74 瑞原霧視点


 ルーサー・テンダロス。

 名前を聞いた時は男だと思っていた。

 だから安心していた。織羽は男性には興味がない。

 だが、もう一つわかっている。

 それが霧を心配にさせる。

 彼女はおっぱい星人だ。

 ベッドの中や一緒にいる時に他の女の子に向ける目でそれはよくわかる。

 そしてルーサーは女だった。おっぱいが大きい白人女性。金髪碧眼。ちょっとオタク系な雰囲気があるけれど、胸の質量に反比例するかのように細い。

 でも白人とは思えないぐらいに背が低い。霧よりも低かった。だからこそ胸の大きさがとてもアンバランスだった。


「仲がいい人はLとかルーシーとか呼ぶからそっちでもいいわよ」


 なんて言う。

 Lはともかくルーシーって。長さ違わないじゃない。アメリカ人の愛称は略称とは違っていてなんというかもやっとする。

 そんな二人は出会うなり部屋に戻って玩具を見せあっている。

 裸になるよりはいいかもしれないけど水着のままで床に座り込んでアイテムボックスからいろんなものを出している。

 金属でできたムカデとか幽霊みたいな鮫が出て来てルーサーは感心している。


「へぇ、魔導爆雷はともかくアストラル・シャークが入るなんて、君のアイテムボックスは大きいいんだねぇ」

「まぁな」

「それはすごいけど、で、君はボクにどんな玩具を見せてくれるんだい?」

「そうだな。たとえばこんなのはどうだ?」


 なんてことを言って織羽が出現させたのは部屋の天井に頭が届きそうな全身鎧だった。

 こんなの、普通の人が着られる大きさではない。

 ということは?


「へぇ、ゴーレム? もしかして君も魔導技師だったりするのかい?」

「いいや、俺にはそういうクラスはないよ」

「クラスはない?」

「だけど、こういうのも作れる。で、だ」


 今度はなにやら薄赤いゼリーみたいなものを出してきた。織羽の得意なスライムのようだけれど、中になにかが入っている。

 霧の位置からは超特大果実入り葡萄ゼリーのように見えるけれど、きっとそんな美味しいものではないのだろうなと察して、虚無の気持ちになった。

 どうせ材料はキモいに決まっている。


「ああ、これはこれは王様? お久しぶり」


 と、ルーサーがそれに向かってひらひらと手を振る。


「いまさらだけど日本語うまいよな?」

「え? うん、だってボクって日本生まれだからね」

「そうなのか?」

「そっ、両親は米軍基地で働いてたから。両親が国に帰ることになったときはボクは大学生でこっちに残ることにしたの。異世界に行ったのは大学の時で、そのときにこの王様とも知り合ったんだよ」


 スライムの中を見ながら王様とやらいう人物の話をしている。

 それが示すことをあえて考えないようにして、霧はゴーレムを見上げて「大きいなぁ」と呟いた。

 ていうか、それを見て動じないルーサーの精神は一体どれだけ頑丈なのか、あるいはずれているのか。


「王様は刺激的な仕事をくれるから今まで付き合っていたけど、まぁこういうことになっちゃうだろうなぁっていうまんまの未来になっちゃったねぇ」


 そんなことを言いながらルーサーはスライムにまた手をひらひらさせている。

 何回もそれをするということは、もしかしてあのスライムに収まっているサッカーボール大のなにかは生きているということなのだろうか?

 ルーサーもだけど、それを作ってしまう織羽の精神にも首を傾げてしまう。


「で、これをどうするの?」

「賞金かけてる連中が欲しいのはこいつの命と情報だろ? それはくれてやるから、俺はこいつのクラスと能力をもらおうと思ってな」

「ふむふむ」

「バイオロイドって興味ないか?」

「おっ、ファンタジーからSFへ行っちゃう? いや、サイバーパンクかな?」

「どっちでもいいよ。どうだ?」

「まぁ、面白そうだね」

「だろ? 俺も魔法生物とアンデッドは作れるけど有機と無機の融合体っていうのは初挑戦だからさ。あっちじゃそういうのを研究する暇もなかったし」

「どっちも作れるとかそれなんていうチート? ずるいなぁ」

「ともあれ、どうよ?」

「義肢は作ったことあるからその応用でいけるかな? やる価値はあるね。やってみたい」

「オーケーオーケー」

「でも問題は内臓系じゃない?」

「人間扱いする気はないから脳を動かす栄養素さえ取れればいいよ」

「うっわひっど」

「興味があるならそっちもおいおいな。それに、俺たちの存在が認知されるまではそこまで手広くできないわけだし?」

「実際、医療業界はひやひやものだと思うよ。公表されるまでこっちの技術は混ぜ込めないし、でもタイミングをミスると全部をどこかに持ってかれるかもだし」

「怖い怖い」

「まっ、特許関係のことだから心配してるのは全方位どの業界も、だろうけどね」

「ていうか、いつまで秘密にしとく気かね?」

「どうだろうね。大きな事件が起きるか、どこか大国が我慢できなくなるか、どっちが早いかのチキンレースって感じよね」

「事件の方が面白いなぁ」

「その時には第三次世界大戦並みの大混乱もありえるかもよ」

「ウォーキングデッドかインディペンデンスデイみたいなのもありだな」

「被害を恐れないなぁ」

「日本人だから日本は守ろう。後は知らね」

「昔は日本沈没とか自虐は日本の方が得意だったのに。ゾンビ物が流行ってからは海外の方が得意なイメージだね」

「ゾンビ物は最終的には一番怖いのは人間ってなるのが納得いかない。もっとゾンビをバッタバッタして欲しい」

「ゾンビっていえば、あれってなんで動いてるの? 死んでるし腐ってるし、筋肉なんてぼっろぼろでしょ?」

「ああ……あれはもう肉なんておまけですよ、な感じ。基本は肉付きスケルトン。特殊能力持ってる連中は肉の部分にいろいろ仕込まれちゃってるってだけ。動きの基礎は全部スケルトン。骨の髄の部分に魔力の筋みたいなのが走っていて、それで繋がってるんだよ」

「やっぱりそれかぁ」

「骨と言えばゴーレム作るときのバランス制御で目から鱗なのが足の指なのよな」

「わかる。二足歩行機はバランスの中心点とそれを維持する機構がね。まさか足の指があそこまでバランサーに関わってるとは思わなかったよね」


 話が止まらない。

 つまらない。

 霧は次第にむっつりと口をへの字に曲げ、出されたままの特大葡萄ゼリーのことも忘れて自分のベッドで読書を始めた。いつもは紙の本をよむけれど、旅行とあってはなるべく荷物を少なくしたいから電子書籍にしてみた。

 慣れるとこのサイズ感も楽かも。

 あっ、でも前より目が疲れるかも。


「霧~霧ちゃんや~」


 ようやく没入できたところで織羽が水を差した。


「なに?」

「Lって女OKだってさ。する?」

「~~~~~っ!」


 羞恥心のないその言葉に一瞬怒りで思考が染まった。

 Lって!

 もう愛称呼びになってるし!

 ほんと面白くない!

 だけど……だけど……。

 あの乳に興味あるのもまた事実!


「……ええ、いいわよ」


 こうなったらその体に思い知らせてやる。

 この瑞原霧様を!




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