第100話 三重強化と大悪魔

 多頭多腕の化け物と化した悪魔、ボレアス。

 私達を睨み付け、全身を走る雷が収まっていく……いや、頭の角に集まってる!?


「っ、《リフレクションギフト》、《グランドヒール》、《エスケープオーラ》!!」


 ココアの支援魔法が発動し、私の前に障壁が発生、更にボコミのHPを回復させた上で、エレインに敏捷の強化が入る。

 これならボコミは何を食らっても耐えられるだろうし、エレインも自力で回避可能、唯一逃げるのも受け止めるのも出来ない私に、魔法反射の支援をつけたわけだね。


 その判断が間違いだとは思わない。でも、悪魔の三つある顔の一つが、前線にいる私達の方を向いていない気がして――私は急ぎ、アイテムから《俊人の丸薬》を取り出し、口に放り込んだ。


「ココアーーー!!」


「ベル!?」


 上昇したAGIに任せ、全力で後退。ココアの正面に躍り出る。

 直後、悪魔の三対六本の角から、三つの雷撃が私達に降り注いだ。

 狙いはそれぞれ、私、ボコミ、そしてココアの三人。


「ベル、ココア!?」


 多分、エレインは私の"足"としての仕事が中心だったし、支援魔法を連発してたココアの方がヘイトが溜まってたんだろう。結果として、私一人に対して二本の雷撃が襲い掛かる形に。


 一本はココアの《リフレクションギフト》が防いでくれるとして、もう一本は……!


「ええい、仕方ない! 《超加速》!!」


 するとそこへ、唯一フリーだったエレインが無理矢理割り込んだ。

 AGIはともかく、防御面に関しては私とほとんど変わらないエレインじゃ、あの攻撃は耐えられない!


「あんまり私を舐めないでよね! 《避魔針》、《絶対回避》!!」


 エレインの体が一瞬だけ眩く光った後、残像のようにブレる。

 途端、私の方に飛んできた雷が狙いをエレインへと変え――そのまま、エレインの体を透過し、地面に着弾した。


 いや、ええ!?


「何今の!?」


「説明してる時間ないから、今のうちに体勢立て直して!! 《ツインスライサー》!!」


「わ、分かった!」


 叫びながら、エレインは高速で悪魔へと吶喊、忍者刀を振るう。

 確かに、今はボス戦中、のんびり解説なんて聞いてる場合じゃないか。いや、ボコミは叫んでたけど。


『避魔針は自分から一定距離内にある魔法攻撃を自分に吸い寄せるスキル、絶対回避は、自分に対する攻撃を全部透過して無効化するスキルだな』

『効果時間、どっちも滅茶苦茶短い割にCTもめちゃ長いから、連発出来ないけどな』


 そう思ったら、視聴者のみんなが親切に教えてくれた。


 なるほど、さっきのが正真正銘、エレインの切り札ってことか。ここで消費させちゃったのは痛いけど、どうにか挽回しないとね。


「ココア、大丈夫?」


「大丈夫……っていうかベル、このボス戦はともかく、コラボ配信の勝負を考えたら、他の誰かは平気でもベルが死に戻ったら負けなんだからね? 分かってる?」


「あはは、ごめんごめん。ココアがやられそうだと思ったらつい体が動いちゃって」


「も、もうっ、すぐそうやって……!」


『お前ら、いちゃついてないで早くエレインとボコミの援護してやれw』

『結構押されてんぞ』


「わ、わかってる!」


 視聴者さんからの指摘を受けて、ココアが二人に向かって支援魔法を飛ばす。


 とはいえ、私はさっきの一撃でMPが尽きてるし、まずはそれの回復からなんだよね。ココアと一緒に距離を取りつつ、ポーションをジャブジャブ消費していく。


 回復している間に攻撃されたらまずいかと思ったけど、そこはボコミがスキルを使ってヘイトを稼ぎ直してくれていた。ありがたい。


「さて、どうしようかな……」


 そうして体勢を整えている間、私は悪魔の挙動を観察する。

 腕や頭は増えたけど、攻撃パターンはあまり変わってない。精々、角から電撃を飛ばして来るようになった程度。


 ただ、やっぱり増えた分だけ手数が増して、手がつけられない感じになってる。エレインもボコミも頑張ってくれてるんだけど、あと一歩を捩じ込むためには、何とかしてこいつの攻撃を止めなきゃならない。


 私の使えるスキルで何か……うーん……


「……そうだ、いいこと思い付いた」


 タイミングが難しいけど、上手くいけばこいつを少しの間だけ無力化出来るかもしれない。

 そうと分かれば、実践あるのみ!


「ボコミ、《リベンジャーズブラスター》は!?」


「もう少しでCT明けますわ!!」


「じゃあ、準備出来たら悪魔の口の中に叩き込んで! ダメージは程々でいいよ!」


「分かりましたわぁ!!」


 嬉々として私のお願いに応じ、攻撃を受けるために前に出てヘイトを稼いでいく。

 何も言わずとも、そんなボコミをフォローしてくれるエレインに感謝しつつ、私は隣にいるココアへ振り返った。


「ベル、今度は何するつもり? ……いや、答えなくていい、私に何して欲しいの?」


「ふふっ、話が早くて助かるよ。次で決めるから、私に限界まで支援ちょうだい。ボコミがカウンターを撃つタイミングで、《ダッシュブースト》も。それで一気に懐まで行く」


「わかった」


 こくりと頷き合った私達は、準備を整えてその時を待つ。

 エレインが毒や魔法の誘引、回避でフォローし、ボコミが正面でひたすら耐える。

 そうして、少しずつ地道にHPを削っていく中で、ついに悪魔は焦れったくなったのか、その三つの口をガパリと開けた。


「グオォ!!」


 三つそれぞれの口で迸る、翠緑の雷。

 さっきまでの攻撃より数段強力そうなそれを前に、ボコミはまだ動かない。


「ふふふ……さあ、かかってきなさいな!!」


 ちょっ、あれ受け止めるつもり!? 《献身の聖女》を使ってないからって、なんて大胆な……!


「グオォォォォ!!」


 悪魔の口から雷が放たれ、それぞれが絡み合うことで竜巻と化す。

 渦巻く緑の雷風が、容赦なくボコミを飲み込んだ。


「ふんぬぁぁぁぁぁ!! この程度、お姉様から受ける様々な責め苦と比べればぁぁぁぁ!!」


「いちいち私と比べないで!?」


 ああもう、本当に耐えきれるのか不安だったけど、なんだか心配するだけバカらしくなってくるよ。

 ボコミが反撃に移る前に、こっちも動こう!


「ココア!」


「うん。《オフェンシブオーラ》、《エスケープオーラ》、《ダッシュブースト》!」


 ココアからの三重強化を受けた私は、地面を蹴って一気に前進。

 それに合わせるように、ボコミもまた槍を突き出した。


「《リベンジャーズブラスター》ぁぁぁぁ!!」


 雷の嵐を切り裂くように、悪魔の口へと叩き込まれる光のビーム。

 一割ほど一気にHPが削られたことで、バチン!! とブレスが強制中断され、悪魔の体がぐらりと揺れる。


「そこだぁ!! 《魔法撃》、《アイスドライブ》!!」


 新しく覚えたばかりの氷属性の強化を発動し、後退する悪魔の足元を全力でぶん殴る。

 打突点を中心に、屹立する氷柱。それが不安定な悪魔の足を一瞬だけ氷漬けにした。


「グオアァァァ!?」


 バランスを崩し、悪魔が転倒。私の目の前で無防備な姿を晒す。

 すかさず、私は悪魔の体に飛び乗って、半開きの口の中へと小さな体を滑り込ませる。


「えっ、ベル!?」


「よいしょっと」


 近くにいたエレインの驚いた声を聞きながら、口の中で杖を一閃。出現した氷塊が、私の退路を塞ぎながら口が閉じるのを押さえるつっかえ棒になる。


 ……さて、これなら反動も、反撃も、何も気にする必要はないよね。さあ、


「トドメ、行くよ!! 《フレアドライブ》、《エアドライブ》!!」


 氷に重ねて、炎と風の三重強化。ココアに貰ったバフも合わせれば、相当な上昇量だ。


 さあ……ダウンから復帰した悪魔に喰い殺されるのが先か、私がHPを削りきるのが先か。勝負!!


「でやぁぁぁぁ!!」


 両手に握る杖に力を込め、狭い口内で暴れまわる。

 薄暗い口内を炎羽が舞い、氷塊が散り、暴風が吹き荒び、派手なエフェクトのせいで目がチカチカする。

 悪魔のHPバーなんて全く見えないし、今自分が殴っているのがどこかも分からない。でも、とにかくどこか殴ればダメージになるだろうと、めったやたらにぶん殴り続ける。


「せやぁぁぁぁ!!」


 と、そこで、一気に視界が開けた。

 私の攻撃によって舞い散るエフェクトの中に混じる、見慣れたポリゴン片。


 悪魔が消え、すっかり広くなったお城の中、私は勝利の雄叫びを上げるのだった。

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