101 バトル・オブ・AKB 05
テレビデビューである。
それはこんな風だ。
「みなさん、御覧になられていますでしょうか⁉ ドラゴンです! 空飛ぶドラゴンが現れました!」
ヘリコプターで実況するアナウンサーの声は格闘技のそれより興奮していた。
「こんな光景を信じることができましょうか⁉ 信じたくはありません! ですが現実です! 私たちは新たな時代の変化をこの目で見ているのです!?」
お約束というものがある。
たとえば危険地帯にやってきたテレビ局のクルーたちを襲う悲劇のお約束とはなにか?
そう。
自分たちが危機に呑まれる……だ。
「なっ、あっ!」
ヘリコプターのパイロットがそんな風に叫び、やや遅れてカメラがそれに焦点を向ける。視線とカメラが連動するほどのベテランということなのかもしれないが、死に瀕してなおカメラがその光景を映し続けるというのは職業的執念さえ感じられる。
飛竜の一体がこちらに向かって飛んできた。
敵を排除するというよりは飛行コースに居合わせた障害物を排除するという態度に見える。
その証拠にブレスを吐かなかった。
「なっ! ドラゴン! ドラゴンが近づいて! 逃げっ! ぎゃあああああああ!」
アナウンサーの理性は残念ながらカメラマンほどには持たなかった。
その後の運命がお約束通りであれば飛竜の口の中で爆発四散して別のカメラに移行ということになるのだろうか、今回はそうならない。
「これって何テレビ?」
「ぎゃああああああああああ! あっ!? ……へ?」
アナウンサーが悲鳴を止めてぽかんとする。
カメラが俺と飛竜の口を交互に映す。
俺はヘリコプターの足の所に乗り、開いたままのドアに手をかけて内部を覗いている。
その背後では飛竜はヘリコプターをまさしく一噛みにする寸前で止まっている。
「で、どこテレビ?」
「あっ、はい。ヒノモトテレビです」
「おっ? じゃあこれ、ZAPで映すの?」
毎朝見ているテレビ番組だ。
とりあえずつけているだけとも言うが、嫌いではないからつけているとも言う。
「いえ、局全体で使いますのでそうとは限りませんが……」
「うぇ、じゃあミヤネン屋でも使うかもってこと? 俺、あいつ嫌いなんだよね」
「あっ……はぁ……」
「ああ、ごめんごめん。コメントに困るよね。でもまぁ、助けるのは、今回はこれ限りだね。もうちょっと距離を開けといた方がいいよ。次は味方の流れ弾で落ちるかもしれない」
「あ、あの、異世界帰還者の方……なのでしょうか?」
「さてさて……そういうのは別にどうでもいいじゃん?」
「いえ……あの……」
「まっ、とにかく距離をね、開けときな。でないと……」
バン。
指で作った鉄砲で飛竜を撃つ真似をする。
ヘッドショット。飛竜の頭は食事時のご家庭にはお届けできない破裂をした。
「次はこうなっちゃうかもだね」
「あっ……」
「あ、後、他のテレビ局よりも良いシーンが欲しいなら、あそこら辺にカメラを向けとくと吉。じゃあな」
と、カメラマンに空の一点を指示して、俺は地上に落下した。
ちょうど、塔からの増援が吐き出されて大攻勢を始めようとしていたタイミングだった。
そちらもスペクタクルな光景だったがカメラマンは迷った末に俺の指示に従って空にカメラを向けた。
それが起こるのは俺が地上に着いた少し後、包囲網全体に結界を張ったのとほぼ同時だ。
結界が放つ光がほんのわずか闇を押し退け、降下してくる複数の影を空に引き伸ばした。
カメラマンが影に気付き望遠でそれを映す。
それは銀色の人影だった。
たった一つ、金色があるが、それ以外は銀だ。
それはファンタジーや中世ヨーロッパ物に出てくる全身鎧にも見えるが、同時にSF作品のアンドロイドに見えなくもない。
その理由は背中に青白い光の翼を生やしているからだ。
それは推進器なのか、それともSF的な浮遊装置なのか。吐き出される光の粒子が翼のようになり、金と銀の人型を宙に浮かせている。
もう一つ、SF的だと思う理由があった。その手に構えているのが剣や盾ではなく銃のようなものだからだ。
自動小銃よりは重機関銃という雰囲気のあるその長物を金と銀の人型はいっせいに構え、そして飛竜たちに無数の光弾を放った。
L特製のAAP弾(アマルガム・アーマー・ピアッシング)は射出後に大気との摩擦で銃弾を包む低純度ミスリルアマルガムが発熱し、曳光弾のように光の線を刻む。狙撃などには向かないが今回は弾が流れる危険地帯を味方にわかってもらうために使用した。
そして威力は十分だ。
飛竜どもの上を取っていたこともあって、連中が気付くのが遅れた。
そして気付くまでの間に十体以上の飛竜どもを光の弾雨で穴だらけにして地上に叩き落とした。
ヒノモトテレビは唯一この光景を最初からカメラに収め、その希少性で他の局よりも視聴率でわずかに優位を取れたそうだ。
よかったね。
さてさて、金と銀の鎧集団。
特に金の鎧とその中身についてはわかる方にはわかってもらえると思う。ヒントは覇王とランダムボックスだ。
話を地上に戻そう。
Lにデザインしてもらった装甲を付けた【魔骨戦車】……あらため【魔甲戦車】
ヒドラをベースにした多頭竜であるそれの頭の上に乗り、俺は亮平以下、新たな仲間たちを睥睨する。
仲間……と言ったがこの立ち位置からその関係性もわかるだろう。
「大義である。封月織羽だ」
そう声をかける。新作の剣を杖にしてそれなりにポーズも決めておく。
もちろん、実力を隠したりはしない。
いつもは抑えている魔力をドンと解放してみる。
「「「っ!!」」」
その瞬間、全員が表情を引きつらせ、そしてその場に膝を突いた。
さすがは戦国シミュレーション的異世界を生き残った者たちだ。本能的に上位者を理解する。
こっそりとその場に混ざった霧も亮平の隣で膝を突いている。
「亮平。これで全員か?」
「はい。僕が勧誘した四十八人。それに霧ちゃんを加えて四十九人。みな、ここに揃っています」
「よくやった」
多頭竜の頭から降りた俺は持っていた剣を亮平の頭と両肩に軽く当てる。かなり切れ味がいいから儀式的な行動でも気を付けないといけない。
「この剣を授ける。これまでの労に報いるものだ」
「ありがたき幸せ」
持っただけで剣の性能を見抜いたのだろう。
亮平の目が妖しい愉悦に光った。
なにしろ魔神王の骨から削り出して色々魔法を付与した逸品だ。俺のレイピアを羨ましがっていた亮平からしたらうっはうはだろう。
「さて、皆の者。ほとんどの者が初めて顔を合わせるだろう。そんな奴にいきなり忠義を尽くせと言うほど俺も傲慢ではない。そして、いまここにちょうどいい戦場がある。存分に俺の実力を見分すると良い。そして、その上で俺に仕えるのは嫌だというのなら去るも挑むも自由だ。好きにしろ」
俺の言葉を聞いても誰も異論は唱えなかった。
それよりも、これから何をする気なのか、それを聞きたがっているように見える。
「ついでにもう一つ。俺はお前たちとは違う種の異世界から戻って来た。故にお前たちにとっての王らしい行動というのは理解できていない。そしてそれを理解する気もない。俺は俺としてお前たちの上に立つだけだ。言えることがあるとすれば一つ」
指を一つ立てる。
「面白いことをしようぜ。以上だ」
皆の顔は緊張で引きつっている。
ふむ、魔力が濃すぎるかな?
だが、あと少しだけ付き合ってもらう。
「さて、そういうわけで我らが新クランの最初のイベントを決行する。アキバドルアーガの攻略だ。俺の結界が現在の包囲網を基準にして塔を覆っている。これは塔の魔力に紐づけされた存在や現象を外に出さないためのものだ。そのため、俺たち全員が移動しても包囲網の崩壊とはならない。また、地上に溢れ出ている戦力に関しては空にいる【魔銃騎士団】と地上の各地に配置した【魔甲戦車】で対応する。心配はなにもない。存分に日本最難関ダンジョンの攻略を楽しもう。では、亮平」
「はい」
声をかけられて亮平が後を引き継ぐ。
「さてみんな、そういうわけだ。僕たちは新たな君主を得た。我が儘な女王様だ。僕がどうして新クランの名前をあれでこだわったか分かったと思う? そうだろう?」
俺が魔力を抑えたせいもあるだろう。緊張の反動で笑いが零れている。
「では、僕たちの旗を出そう。今日これより僕たちの新クラン『王国(クィンダム)』は始動する。日本だけじゃない。世界に知らしめてやろう。僕たちこそが最強の集団であると」
亮平は言いながらアイテムボックスから旗を出した。支柱に飾られたそれは魔力によって自動ではためく。
それに合わせて【魔銃騎士団】と【魔甲戦車】のボディに旗と同じマークを浮き上がらせる。
太陽と王冠と剣と人。
太陽を包み込む剣の女王という感じで図案化されたそれが『王国』の旗だ。
「では、行くか」
気軽にそう声をかけ、俺たちは事態の中心地となった塔へと移動を開始した。
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