第110話 オハナはとんでもないものを壊していきました?

魔王さんが高らかに約束してくれたんだけどそれは所詮口約束、サーチェの瞳はまだ不安と疑念に満ちている。

まぁすぐに信じろってのはやっぱ無理な話だよね、きっと彼女はこれまでずっと騙され、裏切られ過ぎたんだろうなと思うから。

家族、仲間、そういった人たちしか信じないのを徹底してるのかもしれない。

だけどね?


貴女はそうやって裏切られるんだって疑って怯えていれば良いよ。

オハナはそれらを全部裏切ってあげるから。


こちとらもう突発イベントに強制的にだけど首突っ込んじゃったんだから、今更後戻りするつもりはない。

そのためにもまずは、


「助けに行くにしても場所が分からないとどうしようもないからね?」


さすがに勇者さんには秘密にしてるっぽいから〖人間側〗の本拠地である首都とか王城を襲撃カチコミしろレベルの無茶ぶりは無いだろうけど、多分ガッツリ〖人間側〗の勢力圏内に入ることになるんだろうなぁとは思ってる。


これまでは〖世界大戦〗や〖砦〗、〖ダンジョン〗以外で相手の勢力圏に入って何かするって事が出来なかった。

だからこそ〖世界大戦お祭り〗が盛り上がるんだろうけど、今回の突発イベントで相手の勢力圏に入れるならもしかしてこれが初の試みだったりするのかな?


自分で言うのもなんだけど、その相手の勢力圏に送り込まれる初魔物がオハナで大丈夫なの?

……………まぁオハナが心配することじゃないか、運営が何とかするって思っとこう、思っとこう。


「それならば問題ありません。場所は勇者とそれに近しい者以外ならば割と知っていますので」


クロードがあっさりとそんなことを口にする。


ホント〖人間側〗って大丈夫なの!?

勇者さんたち味方に虐められてるとかないよね!?

もしそうなら今度会った時攻撃し難いんだけど!?

口が裂けても攻撃しないなんて言わないけどね!!


「戦う力は無くとも世の中を動かせる金のある連中は彼らにとって重要な顧客ですからね、そうした誰からの紹介でなければ彼らと接触する事さえ出来ません。そして『勇者にも秘密の戦力を得たという』後ろ暗い気持ちを共有する事と、紹介した者の顔に泥を塗る事にもなりますから裏切り者が出る可能性も低い」


さっきから彼らについて話すクロードをサーチェとカーマインがめっちゃ睨みつけてるんだけど、そんなのお構いなしにクロードは話続けてる。


「僕が捕虜交換で〖人間側〗に戻った後、彼らと接触して居場所を報せましょう。まったく…………どんなに屈強な戦士を育てようともオハナ様の前には皆無力だというのに、無知蒙昧な輩どもはこれだから――――」


いやいやクロードだって改心の一撃丸かじり前は魔物を下に見てるような似たようなものだったと思うけど違ったっけ?変態になった丸かじり後の印象が強すぎてもう以前の彼が前世だったかのように霞んで見えるんだもの。

オハナはもしかしてクロードが人間社会で生きていく為に必要な大事なものまで、あの時一緒に噛砕いちゃったのかもしれない。


「お前だけじゃ信用できない、俺も捕虜交換であっちに戻る」

「カーくんっ!?そんなのダメ!!戻ったらまたあいつらに何されるかわからない!!」

「そうです!折角オハナ様の庇護下に入れるというのにこの罰当たりめが!!」

「俺だって本当はもうあんなところに戻りたくなんて無ぇよ!!けどお前一人じゃまた裏切るかもしれないだろう!!」

「オハナ様が居るというだけでそこはもう僕にとっての理想郷に他ならない!!それを裏切るなんてありえない!!」


何か〖人間側〗が物凄く劣悪な環境に思えてくるんだけど気のせいかな?

それよりもまずハッキリさせておきたい事が出来た、


「あの~?一つ質問良い?」


オハナがおずおずと小さく手を上げると、さっきまでやいのやいの言っていた三人がピタリと大人しくなった。

それをOKと判断したオハナは咳ばらいを一つしてから、


「サーチェとカーマイン、そのお仲間やご家族の事は勿論受け入れるつもりだったけど、クロードも〖魔物側こっち〗に来るつもりなの?」


「え?」


サーチェやカーマインたちの勢力変更とかはきっとイベントクリア後に変更になるんだろうけど、ガッツリ〖人間側〗なクロードの扱いはどうなるんだろう?

しれっとここまでまるでオハナの部下かのような動きで話をしてたけど、さっきの会話でクロードったらこっち来る気満々じゃない?

プリムさんみたく〖勢力変更〗出来るのかな?


そんな風にオハナが思考に没頭していると、


「オイ…………」

「マジかよ………」

「嘘だろ…………」

「今更それ言うか?」

「心を潰しに来てるとしか思えん」


…………何かフェンネルの部下の人たちにひそひそと酷い事言われてた。

クロードはと言うと、今日―――7号に殴られ続けている時でさえ見せたことのない絶望感漂う表情をして固まっていた。

さっきまで言い争っていたサーチェとカーマインも何も言えなくなってるわ。


「…………あのぅ」


やっと動き出したクロードは…………って表情そのままなの怖いから止めて。


「今回、彼らを無事助けた暁には僕をオハナ様の下で働かせてもらえませんか………?」


断ったら死んじゃいそうなくらい弱弱しい声で、懇願するように訊いてきた。


「あぁ、うん。何かごめん…………」


さすがにこれを好奇心で断る様なことはできませんでした。

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