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 こんなところまできてちんたらスマホを見て過ごしているだけなわけもなく……。

 俺の放ったアイズキャリオンスライムは幻影魔法で身を隠して山のあちこちに散らばって戦況を眺めていた。

 その目を通して、俺も戦場を見守る。

 こっちの兵士はアーロンのスキルによって能力に補強がかかっているようだ。

 能力アップに情報共有……指揮官としては有能なスキルだな。

 ただ、向こうの指揮官も似たようなことができるのか戦況は膠着状態に陥っている。

 異世界帰還者で編成された部隊は待機状態となっているみたいだな。目標を見つけた時に即座に確保するためだろう。

 で、目標はどこかな……と。

 おっと、見つけた。

 スキルで姿を隠していたみたいだが、わるいがこの手の目くらましの見破り方は幻影魔法の師匠ダキアから嫌というほど教わっている。

 さて、どうするか?

 メールが来た。なになに?

 ふうむ……。

 おっと、こっちでも目標の周りで異変か。忙しいな。

 へぇ、山をガタガタにぶっ壊すか。なにをするのかな? ちょっと調べてみるか。

 アイズキャリオンスライムはすでに敵陣への潜入にも成功している。

 通信機で五井華崇を脅していた声からしてこいつがボスか。

【鑑定】したらばれるかな? まぁいいや、やってみよう。



ネーム:ガイル・コルネオ

レベル:180

クラス:覇王



 おお。

 ついに出たよ、王だ。

 レベルだけなら佐神亮平より下だな。

 どんな能力構成なんだろうな。調べてみたいが、さすがにこれ以上深く【鑑定】をしたら気付かれるだろうな。

 それより、なにをどうやってガタガタにする気なのか。


「アレを出せ」

「はい」


 ガイルは中南米人っぽい、よく日焼けした男だ。日本語が堪能で助かる。そいつの命令で運ばれてきたのは二つのアタッシュケースだった。

 内部にはクッションで守られた金属筒が二つずつ収められている。

 封が開けられて逆さにするとゼリー状の薄青い液体と共に金属質の外殻を持つムカデっぽいものが出てきた。


「#####」


 ゼリーから脱出する四匹の金属ムカデに向かってガイルが何かを言った。

 それがムカデを動かすパスワードだったのだろう。


「#####」


 続く言葉が座標指示とかだろうか? 金属ムカデはガイルの言葉が終わるやその場で地面に潜っていった。

 あれで三十分以内に目標に到達して何かを起こして山をガタガタにするということか。


 よし、確保だ。

 アイズキャリオンスライムの一部を形質変化させて土中潜行能力を獲得すると金属ムカデを追いかけさせる。

 錬金魔法で作ったスライムは応用性が高くていい。

 土中で金属ムカデに追いついたアイズキャリオンスライムは土中潜行機能に特化した先端以外の部分が広がって対象を包み込む。

 いくらか抵抗したようだが無駄なことだ。戦闘中の建物を保護しておくだけの保持能力があるからな。

 それでもさすがに自爆機能とかあったらどうなっていたかはわからないが、魔力的真空状態を作ると大人しくなった。

 自律機能のない魔導兵器にはよく通じる手だ。防衛策として自爆機能や自壊機能があったりするのだが、そういう能力もなさそうだ。

 さてさて、どんな能力かな?



『移動型魔導爆雷』

 魔導技師ルーサー・テンダロスが開発した魔導兵器。目的地に自ら移動する爆弾。命令次第で時限式にも地雷式にも誘導式にもなる。



 なるほどゴーレムを使った自爆装置みたいなものか。考え方はともかくこいつの機構は面白いからコピーさせてもらおう。

 機構そのものよりも爆発力はどうなんだ?

 戦術核を超えた兵器とやらのヒントになるものはあるのやら……?

 ……と、深めの【鑑定】をかけていたら千鳳が目標を見つけたな。

 状況が動き出す。

 両陣営の異世界帰還者たちも動き出した。

 全員、動きの速さに特化した連中ばかりだな。

 千鳳が目標を確保してこちらへと逃げてくる。良い判断だ。彼女には空を飛ぶという優位があるが人質を連れているとそういうわけにもいかないし、常人よりは強いが異世界帰還者に対してはそこまで優れているというわけではない。

 戦闘員が他にもいるのに、彼女一人が人質抱えて戦闘までする必要もない。

 彼女が俺に褒められて喜ぶかどうかは知らないが、運転手としてお世話になっているのだから俺なりにサポートはさせてもらおう。アイズキャリオンスライムはちゃんと彼女に付いていっている。いざというときの守りは可能だ。

 あっ、初撃を見逃したのはミスじゃないぞ、わざとだ。死ぬほどじゃないのはわかっていたし、気付かれないと有難がれないからな。

 俺に気付かれないところでこっそり支えるなんていう謙虚さはない!


「連れてきました!」

「よくやった」


 山から下りてきた千鳳は他の兵士たちに目標の五井華崇を預けた。


「あの……」


 アーロンに労われた彼女が俺のところにやって来る。


「ご苦労さん」

「いえ……あの、助かりました」

「どういたしまして」


 なにを言っていいのかわからないまま礼を言ったという感じだった千鳳は、俺が否定しなかったことで先ほどのことが気のせいではなかったのだと理解したようだ。


「お嬢様は一体どんな力を……」

「まぁ、それはそのうち」


 どう説明したものかと考えるのも億劫でそう流す。霧には語ったのだから千鳳にも語っていいのかもしれないが……同じ話を何度もするのが面倒だ。

 俺がそれとなく受け流すと千鳳はさらに気になったような顔をしたが、五井華崇が騒ぎ出したので気がそれた。

 どうやら爆弾のことをアーロンに伝えたようだ。


「なんだと!?」

「すぐに逃げないとだめなんだ!!」


 五井華崇が伝えたガイルの脅しにアーロンの周りがざわめく。


「目標は達した。即座に撤退だ!」


 アーロンの指示に山中から聞こえてくる戦闘音が減っていく。まだ残しているアイズキャリオンスライムの監視からもこちら側だけでなくガイル側の兵士も撤退を始めている。

 魔導爆雷が奪われたことに向こうは気付いていないのか。だとしたら欠陥があるな。そこら辺は俺が改良してやろう。

 そうだ。山中に残っている装備はアイズキャリオンスライムを介して回収しておこう。この手のミリタリーな装備を自前で手に入れる手段はまだないからな。なにかに使えるかもしれないし、使えなくとも俺の中の男の子魂が満足する。


「お嬢様! 早く」

「ん? ああ、わかってる」


 まだアイズキャリオンスライムを回収できてないだが……まぁいいか。座標はわかってるから後で召喚魔法で呼び戻すとするか。

 爆発を期待してる連中には悪いが、何も起こらないと思うぞ。

 むしろ、あの状態で爆発させられたなら、なにがなんでもその技術を解析しないとな。




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