115 深淵狂騒曲 02
前々から気になっていたことがある。
【鑑定】でときどき出てくる『####世界』という言葉だ。
####の中にははたして同じ言葉が入るのか?
それとも別か?
ダンジョンで見かけたボス連中にはほとんどこの「####世界」という言葉が入っていたように思う。
全てが同じだと考えることもできるし、全てが別だと考えることもできる。
もしも、全てが同じだった場合。
『混沌精霊』
####世界を呑み込んだ変種の精霊。全てを喰らう。
こいつは世界の最後に登場したということになると思うがどうなのか?
「やっぱ別だよな」
「なんですか?」
「独り言だよ」
到着してから三日。
俺はずっと穴の縁に立って底に向かって石を投げたりして変化を観察している。
この三日の間にも穴の拡張は続いていて、到着した日にあったガードレールがいまはなかったりする。
俺の周りにもC国軍の軍人たちが揃っていて、冷たい視線を向けてくる。
やって来てからずっと自分たちと同じように何もできていないようにしか見えないんだから当然か。
日本人が金だけ盗んで行こうとしてるぐらいには思われているかもしれない。
しかも小娘。
異世界帰還者は見た目だけで実力を判断できないとはいえ、大金払ってやってきたのが日本人の小娘で、しかも何もしていないとなったらそりゃ、苛立つことだろう。
苛立つの上等。
もう少し時間潰ししようかな?
「うーん……」
だめだな。
まず俺がこの状況に飽きてしまった。
それに、調査も完了したし。
専用の兵器の開発も完了したし。
俺のアイテムボックス内には簡易的な工房があり、そこで色々と作ることができる。
混沌精霊とやらの解析は終わった。
石を投げまくって反応を引き出しつつ、より深く【鑑定】を続けていった結果だ。
精霊の融合実験に成功したものの、その後の結果を予測できなかったというのが実態のようだ。
融合の末に精霊は虚無を吐くようになり、それによって世界は飲み込まれていった。
その虚無が混沌精霊であり、つまりこのダンジョンのボスは融合精霊なのだろう。
ここにある黒は混沌精霊であり、融合精霊による排泄物でもある。
人の傲慢が起こしてはならない法則を呼び起こした。
怖い未来だ。
俺が使っている人造精霊も一歩間違えればこういうものになっていたのかもしれない。
精霊魔法の説明がまだか。
精霊魔法というのは自然現象を擬人化した存在である精霊を通して自然現象を模したり変質させたりした事象を引き起こす魔法のことを指す。
【火矢】とか【火球】とか【風刃】とか【火霊剣】【風霊剣】とかのことだな。
この魔法を使うときには精霊との契約が必要なんだが、一つの精霊と契約して使える属性は一つということになる。火の精霊と契約して火系統の魔法が使える、みたいな感じだな。
だがそもそも、精霊というのは人間とは違う思考形態をしているというか、そもそも知性というものが妖精以上に怪しい。泡のように簡単に消えたり現れたりするからまとまった思考をしない。
天然の精霊のあるかなしかの気分に付き合っていると威力が安定しない。
そんなものには付き合っていられないということで開発されたのが人造精霊だ。
魔法的生物であると同時に精霊であり、また魔法を具現化するための装置でもある。パソコンのOSみたいなものと考えられるかもしれない。
実際、人造精霊の技術は他の魔法……というか魔法陣学に大きな影響を与えて魔法全体の発展に寄与している。
俺が師匠たちと連絡を取っている異世界タブレットのOSにも当たり前に人造精霊のノウハウが応用されている。
さらに俺の場合は自身の軍団にも使用している。【叫び唱える首塚】なんかはわかりやすいだろう。
当たり前の話だが精霊魔法にも師匠がいる。
ハイエルフの学者ドリナディアという。
その彼女とともに研究して完成した人造精霊エキアス。精霊魔法を使うための補助的存在だけでなく、高速思考の補助をしたり大量にある魔法知識を記憶するための外部記憶装置だったりと、ほぼ俺と一心同体の状態にある存在。
そいつの姿を顕現させる。
「おお、これはすごい!」
この三日で開発した対法外装でがっちがちに武装した人造精霊の姿にルーがわざとらしいまでの感嘆の声を上げ、周りの兵士たちがどよめく。
全長三メートルほどの蝶のような羽を持つ半透明の竜というのがエキアスの姿だ。周囲で生滅している七色の気が対法外装となる。
「よし、やろうか」
俺の合図にエキアスが鈴のような音を周囲に撒く。
その音は長く大気に余韻を響かせていた。
動きはエキアスの下にある穴で、そこに沈殿し、穴の拡大に勤めていた黒……混沌精霊で起きた。
一つ一つが極微の埃のような塊のそれがゆっくりと吸い込まれるようにエキアスの近くに集まっていく。
集まり、凝縮し、一つの球と化していく。
そしてエキアスが集めるだけ、穴に溜まった黒が減る。
「よし、じゃあ行くとしようか」
「自分も同行します。記録を取るように命令を受けております!」
「へいへい。でも俺が守るのはお前だけだぞ」
「了解です!」
俺に【飛行】をルーには【念動】をかけてゆっくり穴に降りていく。
そのすぐ側にエキアスが付く。
混沌精霊を吸い集めた球は直径一メートルほどで、次の球を作り始める。
中央にある入り口を掘り出すまでに十六個もできた。
「じゃ、いくぞ」
「はい」
ルーがやや緊張した声をしながら、軍帽になにかを取り付けている。どうもカメラのようだ。
ダンジョンの攻略を証明するための記録ととるか、俺の実力を記録するためととるか。
まっ、対策されたら、さらにその対策を取るだけだ。
同じことだけやっているのもつまらないからな。
「あっ、一つだけ言っといていいか?」
「はい、なんでしょう?」
「俺って、性癖的にはレズになると思うから」
「は?」
「じゃ、行こうか」
唖然とした様子のルーを背中で感じつつ、俺はダンジョンに入った。
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