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 見るものを焼き払う霧の【火眼】で近づくオーガは攻撃する暇もなく炭になった後で青水晶の欠片になっていく。

 試しにバフで視覚を強化したり、錬金魔法で作った偵察用のチビゴーレムを放ってその視覚を共有させたりと色々試してできることできないことも検証しているから出てくる敵は総じて実験体でしかない。


「いやあ、焼いたり焼いたり」


 笑いつつ、俺はキャリオンスライムに回収させた青水晶をアイテムボックスに放り込んでいく。


「ごめん、ちょっと休みたい」


 そんな俺とは正反対に霧はぐったりと座り込んでしまった。

 魔力的な疲労はそんなにないはずだ。

 使っていたのはほぼ俺の魔力だしな。とはいえ自分の物ではない魔力をあそこまでうまく扱えていたのは【瞑想】のおかげだ。


「なんだか、レベルアップのし過ぎでくらくらする」

「ここのオーガは強そうだったから経験値も美味かったか?」

「数値が出るわけじゃないからわからないわよ」


 そう言って霧は自分のアイテムボックスから出した水筒に口を付けた。中身は俺特製のスポーツドリンクだ。回復力が高いぞ。

 軽く霧を【鑑定】してみる。


ネーム:瑞原霧

クラス:占い師/瞳術士

レベル:65


 最初に確認した時が25とかだったか?

 だとしたらここで一気に40近く上がったってことだよな。

 おや?


「え? なに?」


 変化に気付いて霧も慌てている。

【鑑定】で表示されていた文字がぼやけ、そして表示が変化した。

 瞳術士が魔眼導師になった。


「おお、すごいすごい」


 レベル六十代ってことは村上辰と同じってことだ。

 それならクラスアップをしていたっておかしくないよな。


「色々急すぎるわよ」

「これぞパワーレベリングだな」

「はぁ……」


 ああ、これは精神的に疲れてしまってるな。


「残りは俺が片付けるから、ゆっくり休んでな」

「そうさせてもらうわ」


 霧が立ち上がるのを待って休憩を終了する。

 それからは俺がずんずんと切り払っていく。

 出てくるのはやはりオーガばかりだ。死体は青水晶に変化する前にアイテムボックスに放り込んでいく。以前にインスタントダンジョンでゴブリンを回収した時もそうだったが、一度アイテムボックスに入ると再び取り出しても青水晶には変化しない。

 ということは青水晶を元にオーガを作っているわけではなく、オーガの死体が青水晶に置き換えられているのか?

 このダンジョンっていうのはよくわからんなぁ。

 誰が、なんのためにこんなことをしているのか?

 量産的に異世界帰還者を増やしているような感じもあるし、誰かが何かを企んでいると考えるべきなんだろうが……さて。


「あなた……疲れないの?」


 何度目かの波を終えたところで霧が呆れている。


「魔力で全部を補っている状態だからな魔力は減ってる」

「なら、疲れているの?」

「まぁ……」


 とはいえ俺の魔力総量からしたら減少分なんて微々たるものだし、それに……。


「軽い【瞑想】で周囲の魔力を吸収しているしな」

「つまり、疲れていないのね」

「そういうことになるな」

「とんでもないわね」

「いやぁ、まだまだ」


 これより上を知っているからな。

 とはいえアンヴァルウに肉体が違うのだってことを説教された後だからまっすぐにあの位置を目指すつもりもない……が、かといってあの位置にはもう戻れない、なんてことはないと思っている。

 まっていろ、必ず戻ってやるからな。

 いや、むしろイング・リーンフォース時代を越えてやる。

 超えてどうするんだ、なんてことは考えない。走るのはやめられないのだ。

 なんてことをしばらくやっている内にドアに辿り着いた。

 途中に脇道はなく、本体であろう劇場に沿った通路をひたすら歩き続けた末に舞台に向かった扉がある。


「ゴールかな?」

「どうかしら?」


 立派なドアを開けるとそこは薄暗い観客席が広がっていた。


「おや、ほんとにゴールだ」

「あれ?」


 どうやら隣にもドアがあったようで、そこが開いて亮平たちが姿を現した。


「同時かな?」

「いや、俺がちょっと早かったな」

「ふ~ん。でもまだボスは倒していないよね」

「それも俺の方が早いさ」


 同時だったのが意外だったようで亮平は負けん気を刺激されたようだ。貼り付けた笑みが硬かった。

 彼らの後ろにぞろぞろといたはずの運搬役がいない。どうやら全員の荷物が一杯になって戻ってしまったようだ。

 む、そんなやり取りをしていたというのに俺と同時か。

 むむ、生意気な。


「さて……ならボスはあれかな?」


 円形に広がる観客席が囲われたのは土剥き出しの舞台だ。サーカスなんて実際に見たことはないが、なにかの映画で見た記憶では確かにこんな風だった。

 そんな舞台にスポットライトが下りた。

 そこに一際豪華なピエロの衣装を着たふとっちょのオーガがいた。自分の体躯を超えた巨大な玉に乗っている。一見はただのふとっちょだが子供まで全身マッチョのオーガが見た目通りのデブだとは思えない。相撲取りのように筋肉の厚い層が腹にできていると考えるべきだろう。



『道化師ポットナード』

 ダンジハール宮殿舞台に配置された木偶オーガ型魔導兵器。古代に存在した大道化師ポットナードを模している。

 道化師ポットナードを倒すとダンジハール宮殿舞台は消滅する。



「ボスで間違いないな……うん?」


 いま、【鑑定】の文字が乱れた。


「ポポ……ホーホホホホホホホホホホホ!!」


 舞台に立つ道化師ポットナードがいきなり笑いだす。


「え? 壊れた?」


 綺羅がそんなことを呟くのも当然だろう。

 バランスを崩して乗っていた玉から落ちてもなお笑うその様子は尋常なものではなかった。しまいには乗り手が落ちた反動で少し跳ねた玉が道化師の上に落ちた。


「ぐへっ! ホホホホホホオホホホホホホホホホホ!」


 それでもなお笑っている。

 出しっぱなしだった【鑑定】の文字が砂嵐に呑まれ、新しい文字を映し出す。


「ホホーホっ!」


 突然の異常に虚を突かれ、亮平でさえもその行動には自分を守る以外にできなかった。

 いきなり俺たちの頭上に拳大の球が現れると破裂した。

 中から飛散したのは小麦粉のような白い粉。

 亮平は白い粉から逃れ、俺は魔法で風を起こして全てを吹き払う。

 それでも一瞬、視界を覆われた。


「しまった!」


 亮平が叫ぶ。

 白い粉が吹き払われた後には俺と亮平しか残っていなかった。

 ではどこに消えたのかといえば……。


「ホホホホホホホホホ!」


 道化師の笑い声がうるさい。

 だが、そこに注がれるスポットライトの中にここから消えた霧たちは縛られ、吊り下げられていた。


「我、顕現ホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 やかましく、道化師が吠えた。





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