JKからの質問


 「やほー先生。今日も彼女とイチャイチャして来たの〜?」


 「な、内緒だよ」


 今日は塾のバイトがあったので、時間通り行って早速授業を始めようとしたのだが、やっぱり宮川さんから先制パンチをもろに食らってしまった。一応誤魔化してはいるものの、これだとまた授業が成り立たなくなってしまう。


 ちなみにもちろん美来とはイチャイチャした。


 「えー絶対したでしょ? 今日はどんなことしたの〜? キス? ハグ? それとも……」


 「言うわけないでしょ!」


 「あ、その反応ってことはこのうちどれかはしたんだ〜ラブラブだ〜」


 「う……」


 ほら、この通り宮川さんの手のひらの上。俺が不甲斐ないってのもあるんだけどさ……。


 「ほら、今日は数学やるから。勉強を頑張ろう」


 「えーやだ。だって数学なんて将来使わないし〜」


 宮川さんはめんどくさそうな顔をしながらそんなことをいう。まあ、あながち間違いでもないんだけど。俺は経済学部だから使ってるけど、大学生になったら数学やらない人は多い。


 「それは否定しないかなあ」


 「ほら!」


 「でも、いつか宮川さんのためになることも十分ありえるよ」


 ただ、全ての物事に無駄なことなんてないとも思う。だからそれを宮川さんに伝える。


 「そうかなあ?」


 「うん」


 「えー。じゃあ先生はいらない科目が役に立ったことあるの?」


 「まあ……そうだな。確かに俺も理科とはやる意味あるのかなあって思いながら受験勉強してたけど。結果としてちゃんと勉強しておいてよかったよ」


 「なんの役にたったの?」


 「直接的に役立ったわけじゃないけど……まあ、今の大学に入れて、ここにいられるってとこかな」


 「ふーん。それって彼女さんと会えたからよかったってこと?」


 「う……ま、まあそれもある」


 結局カウンターを食らってしまったけど。ただ、実際それが一番大きい。高校の時に受験を頑張ったからこそ、美来と出会うことができたから。


 「そっか〜。でも私役者になるから別に大学入る気ないしなあ。やっぱりいらないよ」


 「役者になるの?」


 「うん。小さな劇団にも入ってるんだ〜。ま、周り大学生ばっかなんだけどさ。そこで頑張って役者になりたいの」


 「なるほど……。なら演劇の勉強ができる大学に入ればいいんじゃない?」


 「え? そんなのがあるの?」


 初めて宮川さんが食いついた様子を見せる。なるほどなあ、大学に入る気が無かったからあんまり大学について知らなかったんだ。


 「あるよ。もし大学に行けるならそっちの選択肢も考えたらいいんじゃないかな?」


 「そうなんだ……じゃあ帰ったら調べてみるね。先生、ありがと」


 「どういたしまして。宮川さんのためになれて良かったよ」


 「ほんと知らなかったなー。今までの先生、勉強しろしろ言うだけでそう言うこと言ってくれなかったし」


 「まーそれは仕方ないよ」


 「まーね、私の態度最悪だし」


 「あ、自覚はあるんだ」


 「あー! 先生ひどーい! 先生他の人と違って怒らないし、めっちゃ優しいと思ってたのにー」


 「そりゃどうも。それじゃあ授業するよ」


 「ぶー。わかったよ」


 こうしてようやく俺は宮川さんの授業をまともにすることができるようになった。まあ、やはり勉強が嫌いなだけあってあまり出来はよくないが、全然巻き返すことはできそうだ。


 進路か……。そういえば美来はどうするつもりなんだろう。絵を描くことが好きだからやっぱり芸術系に行きたいのかな? それとも他の分野だったりするのか? 


 思えば今は俺と美来お互いに学校が近いから同じアパートに住んでるけど、もし美来が遠くの大学に行ってしまったら……やっぱ離れ離れになるよなあ。まだ先の話とはいえ、想像すると気が重い。


 それに美来がストレートで大学生になれば俺は大学三年。就活が迫る時期になってしまう。……なんか、残された時間ってあんまりないんだな。ずっと一緒にいたい気持ちこそあるけど……。


 「あ、先生今彼女のこと考えたでしょ?」


 「え、いや、その」


 宮川さんが問題を解いている間、ふと考え事をしてしまったのを見破られてしまった。はあ……なんでこんなにバレるんだか。


 「授業中は私のことだけ見てよ、先生」


 「ほんとそうだな……ごめん」


 「うん、わかればいいよ! それじゃこの問題教えて〜」


 「オッケー。これはね……」


 そして俺は宮川さんに授業して、それを終える。宮川さんも教えたところはよくわかったようだし、良かった。


 「今日はありがと先生〜」


 「こちらこそ。それじゃあ気をつけてね」


 「うん。バイバーイ」


 エレベーターまで宮川さんを見送り、俺は次の生徒の席に向かう。だからこの時は知らなかった。


 「先生が……彼氏だったらなあ」


 宮川さんの好意が、俺の思っている以上のものになっていたことを。


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