざ遠くからやって来た恩師につれない態度ね」
「どうしろと?」
お、なんかめんどくさい態度を取り出したぞ。
「せっかく来たのだから観光ぐらいはしておかないと。他の連中にお土産も頼まれていますし」
「了解了解。なんでもお付き合いいたしますよ、お師匠様。なにかご希望は?」
「そうね。ではまず、こちらの世界に合わせた格好になりましょうか」
「格好ね」
確かに、ニースはいまあっちの世界の神官衣を纏っている。
しかも最上位の身分を現す豪華なものだ。
祭儀用のごちゃごちゃしたものではなく普段着用とはいえ、この格好で外をうろついたら目立つことこの上ないだろう。
「うーん、だとしたらなにを着せるべきか」
「彼女らと同じ服ではだめなのかしら?」
「同じ?」
と、見てみると霧とフェブリヤーナは似たような恰好をしている。
お揃いというか、これは制服だ。
俺と霧は東京に引っ越してきて、同じお嬢様学校に在籍している。
フェブリヤーナも戸籍を取得した時に見た目相応の年齢にしているので、それに合わせてお嬢様学校の初等部に転入させたのだ。
だから彼女もそこの制服を着ている。
お揃いに見えるのも仕方がない。
「そういえば、制服を着てるってことは学校に行っていたのか?」
「当たり前でしょう? 仕事がないときは学校に行くものよ」
「行くものかぁ」
その常識がなんだかとても遠くに行ったような気がする。
まっ、それはともかく。
「ニースが制服を
着るのはダメだな」
「あら、どうして?」
「ね……」
「ね?」
「いやなんでもありません」
危ない危ない。
真実がいつも人を助けるとは限らないのだよ、うん。
「……これは学校に通っている証拠みたいな服だからな。部外者が着るのはよくない」
よし、うまく誤魔化せた。
「学校……つまり、主に未成年の少年少女が着る服だと、いうことね」
誤魔化せていなかったかもしれない!
「違う違う。その組織に所属している証みたいなものだからな」
「そう……」
やばい。
空気がどんどん冷たくなる。
「さあ、まずは服を買いに行こうか!」
こういう時は強引に話を動かすに限る。
「ええ、そうね。そうしましょうか」
にこりと笑うニースの態度に俺はほっと胸をなでおろして移動を開始する。
「覚えていなさい」
そっと背後に移動してきた彼女が呟く。
「俺、一働きしてすぐなんだけどなぁ……」
ほんと勘弁してほしい。
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