第109話 際限のない『安心』のために

それからカーマインは意を決したようにオハナに向き合い、話し始めた。


「俺たちは全員〖人間側〗に属する種族と〖魔物側〗に属する種族との間に生まれた〖混血種〗なんだ」


そう言ったカーマインの姿が人間のそれから少し変化していく、左側頭部から湾曲した角が生え、左目だけが悪魔族のものになった。

周囲のフェンネルの部下たちが即座に武器を構えるけど、フェンネルがそれを制止する。


「見ての通り俺は悪魔族と人間族の混血で、俺たちが居た集落は元々どちらの勢力にも属してない―――と言うかさせてもらえなかった者たちが寄り集まってできた集落なんだよ」

「仲間外れだったって事?」


オハナの質問にカーマインは深く頷いてからまた話し始めた。


「〖人間側〗に居れば〖魔物側〗の身体的特徴が気になる、逆に〖魔物側〗に居れば〖人間側〗の特徴が――――って感じでキリがないんだって。俺はその集落に捨てられて育ったからその辺りの感覚は鈍かったんだけどさ、集落にが来てからは嫌というほど味わったよ」


苦々しげに吐き捨てるカーマイン、今度はサーチェが彼を心配し寄り添っているようだった。


「彼ら混血種を『貴重な戦力』としての利用価値があると提唱した組織があるんです、使い方によっては勇者にすら匹敵するのではないか――――そんな風に言われていましたね」


さり気なくクロードが二人が言い難いであろう部分をフォローする。

オハナに噛まれてホントに改心したのかな?そうだとしたらきっかけがエグ過ぎない?


「勇者さんはそのことを―――?」

「勿論知りません。もしも知っていれば激怒した末このような計画は破棄され、計画を立案した組織も壊滅させていたでしょう」


うん。さすが勇者さんだわブレないね。


「ですが他の者たちはそうではなかった。〖勇者〗という最高戦力は頼もしい、もしそれに匹敵する戦力を個人で保有できるのなら――――」


なーほーね。後は言わなくてもわかる。

そんな連中が勇者さんに話を通すことなく、自分たちが出資して計画を推し進めちゃったわけだ。


「でも勇往騎士団だっけ?あれに二人は所属してたよね?勇者さんと面識はあったんじゃないの?」

「俺もサーチェも勇者様の御前に出ることなんて滅多に無くて、いつも戦場は遠い場所で戦わされてたから」


もしそうだとしてもサーチェ(狂気っ娘モード)の存在感は半端ないでしょうに、それを無視できる勇者さんって意外とポンコツ?


「………………サーチェは親を目の前で魔物に殺されて精神を病んでしまった、けれど魔物への復讐心だけは生きているので彼女の好きにさせているという話をしたところ涙を流して信じていましたね」


勇者さーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!?

信じちゃったの!?

チョロくない!?

あぁ、でも深く尋ねるのも憚られるような話題だし仕方ないのかなぁ。

だけど勇者さんを騙してまで『安心』が欲しいだなんて、オハナが思ってた以上に〖人間側〗の皆さんは追い詰められていた?


…………そういう訳じゃないか。欲と一緒で幾らでも欲しくて、幾らあっても足りなくて、なんてことがないから際限がないんだろうね?


もしそうならこの度の〖第二回世界大戦〗の結果がもうすぐ反映されちゃうだろうから、サーチェやカーマインのお仲間さんたちの需要が高まっちゃったりするかもしれない。

だけど懸念事項が一つ、もしかするとサーチェはこの可能性を考えて言い出せずにいたのかもしれない。

それに思い至ったオハナは、何となく視線を天井に向けて呼びかける。


「魔王さん、居ますよね?」

「…………どうした?」


やっぱりまだ聴いてたんだ?だけど今はとても都合がいい。


「オハナがもし彼らを助けたとして、ですよ?今度は〖魔物側〗で彼らに同じ事が繰り返されちゃうかもしれないですよね?」

「なるほど、理解した。魔王アレイスターの名の下に彼らの保護を確約しよう。そして我々は彼らに戦うことを強要しない、研究材料など以ての外だと宣言すれば良いか?」


流石は魔王さん、話が早くて助かる。

これで表立って彼らを虐げるような輩は出てこないでしょう、問題は――――。


「それでも利用しようとするバカの存在が心配ですね…………」

「未だにアレイスター様に逆らうような者が居るはずないでしょう!?」


オハナの呟きに声を大にして反応するフェンネル、だけどオハナには既に心当たりがあるんだよねぇ。


「居るじゃないですか、ほら今は捕虜になってる七牙の―――」


そう、もうすぐ開催の〖捕虜交換〗で帰ってくる予定の三人だ。

内二人はまぁ大人しくしてるかもしれないけど、圧倒的に一人確実に逆らうのが居るよね?そいつをどうする?ってお話なのよ。


フェンネルもそこまで言われて思い出したのか、口を噤んでしまう。


「それに関して心配は無用だ。アレの処遇は既に決定している」

「そうなんですか?」

「あぁ」


「クックック………」って感じに笑う声が聞こえて、ちょっとだけ背筋が寒くなったのはきっと気のせいじゃない。

だってフェンネルとその部下の人たちなんてガクブル状態なんだもの。

何をするつもりなのか全然わからないけど、絶対的な『安心』感だけはあるわ。


やっぱ安心って大事だよね?

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