117 深淵狂騒曲 04


 鋼鉄巨人が次々と出てくる。

 金属祭りだ。

 やったぜ。

【魔銃騎士団】に触発されてパワードスーツみたいなのを開発したかったから、素材はあればあるだけいい。

 後は銃。

 いまだと金食い虫すぎて使い道がない。

 ダンジョンがこのまま出現し続けると仮定すれば、青水晶の価値はいずれ下落か安定する。その前に電気供給以外の使い道も模索しておかないとな。

 パイオニアになれば特許で大儲けだ。

 電気供給の方でもアイディアがあるし……となると青水晶もある程度は拾っとかないとまずいか?

 鋼鉄巨人の残骸をゲットしてると青水晶が手に入らないからな。

 半々ぐらいにしておくか。

 村雨改が疲れたので魔神王のレイピアに持ち替える。アキバドルアーガの時もそうだったが、一定以上の魔力を込めると中の神獣が疲れてしまう。

 なんとか神獣を鍛える方法を見つけないとな。


「あ、ああ……あれを!?」


 迷う余地もないまっすぐな道を進んでいるとルーがひきつった声を上げる。

 完全に驚き役だ。


「こりゃまたたくさんだ」


 ほぼ単体で現れ続けていた鋼鉄巨人が群れをなして待機している。

 まるで壁だ。


「じゃっ、こっちだな」


 いままで剣とちょっとの魔法だけを使っていたが、敵が対策してきたのでこっちも戦法を変更する。

 渋滞が起きる前にこっちも大物を召喚だ。


【魔甲戦車】


 某自衛官に地を這うメカキングギドラと言われてしまったこいつを召喚。

 俺としてはDQのメタルドラゴン多頭バージョンのつもりだったんだけどな。

 え? なにか違いがあるのか?

 すげぇあると思うんだけど。

 ない?

 そんなわけで迫って来る巨人の軍団にこっちも戦車の車列で対抗。


「撃て」


 レーザーブレスの光が空間を埋める。


「こ、これは秋葉原にいた魔法兵器!?」


 おや?

 C国はこれが俺の戦力だと知らなかったのか?

 うーん……そういえばテレビではこれの所有者については言及していなかったような?

 俺も自分からああだこうだは言ってないしな。実際、誰が所有権を云々言ったところで使えるのは俺だけなんだし。

 鋼鉄巨人は次々といろんな場所に穴を開けられて倒れ、青水晶に変わっていく。

 サイズに見合った特大の青水晶を回収しながら俺たちは進んでいく。

 邪魔するものは薙ぎ払うのみだ。



†††††



 一機のヘリがそこに降り立った。


「ふう……」


 交差点の中央にマークを描いただけのヘリポートから降りたのは複数の男女。

 そのどれもが現代的とは言い難い鎧などを着た……いわゆる異世界帰還者の武装をした者たちだ。

 その数は四人。


「まったく、火焔山の攻略途中に呼び戻すからなにかと思えば……」

「申し訳ありません、将軍」

「深淵の蓋が開いたって?」

「はい」

「いまなら攻略可能だからすぐ向かえとは……勝手な言い草だ」

「しかし、この状況がいつまで続くかわかりませんし、この状況を可能にした者が死ぬ可能性もあります。そうなったら……」

「わかったわかった」


 迎えに来た軍人の言葉を聞き流し、リーダー格の男は現場に向かう。


「なるほど、確かになくなっている」


 すり鉢状の巨大な穴にはかつて埋め尽くされ、そして穴の拡大の原因と目されていた黒い存在がなくなっている。

 その正体を解明することもできず、無謀にも突貫した幾人もの異世界帰還者や兵士の命を奪った黒はなく、すり鉢の底にはダンジョンの入り口である光の球体がむき出しになっている。


「確かに好機……だがな」


 それを為したのは日本から来た異世界帰還者だと聞いている。

 日本の秋葉原で起きたダンジョン・フローを解決したチームのリーダーだとも。


「一人だって?」

「はい」

「大した自信だな」

「あなたにだって可能ですよ」


 そう言ったのは背後にいた男の仲間だ。


「そうかもしれない。だが俺はそういう危険なことはしない主義だ」

「それが正しいのです。そのために私たちがいるのですから」

「ああ」


 男は仲間と思っている。だが彼らはきっと、自分たちのことを臣下だと思っているだろう。

 そのことを咎める気はない。

 実際、男はかつて王であり、彼らはその時からの臣下だった。


「将軍、委員会よりの命令が届いています」


 穴を眺めているとこの場を仕切る隊長がそう言った。


「なに?」

「我が国の武勲は我が国にのみあり、です」


 その命令としての態をなしていない言葉に男は顔をしかめた。

 文意を理解することはできる。

 だがそれは、男としてはあまりにもばかばかしい命令であった。


「それは命令か?」

「命令として伝達されました」

「聞いた。だが、無学故修辞的な内容は理解しかねる。そう返しておけ」

「将軍!?」

「それとも、貴君がその命令の解釈を教えてくれるのか?」

「い、いえ……」

「なら、言われた通りに返しておけ。そして英雄部隊はこれより深淵攻略に向かうともな」


 ダンジョン内は外部との通信は不可能となる。

 そしてダンジョンは一般人が活動するには厳しすぎる環境だ。

 くだらない命令を届ける者はこれでいなくなるだろう。


「さて、では行こうか。皆。この地を取り戻すぞ」


 男の名前は李勝。

 C国の誇る英雄部隊を率いる隊長だ。



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