管理人さんの夢
「泰さん、お帰りなさい」
塾のバイトからアパートに帰ると、美来が外に出て絵を描いていた。どうやら今日は夜景を描いているらしい。
「ただいま。今日は絵を描いてるんだね」
「泰さんが帰ってくるのが待ち遠しくて……それを紛らわせるためです。あ、ご飯はもう作ってありますよ!」
ニコリと可愛い笑顔を俺に向けて、美来はそう言ってくれた。それを見た俺も安堵からか自然と笑みが溢れる。ああ、やっぱり美来と一緒にいると落ち着けるな。
「本当にいつもありがとう。なんか、美来がいなきゃ俺生きていけるかわかんないな」
「そ、そんな大げさです……。で、でも私だって……泰さんがいない生活なんて考えられません。むしろ、私の方こそ泰さんがいないと生きていけないかも……です」
キャンパスノートで口元を隠しながら、美来は恥ずかしそうに言う。いや俺こそって言いそうになったものの、きっとそう言ったら美来は私こそって言い返すだろう。
「お互い一緒にいないとダメなのかもね」
だから結局、その結論になる気がする。
「……ですね。……ご、ご飯にしましょう! 外にいたら蚊に刺されちゃいます!」
そう言う美来は絵を描くときにずっと外にいたのに。なんてツッコミを入れたくなったが恥ずかしかったんだろう。かく言う俺もなんだけどさ。
と言うわけで俺たちは美来の部屋に行ってご飯を食べ始めた。今日の献立は美来が好きな炊き込みご飯とお味噌汁。それと焼き魚。和食中心だけどやっぱり美来が作るだけあって滅茶苦茶美味い。
「相変わらず美来の料理は美味しいや」
「あ、ありがとうございます! 私も泰さんが美味しそうに食べてくれる姿、大好きですよ!」
お互いにお互いを褒めあって、俺たちは楽しい食事のひと時を過ごす。……そういえば、さっき一緒にいないのが考えられないって思ったけど……実際俺たちはずっと一緒にいられるのかな? とふと思った。
「なあ美来。美来って大学はどうするの?」
「大学、ですか? そうですね……やっぱり美術系に行きたいなって思ってます。でもいきなりどうしたんですか?」
「いや……なんか数年後も俺たち一緒にいられるのかなあって思ってさ」
「……確かに、離れ離れになっちゃうかもですね」
寂しそうな顔をしながら、美来は一旦食事の手を止める。俺と一緒にいられなくなることを考えて、つい悲しくなってしまったのだろう。かく言う俺もやっぱり考えると寂しいし辛い。
「……でも、私、ずっと泰さんのことを好きでいると思います。だから……離れたとしても……またすぐに、ずっと一緒にいられるはずです」
「え……そ、それって……」
「……!!!」
今、さらっと結構大事なことを言われた気がした。美来も言った後に気が付いたのか、かあっと顔を赤くしてあたふたとしている。
「……だ、だって……ずっと泰さんと一緒にいたいんです。それが……私の一つの夢……なんです」
だけど、その状態でありながらも美来は懸命に声を出して……俺に思いを伝えてくれた。
「……そこまで言ってくれるなんて、ほんと俺は幸せ者だな」
「幸せなのは私もです。……それに、数駅先に美術系の大学もあります。もしそこに通うことになれば……離れ離れにはなりません」
「それは嬉しいけど……美来が行きたい大学を選んでほしいな」
「……それじゃあ、決まったらまた伝えますね」
と言うわけで少し先の未来が見えた気がした会話を終えて、お互い食事を済ませて一緒に食器を洗う。それが終わった後、美来が両手をこちらに向けてきた。
「……抱きしめてください」
「……いいけど、どうしたの?」
「……さっき、離れ離れになることを想像したとき……やっぱり怖かったんです。だから……それを解消してもらいたくて」
「……なるほど。でも抱きしめるだけでいいの?」
「……じゃ、じゃあ……キスもしたい……です」
「……可愛いなほんと」
「……え、えへへ」
俺は美来を抱きしめて、頭を撫でながら褒めると美来は嬉しそうに笑う。その後キスをお互いにして、今日はお開きとなった。
「それじゃあ、おやすみなさい、泰さん」
「おやすみ、美来」
俺は美来に見送られて、自分の部屋に戻る。とっても心がぽかぽかしているのは、やっぱり美来と一緒にいられたからだろう。
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