撲殺魔女のプレイ日記～魔法使いは攻撃力が命と聞いたのでそれっぽいステータスに全振りしたら、筋力極振りの脳筋魔女になってました～

第73話 ボコミ式ジャンプと恐怖心

『俺、ベルちゃんのドSぶりも突拍子の無さも知ってたつもりだけど、今回は流石に驚きだわ』

『それを嬉々として受け入れるボコミの筋金入りっぷりも中々だけどな……』

　コメントに、呆れたような声がいくつも浮かび上がるけど、そんなものはスルーして思い付きを実行するための準備を整える。

　一番大変（？）なボコミは嬉しそうなのに、ティアやエレインがコメントに同意するように頷いてるのは……見なかったことにしよう。

「よし、準備おっけー！」

「いつでもオーケーですわ！！」

　そうして、私はエレインのスキルで拘束され、簀巻き状態で佇むボコミの真後ろに立ち、杖を構える。

　そう、私のアイデアはとてもシンプル。

　縄を巻き付けたボコミを対岸まで吹き飛ばし、簡単な橋をかけてしまおうという作戦だ。

　縄一本あったからなんだと思うかもしれないけど、私やエレインなら綱渡りも出来るからね。よゆーよゆー。

「私は出来ないんだけど……」

「まあまあ、それについても考えてあるから。まずはボコミをぶっ飛ばすよ！」

　なぜか少しばかり顔色が悪いティアにそう言うと、「そうじゃなくて……」と困り顔。

　どうしたのか聞こうかと思ったけど、それより先にエレインに話しかけられた。

「ベル、いくらボコミ相手でも、やり過ぎたら警告食らうこともあるからね？ 気を付けなよ？」

「そ、そういえばそんなものもあったね」

　いやうん、ボコミがあまりにも殴られたがるから、忘れてたよ。

『いや忘れてたんかいw』

『むしろなんでまだ食らわないのか謎である』

『ボコミが喜んでるの運営が知ってるからじゃね？』

『視聴者ニキの中に運営の回し者が……？』

　コメントでも突っ込まれてしまった……これからは少し自重しよう。

　でも、いくらなんでも運営の人も私なんかを見てられるほど暇じゃないでしょ。

　それとも、ティアを見てたら私を見付けたパターンかな？ それはあり得るかも。

「まあとにかく、さっきからボコミが焦らしプレイと勘違いしてもじもじしてるから、さっさとやるよ！」

『お、おう』

『もはや何も言うまい』

　ドン引き気味の視聴者達は置いといて、私は《マナブレイカー》を発動、突き出されたお尻に向け、杖を振りかぶる。

　やり過ぎてボコミが死に戻ったら意味ないから、充填するMPは100止まり。よし、十分！！

「《魔法撃》、《フレアドライブ》！！ そして……《マナブレイカー》ぁぁぁぁ！！」

「ふあぁぁぁぁぁん！！」

　火炎を纏った全力の一撃を受け、一気に半分近くのHPを消し飛ばしながらボコミが吹き飛んで行く。

　軽く《大跳躍》以上の距離を飛んでるけど、まだ届きそうにないなぁ……でも、それも想定内！

「ティア！！」

「おう！ 行くぜ、《エクスプロージョン》！！」

「うほぉぉぉぉぉぉぉ！！」

　落下し始めたボコミの体を、ティアの炎魔法によって追撃。また吹き飛ばす。

　正直、これは耐えられるかどうかはかなり微妙じゃないかと思ったけど、HP極振りは伊達じゃないようで、なんとか耐えていた。

　そのまま、炎に呑まれ勢いよく飛んでいったボコミの体は、ぷすぷすと黒煙を上げながら落ちていき……ギリギリのところで、対岸にたどり着いた。

「おおー！！ 届いたぁ！！」

『マジかよwww』

『火力特化二人の攻撃まともに受けてよく耐えるなおいw』

『さすが変態と言うかなんというか』

　見事辿りついたボコミへと、コメント欄に温かな賛辞（？）が送られる。

　なお、私もティアもこっち側にいるから、ボコミにはコメント見えてないんだけどね。

「ボコミー、大丈夫ー？」

　取り敢えず、少し遠くて状況がよくわからないから、《フレアドライブ》を解いた私はフレンド通話機能で声をかける。

　すると、すぐさま返事が。

『幸せすぎて死にそうですわ。ベルお姉様、ティアお姉様、出来ればもう一度……』

「うん、元気そうだから次行こうか。ちゃんと立って踏ん張っててよ」

　お姉様ー！？ とか聞こえた気がしたけど、通話をぶち切りして聞こえなかったことにする。

「それじゃあエレイン、行くよ！」

「うん、これなら行けるはず」

　対岸で簀巻き状態のボコミがうねうねと起き上がり、腰を落としてしっかりと踏ん張ってるのを確認する。

　そうしたら、エレインが持っていた縄を私が受け取り、ぐっと引っ張ってピンと張る。

「スキルの効果が切れるまであと二十秒かな、急ぐね」

「うん、お願い、エレイン」

　鉤縄が対岸まで届いてるのは、拘束した対象がそこにいるから。このスキル、一度相手を拘束すれば、対象が射程外に出たり、縄を放しても時間内は拘束し続けるらしい。

　逆に言えば、スキルの効果が切れればそこまで。時間を無駄にしないため、エレインは急ぎ縄を伝って対岸まで駆け抜けていく。

　綱渡りで全力ダッシュってすごいよね。本当に忍者みたい。

『危なげねえな』

『こういう身軽さとアクロバティックな動きがAGI型盗賊の取り柄だよなぁ』

『なんだろう、ボコミやベルの変態ぶりばかりを見せ付けられていたせいで、普通の意味で凄いエレインを見てるとなんかホッとするわ』

『分かる』

『分かる』

『エレイン、最年長にしてまさかの癒し枠』

『これが本当のお姉さん……ベルちゃんは見習ってどうぞ』

「おーけーあんた達後で覚えときなさいよ」

　私が軽く杖を持ち上げると、『ひえー！』なんてわざとらしいコメントが流れてくる。

「全く、私とエレインは同級生なんだからね！？ むしろ私が普段お世話してるくらいなの、分かる？」

『はっはっはっはっは』

『ベルちゃん、そんなに見栄張らんでええんやで？』

『そうそう、背伸びのし過ぎはよくないよ』

「なんでよ！？」

　誰一人信じてくれなかったんですけど！！

　このアバターのせい！？ いや、仮にそうだったとしても、みんなリアルとアバターで見た目が変わること知ってるのよね！？ なのになんでこうも信じて貰えないの！？

　そう叫んだら、『日頃の行い』と一蹴された。解せぬ。

「よーし、エレインも対岸に着いたみたいだし、最後は私達だよ！ ティア、ちゃーんと私に掴まっててね？」

　半ばヤケクソ気味にそう叫んで、ティアに注意を促す。

　すると、おずおずと私に抱き着きながらも、ティアは不安そうに私へ囁いた。

「ねえお姉ちゃん、本当にやるの……？ さすがに、怖いんだけど……」

「大丈夫、お姉ちゃんに任せなさい！」

　どうやら、今から飛び降りるのが怖いみたい。思わずといった様子で素の口調が飛び出したティアに、私は少しばかり意外に思いながらも、安心させるべく自信満々に胸を叩いてみせる。

　すると、「……うん」と小さく頷いたティアの抱き着く力が一層強まり、多少は安心してくれたのが背中越しに伝わってきた。

「よし、じゃあ時間もないし一気に！ とりゃあ！」

「っ～～～～！！！！」

　対岸で、ボコミとエレインが縄をしっかり掴んで固定してくれているのを見て取った私は、ティアと一緒に空へと身を投げる。

　振り子の法則に従い、どんどん加速していく落下速度に、ティアは声にならない悲鳴を上げた。

「そろそろ……よし、今だ！！ 《エアドライブ》！！」

　十分に勢いが付いてきたところで、スキルを発動。私の体が風を纏い、付近を吹き荒ぶ暴風に煽られて上へ吹き飛ばされそうになるけど……流石に、ティアを抱えたまま上がる力はないみたい。

「《マナブラスト》！！」

「ひゃあっ……！？」

　それならばと、魔法による自爆で一気に上へ。

　ティア一人分を弾き飛ばすには十分な力が、私にかかっている暴風による浮力と合わさり私達二人を吹き飛ばす。

　急降下からの急上昇。目まぐるしく変わる景色に揺さぶられる内に、恐怖に駆られたティアが私の体を苦しいほどに抱き締めていく。

　……なるほど、こうするとティアも自然にスキンシップを取ってくれるのか。今後の参考にしよう。

　我ながら下衆な企みを脳内に浮かべながらも、状況は正確に把握してる。上手いこと打ち上がった私達の体は、もう対岸まで残り僅かのところまで来た。あと、一歩。

「《空歩》！！」

　空中を蹴り、くるりと反転。体勢を整えた私は、ティアを抱き直しながら無事雲の上へ着地した。

「ほらティア、もう大丈夫だから、目を開けて？」

「ん……」

　軽く涙目になっていたティアが、恐る恐る目を開ける。

　そして、自らの状態……私にお姫様抱っこされ、思い切り首元に抱き着いている体勢を、パーティメンバーはおろか視聴者全員に見られていることに気付いたのか、ボッ！！ と擬音が付きそうなほど顔を真っ赤にした。

『いやぁ、こんな顔のティアちゃん初めて見たわ』

『眼福眼福』

『めっちゃ可愛い』

『意外と怖がりなんだなぁ、可愛い』

『お姉ちゃんに必死に抱き着きながら弱音吐いてるの可愛かった』

『普段と全然口調違ったよなw』

『お姉ちゃんに大丈夫だって言われて少し顔緩んでるのもばっちり見た』

『尊い』

『可愛い』

『可愛い』

「なっ、なっ、なっ……！！」

　ゲーム中のティアが普段は見せない、私にとってはお馴染みだった気弱な姿を見て、視聴者さん達は大盛り上がり。よっぽどツボにハマったらしい。

　ふふん、分かるよ分かる、ティアは最高に可愛いからね！ でもあなた達にはあげないからね！！

「そ……それ以上、言うなぁぁぁぁ！！」

　ティアの叫びと共に爆炎の魔法が吹き荒れるも、今回ばかりはコメント欄の可愛いラッシュが収まらず。

　私達が再び攻略を再開するのに、しばらくの時間が必要になるのだった。