111 報酬と価値観


 やって来たのは外務省とか防衛省とかのお役人チームだった。

 C国大使館の行動を見張っていたそうで、俺のところにやって来たのを確認して急いで確かめに来たそうだ。

 なんか色々と後手ってる気がするけどね、その対応。

 とはいえ給料もらって国のお抱えになる気もないからお役所としてもこういう対応になるのは仕方がないのかもしれない。

 心配なのは俺が国籍を変えることともう一つ。亡命や移住の方は心配するぐらいなら扱いを良くしなさいって話だけどな。とはいえ上級国民なんて言葉はいまの時代、ちょっと恥ずかしくてもらいたくない。

 やっぱりいまのままが妥当なのか。

 もう一つの件……俺が死ぬ危険性については危険地帯に行くのがお仕事である以上、いつだって付きまとう問題なのだからそこら辺の配慮や事前調査は当たり前。とはいえ調べきれるものでもないとは思うが。

 報酬の件に関しては気にしてもいなかった。態度を見るに安くはなかったようなので安心だ。

 お役所としてはこっちの相談に乗った上で、C国に対しても仲介してやったぞと、どっちにも恩を売りたいらしい。


「恩に思って欲しいなら値上げ交渉をしてきておくれ」

「いや、それは……」

「むしろ値下げした方が恩を売れるのではと……」

「なら、差額分をそっちが負担するでもいいけど?」

「いえ、このままでけっこうです」


 そんなわけで、俺のC国行きが決定するわけだけど……。


 その日の夜、オンライン会議。


「いや、織羽ちゃん。君ってまだ担当してるダンジョンあるよね?」

「だなぁ。あとは北海道で三件」


 渋い顔の亮平に指摘されて、俺は頷く。

 さくっと終わらせて札幌の市場で海鮮三昧するつもりだったんだけどな。

 ちなみに、テレビの収録のために東京に戻ってきたが、それまでは関東から北を担当していた。

 北海道は仕上げのつもりだったのだ。


「僕たちもいまは九州だし、他のチームも忙しいし、織羽ちゃんたちの代わりをできるチームはいないよ」

「ああ、それはヤーナに任せる予定だから大丈夫」

「……聞いてないぞ」


 畳部屋でゴロゴロしながら村づくりに励んでいたフェブリヤーナがじろりと睨んでくる。

 いま、俺たちが暮らしているのは東京のお高いホテルのスイートルームだ。長期契約で借りている。

 和風な部屋なのでゴロゴロできる畳部屋もあるのだ。


「いま言った」

「ふざけるな」

「いやいや、ふざけてないよ。ヤーナっちもこの世界のダンジョンの仕様は理解しただろ? そろそろ一人でできるだろ?」

「そういう問題ではない」

「もしかして、怖い」

「怖いわけなかろう!」

「なら頼んだ」

「ふん、わかっ……たなんて言うと思ったか!」

「むむ、抵抗するなぁ」

「バカにしてるのか!?」

「まさかまさか、我が永遠のライバルよ。お前を苔にするはずがないだろう」

「絶対バカにしてる」

「してるね」


 そこ、霧と亮平、余計な茶々を入れるでない。


「わかった。それなら報酬を出そう」

「ふん! 貴様と最初に交わした契約がある。妾がはした金でなびくと思うな」


 たしかにこの世界での生活を保証するって約束したからな。


「なら、現物支給でどうだ?」

「うん?」

「住民、ライオン……」

「むむっ!!」

「たしかジェイソンだったか?」

「き、貴様……」

「普通にプレイしていたら入手確率は一桁以下。キャラクターカードはネットオークションで高騰中なんだっけ?」

「ぐぐぐ」

「お小遣いじゃ、手に入らない値段なんだよなぁ」

「そ、それを手に入れてくれるというのか?」

「ああ、そういうことになるな」

「ぬぬぬ……よかろう」

「よし、交渉成立。案内人と荷物持ちに新人を付ける」

「わかった」


 新人っていうのは五井華崇改め籠池剛のことだ。

 普通の生活をする気だったみたいだが、バイト生活から抜け出せない内に世間がこんなことになったものだから手っ取り早い就職先としてうちに駆け込んできおった。

 なんだかなぁ。

 とはいえ、アーロンに鍛え直されているし、フェブリヤーナの案内人と荷物持ちぐらいはできるだろう。

 後、フェブリヤーナはランドセルが似合うお年頃にしか見えないから一人で行動させてたらいらんトラブルが起きるかもしれないし。


「ところで霧ちゃん、ヤーナちゃんのお小遣いっていくらなわけ?」

「一万円です」

「…………」


 小学生には十分すぎる大金だと思うが?


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