第42話 自信
人間には得手不向きというものがあり、得意なものはとことんまで知識を吸収して極める人間も中には存在する。
ゴルザ国第三王子、ゴードンは魔法や剣の腕前はからきしであり、第一王子のジョン、第二王子のバルジよりも能力が劣る、所謂出涸らしで兄達にも貶されており、しょぼくれているのだが、機械に関しての知識はずば抜けて高く、この国のほとんどの機械を扱える。
ヤックルにとって機械は興味のある玩具に映り、スポンジの如くゴードンの教えを吸収していった。
特に熱気球では、ドラゴンの背とは違い風が緩やかであり、眼鏡がずれ落ちたりしない為、これにかなりの興味が湧いており、その知識欲にはゴードンは脱帽し、思わず教える事に熱を帯びた。
勝達はヤックルのキラキラと輝く瞳を見て、目が生き生きとしている奴は大化けするだろうなと思い、自分も負けるかと、怠け者のアレンはいつもは適当にやっている訓練に精を出している。
もともと運動神経があり、怠け癖でイマイチ力を発揮できなかったアレンが訓練所でトップクラスの実力を持つ勝と拮抗しており、その様子を見ているアランは、人は刺激を受ければ変わるんだなと感心しているのである。
一週間の訓練が終わり、ヤックルは勝達を町外れにる大きな規模のヤハル森林公園へと誘った。
「何だよ、見せたいもんがあるってよお! クソ疲れてるってのによぉ! 彼女でもできたのかよ!?」
アレンは訓練後に女郎屋に行くつもりだったのか、貴重な自由時間を邪魔されたのが気に食わない様子であり、ぶつくさ文句を言いながらオモコを吸い、公園に疲れた体を引き摺るようにして歩いて行く。
「まぁ、アレンさん、ヤックルさんは何かすごいものでも見つけたのかもしれませんよ?」
勝はいつも気弱でもやしのように貧相で根性なしでネガティヴなカヤックの変化で、何か素晴らしいものでも見つけたのではないかと期待しており、アレン同様に猛訓練で疲れた体を引き摺りながら公園へと足を進めていく。
「あのヤックルがここまで変わるとはねぇ……チキン野郎がねぇ。一体何を見せるのかしら」
マーラはオモコを咥えながら長くなった髪の毛に枝毛がないか指で弄り、魔法訓練で集中力を限界まで疲弊して、大きな欠伸をして勝達と共にヘロヘロになり歩いている。
「ん? 何だありゃ」
公園の方に近づくと、アレンは異様な物体と、それを取り囲む人の群れを、勝程では無いが、裸眼視力が1.0.から2.0にまで上がった目で見つける。
「?」
「ねぇ、あれってさぁ……」
勝達の視線の先には、テントに使われている頑丈な布を加工した風船状の物体が見えており、群衆の隙間からは見覚えのある眼鏡をかけた人間が何かを操作している。
「熱気球じゃねぇか! あいつ、とうとう自分のものにしやがった!」
「凄いわねあの子!」
マーラとアレンは、熱気球を見て感動しているのだが、勝は複雑な表情をしている。
「ふぅーむ……熱気球か、しかし彼が乗るとなると、一体誰が煉獄を……」
「何ぶつくさ言ってるの!? 行くよ!」
勝は彼らに促されるがまま、群衆が注視する熱気球の方へと走って行く。
「ちょっとすいませんね、通らせてください」
「すいませんね……」
アレン達は群衆を通り抜けると、ゴードンと楽しげに会話しているヤックルを見て、ニヤリと笑う。
「ヤックル! お前なんか凄いもの作ったのか!?」
「アレン! うん、これ僕が作ったんだよ!」
ヤックルはドヤ顔をして、熱気球を見つめる。
風船状に加工されたベージュの布に、専用のガス噴出装置をつけ、二名程乗れるカゴがある、小型の熱気球は元の世界で戦闘機などの飛行する物体に携わってきた勝からしてみても構造は簡易的であるものの、ドラゴン以外で空を飛べるものがあるのはこの国の人間にとってみて衝撃的である。
「凄いなお前!」
アレンは先日ボロクソに貶したくせに、この国初の熱気球を作り上げたヤックルを尊敬の眼差しで見ている。
「ヤックルさん、これは本当に君が作ったのか?」
勝はお世辞にも頭が良くないヤックルが、熱気球を作れた事をいまいち信頼できない様子である。
「うん、これ本当に僕が作ったんだよ!」
「え〜本当?」
マーラは疑惑の視線をヤックルに送る。
「本当ですよ、私が証人です」
ヤックルの隣にいるゴードンは、自信満々に勝達に告げる。
「ヤックル君は私が持ってきた本を見て、一からこれを作ったのです。何度か失敗はしましたが、試行錯誤を繰り返してこれを作り上げたのです」
「失敗とか試行錯誤ったってさ、本当に飛べんのかよこれ?」
アレンはゴードンの言葉を信用できず、本当にこれが飛べるのか疑心暗鬼に駆られている。
「飛べますよ、何度か飛んでますので大丈夫です」
「なんなら乗ってみる?」
ゴードンとヤックルの自信満々の不敵な笑みに、勝とアレンはある種の恐怖を覚えるが、マーラは興味津々である。
「私これに乗ってみたい!」
マーラは目を輝かせ、ヤックルに熱気球に乗せてくれとせがむ。
「うん、いいよ!」
ヤックルはマーラの手を掴み、カゴに飛び乗る。
二人のやりとりを見て、青春だな、と勝はニヤリと微笑みオモコに火をつけた。
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