第116話 捕虜交換当日のオハナダンジョン

はいどうも~。

進化して完全人型になったオハナです。

早いものであっという間に捕虜交換当日だったりします。

「オハナダンジョンの皆で勇者を見に行こう!」となっていたわけだけど、オハナダンジョンの中は今結構慌ただしかったりします。

なぜなら―――――。


「緊張して腹の具合が悪くなってきやがった気がする…………」

「あらあら爺さま?だからあれほどおトイレに行っておいた方が良いと言いましたでしょう?」

「じ、自分も緊張してきたっス…………」

「だ、大丈夫だよ!戦うわけじゃない…………ですもんね!?オハナさん!」


コテツさんはゲーム内なのにエア腹痛に襲われ、ワヲさんは………うん、いつも通り安定していて見てるこっちがほっこりするわ。

カナきちにも緊張が伝播して、ホタルちゃんもカナきちを励まそうとしてはいたけれど緊張の色は隠せてない。


まぁ気持ちはわかる。

これから主要キャラクターたちが勢揃いした場所へ行くんだもの、このゲームをプレイした人ならばそりゃテンション上がるよね。

そんな中、意外に落ち着いていたのがプリムさんだった。


「プリムさんは緊張とか大丈夫ですか?」


何気なくオハナが尋ねてみると、


「はい。現実世界ならそういう場所は苦手ですけど、此処ではオハナさんが傍に居ますから」


そう言って満面の笑みを向けてくれる。

オハナにそんな癒し効果を期待しないでくれる?


「あぁ~ホントっスね。オハナさんの傍は安心するっス」

「ふむ。腹具合が良くなってきた気がするわい」

「落ち着きましゅ」


いやいやいや、気持ちの問題じゃないの?

オハナという存在がプラシーボ効果を生み始めてるのヤバくない?

それとも何かヤバ気なもの撒き散らしてたりしない?

ホタルちゃんに至っては蕩けてるけどホントに大丈夫?

何かの中毒症状とかじゃないよね?

それにそんな事してたらさ――――。


スキル〖ヒーリングアロマ〗を習得しました。


ほらーw

何か生えちゃったじゃん。


〖ヒーリングアロマ〗ねぇ?


魔物のオハナが癒し系のスキルを獲得するのって…………種族的なものだとは思うけどちょっと違和感あるかも。

何気なくそのスキル画面を開く、名前からして癒し効果のある香りを放つとかそんな説明文だろうけど、使ってどんな効果があるのかはわからないからね。


〖ヒーリングアロマ〗

周囲に癒し効果のある香りを放つ。

スキル使用者を中心とした効果範囲内に居る全ての味方に対し、状態異常の自然治癒時間を短縮させる。


なーほーね。

状態異常の自然治癒時間短縮、プリムさんが傍に居ないような状況だったら重宝するかも?そもそもプリムさんがオハナの傍を離れる事が稀なんだけどさ。

それにしても今も発動中だったりするのかな?ダンジョンの皆が癒されてるみたいだし。

そう思ってスキルの発動画面を確認すると、


〖ヒーリングアロマ   弱/中/強〗


なんか操作が扇風機っぽいんだけど?

弱中強って雑過ぎじゃない?しかもアロマで『強』て!?


……………とりあえず『中』くらいで良いかな?

オハナはダンジョンの皆に暫くの間、癒しを提供することにした。



その匂いにつられて来たのか、眷属たちも続々と集まってきた。

そして7号は何故かまたしても装備品を持ってるんだけど。


「7号…………また他のプレイヤーさんから奪ってきたの?」


7号がその短い手で誇らしげに掲げて見せてくれたのは…………リボン?

既に蝶々型に整えられていて、あとは紐で結ぶだけで楽に装着できるタイプの物だった。


「着けてほしいの?」


オハナの言葉に7号は何度も頷く。

珍しくオハナと眷属の間で意思の疎通が出来たのは喜ばしいんだけど………………オハナは最初頭に生えてる草の部分を束ねる様に着けようとしたんだけど、「イヤイヤ」と全身を使って拒否されてしまった。

どうやら7号はこれを蝶ネクタイの様に首?(胴体?境目がよく判んない)に着けてほしいみたいだった。

どうして7号だけこうもファッション?とにかく装備品関係に情熱を燃やしちゃう子になっちゃったんだか、7号の中で何か強いこだわりっぽいものも感じるし。

だけど首に巻こうにも、今度は紐の長さが足りなくて着けられなかった。

気落ちする7号を見てオハナが持ってるアイテムの中で、アレならゴム代わりに出来るだろうと思って提案してみた。


「…………カエルの舌で巻いてみる?」


7号がオハナの傍から逃げ出した。


あ、やっぱダメ?


身体全体を横に振り、全力で拒否する7号。

ふむ。どうやらカエルの舌はお気に召さないらしい。


オハナと7号がそんなやり取りをしていると、3号が音もなく7号の目の前に転移して―――――、


ぶちゅり!


――――早業だった。

3号は徐に自分の蔓に生えた細めのトゲを抜き取って7号のリボンを奪い、リボンごと7号の首目掛けて一気に突き刺した。


「ちょっ!!3号!?今7号に直で刺してたけど大丈夫なの!!!!!?」


3号はさっきまでの早業が嘘のように「何のことかわからなーい」とでも言っているかのようにクネクネと動いている。


いやいや、オハナは最初から最後まで全部見てたからね?

誤魔化されてあげないからね?


刺された7号はさっきから軽快に走り回ったり、ピョンピョン飛び跳ねたりしてるんだけど…………それは嬉しさからなの?それとも痛すぎて悶絶してるの?どっち?

その後しばらく7号を観察してみて、5号のところに駆け寄って蝶ネクタイと化したリボンを自慢するように胸を張っていた。


あ、嬉しかったのね?


7号を観察してる間に約束の時間になっていたみたいで、サンガに促されて皆は先に行ってしまっていた。

まだまだ自慢し足りない様子の7号が今度はオハナに自慢しようとしたのかな?こっちに近寄ってきたので、蔓で捕まえて転移魔法陣にダンクシュートの要領で投げ込むと、オハナはゆっくりと深呼吸してから転移魔法陣に飛び込んだ。


慌ただし過ぎて捕虜交換の段取りだとか、頭から綺麗に抜け落ちたまま…………。

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