第四章 撲殺魔女と天空の城
第78話 朝チュン姉妹と今日の予定
「んー……」
朝。私は寝惚け眼を擦りながら、ベッドの中でもぞもぞと体を動かす。
「ふあっ、お、お姉ちゃん……っ」
すると、私の手に柔らかな感触が当たり、すぐそばから天使のソプラノボイスが。
……まだ夢の中かな? といまいち動き出さない頭のまま目を開ければ、そこには愛らしい妖精の顔があった。
「どこ、さわってるの……ばかっ……!」
顔を真っ赤にしながら、抗議の声を上げる愛しの妹。
文句を言いながら、それでも離れていかない可愛い可愛い雫を見て……取り敢えず、抱き締めることにした。
「んー……っ」
「!!!?!?!!??」
お互いの顔も分からなくなるくらいに密着し、唇を触れ合わせる。
抑えきれない愛情全てをぶつけるように、長く強く繋がり合う。
「ん……おはよぉ雫。私より早く起きてるなんてえらいね」
さらりとした髪を撫でながら、ふにゃりと笑いかける。
段々頭がハッキリするにつれ、私は昨日のことも思い出して来た。
そう、昨夜、驚いたことに私は雫の方からキスをせがまれ、「私以外にはしないで」とまで言われたのだ。
雫が、私にだよ!? いつもいつもスキンシップを図る度蹴り飛ばされてたから、ここまでするのは無理かなーって諦めてたのに、まさか出来る日が来るなんて……! これはもう、雫も私と同じように想ってくれてると見ていいよね? 相思相愛ってことでいいよね!? やったーー!!
えっ? いくら家族だからってキスはおかしい?
大丈夫、外国じゃあ家族にキスが当たり前なところだってあるから! 問題なし!
ここは外国じゃなくて日本だって? そんなの知らない! 私の溢れる愛を伝えるのに、ただ抱き締めたり撫でたり言葉にするだけじゃ全然足りないの! ありとあらゆる手段を尽くして尚足りないんだから!!
「愛してるぅ」
「~~っ!!」
だから、一生分の愛がこの一瞬で伝われとばかりに。次の瞬間には来世の分まで伝われとばかりに、私は何度でもその言葉を口にする。
半分寝惚けた頭のまま、本能のままにそうやって全力の愛情表現をした結果……
「……に」
「に……?」
「にゃーーーーっっ!!」
「のほげぇ!?」
今日も今日とて盛大に突き飛ばされ、私はゴロゴロと床に転げ落ちるのだった。
「もうっ、もうっ、お姉ちゃんはもうっ、すぐ調子に乗る……! やっぱり添い寝は禁止! 私が寝れない!!」
「ガーン!?」
所変わっていつもの食卓。朝食のフレンチトーストを齧りながら、雫にバッサリと宣告されてしまった。
うぅ……やっと雫と蜜月の夜を過ごせると思ったのに……! 私のバカ! なんでこう、欲望を抑えきれないの!?
うん、雫が可愛すぎるからだね! しょうがないよね!
「反省してる?」
「してますしてます雫様」
平身低頭、どうにか反省の素振りを見せる。ここでやらかして、また以前みたいな関係に逆戻りなんてことになったら死ぬ。間違いなく死ぬ。
もうね、なんで私は三年もあんな生活続けられたんだろうね? 今やもう、雫に触れない一日なんてあろうものなら、すぐさま禁断症状を発する自信があるよ。
雫成分、恐るべし依存性……!
「はあ……それにしても、お姉ちゃん、今日は調子良さそうだね。いつもより元気というか」
「えっ、そうかな?」
私が戦慄していると、ふと気付いたという風に雫が私の顔を覗き込む。
またキスしようかなんて一瞬思ったけど、不穏な気配を察したのか、雫がすすっと身を引いた。ガーン。
「うん、やっぱり、いつもより顔色が良い」
「うーん? あんまり自分じゃ分からないけど……雫と一緒に寝たからかな!!」
「うん、いつもよりたくさん寝たからだね」
私の予想を、雫にバッサリと切り捨てられた。
いやうん、昨日は雫と添い寝したいがために、いつもより大分早くベッドに入ったからね。分かってるよ。ぐすん。
とはいえなー、確かに普段は寝る時間も遅いけど、もうすっかり慣れたつもりだったのに。一日寝ただけでそんなに変わるとは……
「うー……わかった、お姉ちゃんが早寝するって言うなら、今日も一緒に寝ていいよ」
「えっ、ほんと!? 分かった、早く寝る!! いつから? 今から!?」
「今なわけないでしょ、夜の九時くらい」
「九時かぁ……毎日その時間ってなると中々家事が」
「私も、やるからっ! ……わかった?」
「えっ、うん。……えへへ、ありがとね、雫」
私のためを想って、そこまで言ってくれる雫に心からの感謝を伝える。
すると、雫は照れたようにまた顔を赤らめ、それを隠そうとそっぽを向く。
「別に……私がお姉ちゃんと寝たいわけじゃないからっ! お姉ちゃんが毎日毎日不健康な生活して、倒れられでもしたら困るから……それだけっ! 調子にのって、今朝みたいに変なとこまさぐらないでよ!?」
「あはは、分かってるよ。でも、今朝は私、大分寝惚けてたから何がどうなってたかよく……私、どこ触ってた?」
「お……言わせるな、ばかぁ!!」
「ふぎゃ!?」
雫の華麗なるビンタが炸裂し、私はまたも床に突っ伏す。
うぐぅ、雫、優しさと可愛さを私の前で発露してくれるようになったのはいいけど、その分攻撃性も上がってない?
えっ、それはお姉ちゃんのせいだって? ごめんなさい。
「はぁ、もう……ともかく、今日はお姉ちゃんのせいで寝足りないから、ちょっと寝直す。《天空の城下町》の探索と情報集めは、ココアとやっといて」
「えっ、大丈夫なの、雫?」
ココアちゃんの正体が雫自身で、ティアとは別のサブアカウントだってことを、私は既に知っている。
寝足りないというならココアちゃんも休めるべきだと思うんだけど、諸事情でそれを本人に言うわけにはいかない。
というわけで、少し遠回しに尋ねた私の問いに、雫は問題ないと頷いた。
「これくらいしょっちゅうだし、昼まで寝れば平気。……あとほら、昨日は私が独占したから、ココアにもその、お姉ちゃんを貸してあげないとだし……?」
あ、これは私にも分かる。眠気云々は"ティア"としてログインしないための言い訳で、今日は"ココア"ちゃんとして"ベル"を甘やかしたい気分なんだね?
ふふふ、素直になれない雫も可愛いなぁ。
「……なににやにやしてるの」
「んー? いやぁ、雫とココアちゃんは仲が良いなぁって思って」
「別にいいでしょ! もう!」
ぷんすかと憤慨し、私の温かい視線を取り払おうとする雫。いやぁ、可愛い。
ともあれ、今日はココアちゃんと攻略かぁ、昨日の話し合いでは、効率良くクエスト情報を集めるために各自バラバラでってことになってたけど……まあ、多少はいいよね。一応メッセージで知らせておこう。
「ほらっ、早くしないとゲームする時間なくなるよ!」
「ふふふ、りょうかーい」
最後はそんな風に雫に押しきられ、私はようやくそこで会話を打ち切ると、目の前の朝食に集中し始める。
さくりと噛む度滲み出る、トーストに染み込んだ砂糖の甘味。
よく食べているはずのその味が、今日は一段と甘くなっている気がした。
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