98 バトル・オブ・AKB 02 佐神亮平視点
亮平はその知らせを冒険者ギルドアプリから知った。
「うわぁ……」
事が終わった後の緩い倦怠感の中、亮平はズボンだけを穿いてスマホをポケットに突っ込むと、ベランダに出た。
亮平の住んでいるマンションからでは状況の目視はできない。
「アキバドルアーガがついに決壊か」
いつか、そうなるのではないだろうかという予感はあった。
大勢の異世界転移者たちが力を持って帰還し、そしてそんな自分たちの力を振るう先としてダンジョンまでも現れる。
ここまで自分たちの都合のいい展開が続いて、それでこの変化がおしまいと考えるほど亮平は楽観論者ではない。
誰かが何かをするための下敷きとして異世界帰還者とダンジョンはあるのではないか?
それはごく自然な推論ではないかと、亮平は思っている。
ただ、その変化を促す何者かに自身が抗えるのか? という疑問は回答を放棄するしかない。
勝てると考える根拠がまるで見つからないからだ。
「しかし、彼女と知り合うことができたのは幸運だよね」
もちろんそれは封月織羽のことだ。
いままでとは明らかに違う挙動を見せたダンジョンボスと出会った日に、同じ場所に居合わせた不思議な異世界帰還者。
瑞原霧が引き合わせたというのもまた、亮平にとってまさしく運命的だと思わせた。
なにしろ、いろんな異世界帰還者と出会ったが、いまのところ霧以外で『占い師』というクラスを持っている者に出会ったことはない。
ほとんどの者は彼女の能力に懐疑的だったが、亮平だけは絶対に手放すべきではないという勘が働いた。
そして今回も……。
「とりあえず、仲間との合流地点を決めるか」
亮平のスマホにはギルドアプリの通知に気付いた仲間たちからの連絡が溜まっていく。
みな、新クランに参加する仲間たちだ。
その中には政府や自衛隊の対応を懸念する内容もあるが、誰一人として戦場に赴くことに後ろ向きな発言はない。
その辺りは亮平がしっかりと吟味している。
吟味しすぎたせいで参加人数が思ったほど集まらなかったが、創設メンバーとしてはこんなものだろう。
「これは追い風になる。いや、するんだ」
この騒動の末に、世間は新たなクランの力を思い知ることになる。
「あっ、ギルドアプリの通知は東京限定か? となると織羽ちゃんには届いていないか」
さっそく知らせておく。
彼女ならきっと距離の問題など無視してやってくるだろう。
むしろやって来てくれないと困る。
「亮平! なんか大変なことになってる!?」
鼻歌交じりにスマホを弄っていると、赤城綺羅をはじめとした亮平のかわいい子たちがベランダに雪崩れ込んできた。
「知ってる。いま、他の連中に指示をしてるところだよ。支度をしたら僕たちも行こう」
「ええ、そうね」
「いやぁ……拠点を奇襲だなんていつ以来かな? 小さい砦で山賊と変わらないことをしてた時はよくあったなぁ」
最初の頃は誰が味方で誰が敵かわからなかったから、少数で山にこもって戦っていた。
その頃のことを思い出して頬を緩ませる。
「そんな呑気にしてることなの?」
「呑気にしてるわけじゃないけどさ。ほら……」
しばらく言葉を探した亮平だが、うまい言い回しが見つからなかったので諦めて素直に言ってみた。
「シミュレーションゲームって勢力を成り上がらせる最初が一番楽しいよね。いまってその気分」
「うわっ、最低」
やっぱり理解してもらえなかった。
そんなノリとはいえやるべきことをやらないわけではない。
むしろここで目立てば後が美味しいと思っているだけに、真面目だ。
準備を終えた亮平たちは自らの足で秋葉原に向かった。
全ての魔法に適性のある賢者クラスを持つ咲矢春だが得意なのは補助魔法だ。全員に身体能力強化の魔法を行うとビルからビルへとパルクールを決めていく。
「車を使うより、まっすぐ行った方が早い」
「まさか、日本でこれをする日が来るとは思わなった!」
「はははは! それはちょっと考えが甘いかな」
かわいい子たちの愚痴を笑い、亮平は唇を引き延ばす。
「僕たちが僕たちのまま戻ってきたときから、そんな未来があるはずもないさ」
そんなわけで亮平たちは秋葉原に到着した。
「さて、とりあえず仲間が合流するまでは、この場所を守りつつ要救助者を拾っていく。オーケー?」
「「「了解」」」
「綺羅と纏はこの周辺の安全確保を。春は合流した仲間たちとの通信環境を構築してくれ。パーティが三つできるまではその場で待機」
「「「了解しました。剣聖」」」
話していく内に亮平の雰囲気が変わっていく。
それを理解して三人は口調を変えた。
「都市の奪還作戦。要救助者有り。現在戦力不明。状況は混沌。楽しい楽しい戦国時代の始まりだ」
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