第86話 雫の独白⑦
「うーん……」
ホームの中で"ココア"として一人装備作製に耽る私は、そのことで少し悩んでいた。
具体的には、お姉ちゃんに贈る装備について。
「どんなのがいいかな……」
ウィングブーツの方はもう全員分終わった。大して悩むことじゃないし。
でも、お姉ちゃんの装備は、元々の装備をアップデートする形にしないといけないし、せっかく全身揃えるんだから、デザインまでちゃんと拘りたい。
その辺りの自由度が高いのもFFOの利点ではあるけど……本格的にやり始めると、ガチのデザイナーがやる仕事並に時間を取られかねないんだよね。
私は別にプロじゃないし、多少デフォデザインやネットのフリー素材を利用させて貰うのは仕方ないにしても、出来る限り可愛いのにしたい。
「これは……ダメ、可愛いけど露出多すぎ」
というわけで、現在参考画像の検索中。
女の子装備となった途端露出が増えるのは、もうそういう性なのかな? まあ、私も着てるところを見たい気持ちはあるんだけど、普段使いの装備であまり過激なのはちょっと。
お姉ちゃんは大して気にしないだろうけど……私の気が散る。それに、いくら"ベル"の姿でも、お姉ちゃんのえっちな格好なんて他の誰にも見せたくない……!
「ただいまー、っと。あれ、ココアだけ? ベルは?」
「おかえり、エレイン。お姉ちゃんは……新しく出来たフレンドのホームで休憩中」
町の探索が一段落ついたのか、戻ってくるなりきょろきょろと中を見渡すエレインに、私はそう答える。
すると、エレインは苦笑混じりに肩を竦めた。
「相変わらずベルはすぐに他人と仲良くなるねえ、それで、ココアは何してるの?」
「お姉ちゃんの新しい装備を考え中。せっかくだからエレインも一緒に考えてくれない?」
「いいよ、たまにはそういうのも楽しそうだし」
「ありがと」
いつものテーブルで、私の隣に腰かけたエレインに、ひとまずざっくりとした構想を話す。
と言っても、別に大したことは決まってない。性能はAGIメインで上げるつもりだってことと、新しく作るウィングブーツに合ったデザインにしたいってだけ。
「ウィングブーツって空飛ぶためのやつだし、そうでなくてもベルは跳ね回って戦うことが多いから、スカートはやめた方がいいかもねー」
「んむむ、確かに……」
「まあ、ココアが覗き込みたいならそれでもいいと思うけど」
「そ、そんなことしないから!」
全く、エレインは私をなんだと思ってるの!
いや、まあ、そういうの全く考えなかったかと言われると、嘘になるけど……ごにょごにょ。
「じゃあ、この辺の衣装をベースにして……あのアバターだし、子供っぽい感じで仕上げてみたら? ちょうど鳥素材多いし、羽とか付けて」
「なるほど、じゃあ……」
エレインと意見を交換しながら、デザインを煮詰めていく。
やっぱり、こういうのは一人でやるより、誰かに手伝って貰った方が捗るね。さすがに、これでお姉ちゃんを頼ることは出来ないけど。
「ふふ、ココアも変わったねえ」
「ん……? 急にどうしたの、エレイン」
突然しみじみと変なことを言い出したエレインに、思わず首を傾げる。
そんな私に、エレインはにこにこと微笑ましいものを見るような目を向けてきた。
「ほら、少し前なら自分から何か用意するなんて出来なくて、ほとんど私任せだったじゃない? 自分で渡すなんて夢のまた夢だったし」
「それは……でも、今はココアだし」
「だとしても、自分から甘えられるようになったのはいいことだよ」
ほらこれ、と、突然エレインが開いた動画は、さっきの私とベルの配信動画。その中でも、ベルに撫でて欲しいと頼み込んだシーンだった。
わ、私こんな顔してたの? なんか、余計恥ずかしいんだけど……!!
「お互いに相手のこと好きすぎるくらいなのに、二人とも妙にすれ違ってたからさ。最近のベルは以前にも増して元気だし、ココアはココアで明るくなって、私としても嬉しい限りだよ」
「えっと……ごめん、色々心配かけて」
私が塞ぎこんでからずっと、お姉ちゃんだけじゃなくエレインにもずっと心配をかけてきた。エレインがいなければ、私は今もお姉ちゃんを拒絶し続けていたかもしれない。
そのことについて謝ると、エレインは「これくらいどってことないよ」と笑い飛ばしてくれた。
本当に、ありがたい。
「それより、前々から聞いてみたかったんだけどさ」
「ん?」
「ベルとどこまで行きたいの?」
「ぶふっ」
だから、その流れであまりにも直球過ぎる質問をぶつけられて、私は思い切り吹き出した。
いや待って、どこまでって何!?
「私としてはまあどうなろうと応援するというか、仮にどうなるつもりがなくても適当にけしかけるつもりではあるけどさ」
「つもりがなくても!?」
「でもこう、一応最終目標? みたいなのがあるとからかいやす……げふん、面白そうだなって」
「言い直してるのに言い直されてないよ!」
「まあそんな細かいことは置いといて」
「置いとかないで!?」
「で、どうなの?」
さらりととんでもないことを口にするエレインに、私は顔を真っ赤にしたまま狼狽える。
さ、最終目標って……いや待って、今以上ってこと? ないないない、これ以上進んだら……!
「だ、だめ……私、これ以上なんてしたら……もどれなく、なっちゃうから……!」
私の言葉に、エレインはしばしポカンと口を開けたまま硬直して……すぐに詰め寄ってきた。
「いやちょっと待って、ねえココア、あんた達今どこまで進んだの?」
「…………れた」
「へ?」
「キス、された……! 夜に一緒に寝て……朝起きたら、体中まさぐられて、抱き締められて……おはようの前に……思いっきり……!」
「はあぁぁぁ!?」
私のカミングアウトに、エレインが珍しいくらいの大声で叫ぶ。
いやうん、驚くよね。私も色々とびっくりだった。
「私、もうお嫁に行けないかも……えへへ……」
「もしもし、ココアさん? セリフと表情が噛み合ってませんよ?」
驚愕から一転、少しばかり呆れた顔でエレインに指摘される。
おっといけない、こんなとこお姉ちゃんに見せられないよ。
見られたら食べられる。いや本当に。
「でもそうかぁ、なんか行き着くところまで行った感じあるね……良かったじゃん」
「うん、それはいいんだけど……」
「けど?」
「……行き着くところまで行った感じなのに、お姉ちゃんの態度が何も変わらないから……私、どう見られてるのか……」
語るところまで語ったついでに、私の中で新しく芽生えた不安まで吐き出す。
お姉ちゃん、あんなことしたのに、私に対する扱いが前と全く変わってないんだよね……これ、ちゃんと進んでるのかな?
「あー、なるほど……あの子の妹に対する好感度はカンストしきってるし、中々困った問題だね」
「うん……だから、どうしようかって……」
いやまあ、これ以上されると私の心臓がもたないのは確か。
だけど、こう……前と行動とか態度が何も変わらないと……それはそれで、ね……?
「よーし分かった、ここは私が良いアイデアを提供してあげよう!」
「すっごい不安」
「何言ってるの、これまでだって私のアドバイスのお陰でベルとの関係が発展してきたでしょ!? 今回もバッチリだって!」
「そう言って自分が端から見て楽しむ気でしょ」
「それは否定しない」
「否定して!?」
お姉ちゃんに負けず劣らず自分に正直なエレインに、思わずツッコミを入れる。
そんな私の抗議の声を、「とにかく!」と遮ったエレインは、いつものようにニヤリと口の端をつり上げた。
「私に任せときなさいって、悪いようにはしないからさ!」
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