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オークションでは順番通りペギーとアーロンが黄金のランダムボックスを落札した。
ペギーの方はどうだったかわからないが、アーロンの方は霧が見ても杖らしきものが出てくる未来は見えなかった。
「そうか。ちなみにお尋ねするが、どんなものが出てきたかわかるかな?」
と、アーロンに質問されて霧は記憶を掘り返して説明する。
「そうですね。宝石に、布、剣、牙のような物に……」
「その中で私が喜んでいた物はないかな?」
霧の説明でピンとこなかったのか、アーロンがさらに追加の質問をする。
「嬉しそう? そうですね、布のときだと喜んでいたような?」
「そうか。お嬢さん、できればその布を手に入れたいのだが、できるだろうか?」
「いいですよ」
そういうわけでアーロンは布を手に入れた。
『神鉄繊維の反物』
繊維状にした神鉄オリハルコンで編まれた反物。縫製には特殊な道具が必要。
「これは……大当たりだな」
「道具が必要らしいぞ?」
「持っているんですよ」
「ほう」
「会社の装備担当に渡せばよい防具を作ってくれそうだ」
「そりゃよかった」
嬉しそうなアーロンというのはなんか珍しい気が。
「チャンスは後二回か」
これ、手に入るのかね。
「そもそも手に入らないってのは予想外だったな」
霧の力で当たりを操作できるようになったが、そもそも狙いの聖者の杖とやらの姿がない。
いや、ホーリーの言う聖者装備らしきものがありそうにないんだが。
「これはもしかしたら余計なことをしたんじゃないか?」
「だとしたらそれはそれでよいのう」
とエロ爺が笑う。
「あれはイケメンのナイスガイぶっておるが、腹の内は真っ黒じゃぞ。奴が目的を達成できないということは、つまり奴の野望が進まんということじゃ。良い気味じゃろう」
「爺さん」
「な、なんじゃ……」
「ご主人様、それではお嬢様に嫌われてしまいますよ」
鷹島に指摘されてエロ爺が愕然とする。
「そ、そんなわけなかろう!? 織羽は腹黒男子が好みのはずじゃ!」
そんなのが好みなんて言った覚えはねぇ。
「同じ腹黒ならイケメンの方が圧倒的勝利じゃないか」
「ぬあっ!」
俺の指摘にエロ爺が心臓麻痺しそうな顔で固まってしまった。
どっちも好みじゃないけどな。
「まぁ……ミスター・ギルバーランドも承諾した作戦なのですから目的の物が手に入らなくても気にすることはありませんよ」
良いものが手に入ったホーリーはとても良い顔でその夜を締めくくった。
あ、今夜のオークションでミスリルショートソードが出たが一億円で売れた。そこまでの高値じゃないが、どうもこれは俺が出した異世界宝石のせいで素材狙いの連中が出し惜しみしたのだろうとのこと。
つまり自爆だ。間抜け。
そんなわけで五日目である。
朝食後に追加を食べにレストランに行く。鮭定食があったのでモリモリ食べる。焼き鮭とご飯美味しいです。
昨日は久しぶりに良い運動をしたので、栄養が体に良く染みこむ。身体能力が上がっていくのを感じるね。
「…………」
俺の前で霧が難しい顔でコーヒーを飲んでいる。
他の連中は自室に戻ったりした。
Lも昨日のダンジョン戦でなにかを刺激されたらしく、今日は作業すると宣言して部屋に戻っていった。
「なに考えてるんだ?」
「どうしてうまくいかないのかと思って」
「宝箱か?」
「そう」
難しい顔のまま霧が頷く。
「ホーリーさんに話を聞いていた時、二つの未来が見えたのよ。成功する未来と失敗する未来。二つの未来が見えたのは初めてだからきっとこれは何かやり方があるんだと思って……私が、運命に直接介入できる方法があるんじゃないかと思って」
「実際、中身の操作はできたじゃないか」
レベルアップに意味があったかどうかはわからないが、霧が考えていたことができるようになったのは確かだ。
「問題なのは宝箱の……ゲームで言う乱数だったか? それが聖者装備とやらが出るのに当たらなかったってことだし。霧は当たる未来も見えてるわけだからそう信じていたらいいんじゃないか?」
信じる心は大事だ。
ていうか、霧が気に病むことでもないだろう。
「彼のことはどうでもいいのよ。私は自分の能力の探求をしたいの」
「それは俺の仲間らしくてグッドだな」
「もう」
なんてことを話していると近づいてくる気配があった。
見れば話題のホーリーだ。
「やぁ、少しいいかい?」
「ちょうど食事も終わったところだ」
「それはよかった」
今日は秘書もボディガードもいない。いや、近くにはいるんだが視界に入らないようにしているのか。
お偉いさんになると一人になるのは難しいもんみたいだからな。仕方ない。
「昨日の宝箱はどうだった?」
「出なかったよ」
「そうか」
「まぁ、くじだからさ」
さすがに「占いで見たけどそもそも当たりがなかったぜ」とは言えない。アーロンは自分にとっていいものを手に入れたし、俺が手に入れたものも使い道はある。ていうか当たりといえるアイテムだった。
……うん?
いま、なにか引っかかったな。
なんだ?
「……僕がどうして聖者の装備を揃えようとしているか、教えていなかったよね」
「いや、別に知りたくないが?」
「そう。あれは一人の女性との出会いが始まりなんだ」
「だから聞いてないって」
「五年前だよ」
こいつ俺の話を聞く気がねぇ。
「異世界から帰ったばかりの僕はこちらでも世界を取れると確信していた。驕っていたんだね」
そして止まらねぇ。
「僕は自身の回復能力を売りに心霊治療を始めつつ、昔の仲間を集めていった。その途中でダンジョンや冒険者ギルドの存在を知って自分の目論見の甘さを思い知らされたけれど、それでもまだ目標は変えていなかった」
だけど、彼女に出会ってしまったとため息とともに語る。
いや、聞きたくないんだがね。
「彼女の名前はマイア。僕の回復魔法を頼りにやって来た女性だ。だが、僕の魔法では彼女を癒やせなかった」
その挫折が彼女の治療への執念へと変わり、さらには愛へと変化したと。
素敵素敵。ほら見てこんなにサブイボが。
映画もドラマもアクション要素過多が好きなのです。恋愛押しも泣けるとかもノーセンキュー超ノーセンキュー。
「あの日から、僕の野望は世界ではなく彼女を癒やすこととなったんだよ」
「ああそうかい。それで、どうして聖者装備に行きつくんだ」
早く結論にいって欲しい。
俺の魂からの懇願が届いたのかどうなのか、ホーリーが少し緩んでいた表情を引き締めた。
「とある情報筋から黄金のランダムボックスに入っている聖者の装備セットのことを聞いたんだ。それを揃えるととある特殊な魔法を使用できるようになる」
「で、その魔法ならその恋人を癒やせるって?」
「そんな、恋人だなんて……僕はまだ告白もしていないんだから」
「乙女か」
アメリカ男がぐねぐね照れんな。
その日にキスしてベッドインとかしてそうな連中の癖に。(※あくまでも織羽の偏見です)
「そういうわけで僕はどうしても聖者の杖が欲しいんだ。君たちには僕のこの心だけはちゃんと理解してほしくてね。どうか、よろしく頼む」
そう言うと、ホーリーはまるで日本人のように俺たちに頭を下げてから去っていったのだった。
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