24
そのままマンガ喫茶生活とか路上段ボール生活とか近寄って来る変態どもの魔手とか、そいつらを面白おかしく撃退する方法を考えてニヒヒヒ笑うとか……。
そんなことを考えていたというのに翌日の放課後には学校前に迎えのロールロイスがやって来ていた。
「なんで儂に教えない!」
出迎えた鷹島に誘われるまま車に入ると中には怒りマックスなエロ爺……封月昭三がいた。
どうやら勝手に家なき子になっていたことが気に入らないようだ。
だってなぁ、身の危険なんて起きるはずもない。間違って俺が前後不覚にでもなったら……貞操よりも先に組み上げている自動防御でどこまで被害が発生するかを心配するべきだ。
「は……織羽になにかあったらどうする気だ!」
「いま、初って言いかけたからバツ」
「バツじゃないわ!」
「まぁいいや。それで、もしかして部屋ができたのか?」
「ああ」
「ご苦労さん。それじゃあ行こうか」
「お前……もっと儂に言うことはないのか?」
「ありがとうおじいちゃん♪」
「よし、行こう」
安い爺だよ。
そんなわけで向かったのは駅前にあるタワーマンションだった。
こんな田舎町に不釣り合いのタワマンだと思っていたが、エロ爺の所有物件だったとは。
管理人だという鷹島の息子夫婦を紹介されてからマンションに入る。
「ここの最上階がお前の部屋じゃ」
「最上階?」
「そうじゃ」
「何号室だよ」
「だから、最上階じゃ」
エレベーターのボタンは階数ではなくテンキーだった。
県庁所在地でもない田舎町には高過ぎる四十階マンションで、鷹島がテンキーを四十一と入力する。
うわ~お。
「最上階はカードキーがなければエレベーターが開かないようになっております。宅配便などの荷物の類は息子たちが預かりますので住所の指定などはそちらでお願いいたします」
「お、おう」
テキパキと鷹島に説明されている間にエレベーターは四十一階に到着した。
エレベーターが開くと、そこはすでに玄関だった。
「出た。フロア全部使い」
まさしく金持ちの所業だ。
「正確には全てではありません。半分はマンションに必要な貯水槽などの施設があります。残り半分がお嬢様の所有物件となります」
そちら側は窓がないので見えない作りになっているという。
高島の冷静な説明に導かれつつ部屋に入る。
メインで時間を過ごすLDK部分がかなり広く作られている。ここだけで織羽のかつての実家の一階部分、そして俺のかつての実家の延べ面積分ぐらいはありそうだ。
うん、織羽の実家もでかかったな。
そしてキッチン部分は……これ、バーを模しているな。酒類はすべて撤去されているが明らかにそれらが並んでいただろう棚がある。
「ここってさ。もしかしなくても爺さんが愛人を連れてくるための部屋じゃないのか?」
俺が視線を向けるとエロ爺はあからさまに目を反らせた。
当たりか。
うん?
そういえば、このタワマン全てが爺さんの所有物件って話だったよな。
愛人のためだけに四十一階のタワマン作ったのか。
この爺さんもたいがいの金余りだな。
「ご安心くださいませお嬢様」
脂汗にまみれた爺さんに代わりに鷹島が答える。
「そのような用途に使用される前に旦那様は例の御病気にかかりましたので、ここは未使用のままでした」
例の?
「ああ」
つまり建てたはいいが使う前にボケたということか。
「それならいいが」
「よろしうございました」
たしかに、この部屋には濃い思念は残っていない。誰かが何かを致したという過去はなさそうだ。
「ていうか広すぎる。そこらのワンルームアパートとかでよかったんだがなぁ」
家具類もしっかり揃っているから追加で何かを買う必要はなさそうだ。
ていうかウォークインクローゼットを覗いたら服がびっしり並んでいたぞ。
うちの高校の制服もあったから、つまりすべて俺のものってことだよな。
いやぁ……これはキモイ。キモ過ぎる。
愛が怖いわ。
「儂の孫をそんなところで暮らせられるか! 時間があればお前のために百階のタワーマンションを作っておるわ!」
百階って……何年かかるんだよ。
そしてこの爺さん、高いのが好きなんだな。いや、屋敷は高さより広さ優先だったな。つまり、どっちかが必要ってことか。
「それ、他の孫にも言えるのか?」
「うん? 儂の孫はお前しかおらんが?」
「手のつけようのないクズだ」
「そんなに褒めるな」
「ああ、褒めてる褒めてる」
ツッコんだってエンドレスだ。さっさとほっとくに限る。
「……まぁいいや。もらえるもんは貰う。ありがとうおじいちゃん」
「ぐへへへへへ、いいんじゃよう」
「おい、気持ち悪いから早く連れ帰れ」
「申し訳ありません。さっ、旦那様、帰りましょう」
「ま、待て待て待て! 一緒に飯でもどうじゃ?」
「これからここの防犯チェックをしないといけないからな。無理」
「ぼ、防犯じゃと!」
「盗撮とか盗聴とかされたら困るからな」
「そそそそ……!」
「白状するならいまの内だぞ?」
俺が家なき子になったことを知ったのが早すぎるんだよな。
行動を監視していたんだろう。
なら、この部屋にも同じものがありそうだと思ったんだが、この反応だと当たりだな。
「旦那様……」
「む、むむむ……」
その後、爺さんの命令で設置されていた盗聴器とカメラが取り外された。
もちろんこれで全てだと信じないからこれからまた調べるけどな。
「ふう……」
一人になってから改めて部屋を確認する。広すぎるLDKの周りには書斎、寝室、客室、浴室、トイレ……とどれもこれもが広い。
しかも屋上の一部が庭みたいになっている。プチ空中庭園?
「すごいね、まったく」
庭に出て外の景色を眺める。ここで洗濯物を干していいんだろうかとか庶民的なことを考えて苦笑する。
「戻ってすぐにこの光景か」
もっと時間がかかると思ってたんだがな。
しばらくまったりしてからあっちで手にした財宝を換金する手段を見つけて、その過程で面白おかしいどたばたがあって、そんな金を持っている理由を見つけるためにまたどたばたして……途中で金が奪われるとかあってもいいよな。
ルパン三世みたいなことを起こしたかったんだが。
「こっからそれを起こせるかな?」
たくさんの異世界帰還者、ダンジョン、その裏で進行しているなにかの計画。
後ろめたいことがあるのかないのか。
なくても別に構わない。面白くさえあれば。
「さて……どんな姿を見せてくれるのか」
そのことを調べるのに意味なんてあるのか?
いや。
「……意味なんていらないか。せいぜい、俺の暇つぶしに付き合ってくれよ」
たぶん、俺は霧と同じなんだな。
俺と彼女はそれの現れ方が違うだけだ。
彼女は忌避し、俺は望む。
世界よもっと面白くあれと望むのだ。
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