第64話 空の旅と天空の町
「おお~! すご~い!」
飛行船が出航した後は、到着まで少しの間空の旅。
本来の旅行みたいに何十分何時間とかかるわけじゃなく、ほんの数分のことだけど、その短い間に甲板から見られる上空からの景色は格別だ。
白い雲すら眼下に収め、空の蒼と海の碧の交わりを俯瞰する。
吹き抜ける風が髪をなびかせ、未知の体験がもたらすワクワクが熱となって全身を満たしていく。
時折船の近くを通りすぎる不思議な鳥は、やっぱりモンスターなんだろうか? もしかしたら、これから行く『天空の回廊』で戦うことになるのかもしれない。
だとしたら、一体どれくらい強いのか。自由に空を飛べる相手に、どうやって戦ったらいいのか。
考えるだけで楽しくなってくるね!
『ベルちゃんがはしゃぎまくってて可愛いのだが』
『それな』
『こうしていれば普通に可愛いロリっ子なんだけどなぁ』
『実際は血濡れたバイオレンス幼女である』
『はしゃぎすぎて落ちないように気を付けろよー』
「誰がバイオレンス幼女か! 後、いくらなんでも落ちたりしないよ! 私そこまで子供じゃないから!」
「お姉ちゃん、あまり端っこ行くと危ないから、こっち来な。ほら、抱っこしてやるから」
「はーい♪」
『子供だ』
『やっぱ子供』
『見た目は子供、中身も子供、でもその正体はバイオレンス』
『可愛いと可愛いを合わせたら最強(物理)になっちゃいました』
『解せぬ』
視聴者さん達が好き勝手言ってるけど、ティアとスキンシップが取れる機会なんだから、そりゃあ童心にも帰るってもんだよ! ティアとの触れ合いは私のプライド含め全てに優先するの。オーケー?
「私もまだ未成年なので子供ですわ! お姉様方、構ってくださいましぃぃぃぃ!!」
「こんなでけぇ子供を持った覚えはねぇ!」
「のほげ!?」
私を抱き留めたまま、ティアの回し蹴りがボコミにクリーンヒット。そのまま船の外へ放り出され……る前に、見えない壁に当たって跳ね返って来た。
うん、まあゲームだしね、そりゃあ転落防止くらいされてるよね。
「ふ、ふふふ……まさか端っこは落ちるから危ないと言った直後に、容赦なく突き落とそうとするなんて……流石ティアお姉様、その鬼畜っぷりはやはりベルお姉様同様素敵ですわ!!」
「ほらボコミ、あまりの変態発言に他のプレイヤー諸君がドン引きしてるからほどほどにねー」
「あぁぁぁぁ!! せめてもう一回! 今度はベルお姉様にやられたいですわぁぁぁぁ!!」
エレインに引きずられる形で、ボコミが船内へと連行されていく。
なんでも、船室は宿屋仕様になっていて、中のベッドで横になるとHPとMPが全快するんだとか。へー。
「というか、このゲーム宿屋なんてあったんだね」
「えっ」
『この子ちょっと何言ってるのか分からない』
『HPどうやって回復してんの? 毎回ポーション?』
『ココアにヒールかけて貰ってるとか?』
「いや、大体自然回復?」
『うっそだろおい』
『いやまぁ、俺も自然回復に頼ることはあるけどさぁw』
『宿屋の存在が不要になるとかそんなことある?』
ティアが目を丸くし、コメントにも多数の驚きの声が上がる。
いやうん、ほら、それで大体なんとかなってたからさ、あまり気にしてなかったというかね?
ということを言ったら、ティアも視聴者さん達にも揃って呆れられた。息ぴったりだね君たち。
「まあ、お姉ちゃんがおかしいのは今に始まったことじゃないからいいとしてだ」
「いや、よくないからね? 私は普通の……」
「そろそろ着くぞ」
私の言い訳をさらりとスルーし、ティアが船の先を指差した。
そこにあったのは、雲で出来た空の城。
単に雲に覆われているだけでなく、壁や足場すらも綿あめのような雲で形作られた、なんともメルヘンチックな場所だった。
『おお、思った以上にファンタジーな場所だな』
『ファンタジーというかメルヘンというか』
『同じじゃね?』
『普通を主張しようとして妹にすらスルーされるベルちゃん哀れ』
『あえて誰も踏み込まなかったのにw』
『見たとこ上に登っていく感じのエリアか? 頂上にボスが居そうだな』
視聴者さん達も、私と同じような感想を抱きながら、めいめいに議論を重ね始めた。
ただそこ、人を哀れむんじゃない、余計悲しくなるでしょうが!!
「到着ー!」
なんてやっている間に、船着き場(?)で停泊した飛行船から降り、私達は新エリアへと足を踏み入れる。
ただし、そこはまだ《天空の回廊》ではなく……《天空の城下町》という名の、ベースキャンプと同じ安全な町エリアだった。
周囲の足場などと同じく、雲を思わせるふわもこの壁に、青空のような澄んだ青のペイントを施された建物群は、見ていてなんだか可愛らしい。
なんだか、自分が絵本の登場人物になったみたいな感じがするね。ただ……
「いきなりモンスターとバトルじゃないんだねー」
「それはまぁ、わざわざ船で移動しなきゃ来れないような場所だからね、消耗品の補充が出来るショップとか、宿屋とかは必要だよ。町なら死に戻り地点になるし、多分ベースキャンプとの間を一瞬で移動する転移ポータルみたいなのもどこかにあるんじゃないかな?」
「なるほどー」
到着するまで船内で寛いでいたエレインも船から降りて、私の呟きを拾ってくれる。
確かに、初めての移動はワクワクして楽しいけど、何度も同じことやってたら飽きちゃうもんね。二度目以降は省略する手段があって当然か。
「それで、ここからはどうするの?」
「まずは、エレインの言った通りポータルの登録だな。その後は、町を巡って主要施設の確認とか、発生するクエストを探したりっていうのが基本ではある」
「基本、ってことは、基本じゃない選択肢もあるんだね」
「それはもちろん、登録が終わり次第いきなりフィールドに出てガンガン先に進むパターンだ。攻略情報ゼロで突っ込む」
私の問い掛けに対し、ティアが提示した二つのルート。無難にやるか、ガンガン行くか。
それぞれどうしたいか聞いてみると……
「まあ、町を軽く見回ってからの方が楽ではあるよね。他の配信者さんもやるから、需要はそんなでもないかもしれないけど」
「私はお姉様方についていきますわ!!」
エレインとボコミは、それぞれそんな感じ。
チラリとティアに視線を向ければ、こくりと一つ頷きが返ってきた。どうやら、今回は私に決めさせてくれるらしい。
うーん、それなら……
「視聴者のみんなは、どっちがいい? 好きな方言ってみて!」
私は、カメラに向かってそう問い掛けることにした。
ぶっちゃけると、町を回るのも、このままフィールドに繰り出すのも、どっちも面白そうではあるんだよね。
だったら、せっかく配信してるんだし、見てくれてる人達が期待する方に突き進むのが一番盛り上がる気がするんだ。
『おっとこっちに振って来たかw』
『ガンガン進む方に一票!』
『ベルちゃんが町中でどういう動きするのか気になるなぁ』
『町中は他の配信でもやってるし、せっかくフルメンバーいるんだから早く戦闘が見たい』
『クエスト気になるけど、まあ後からでも出来るしな』
『情報ゼロで突っ込むワクワクは最初だけ』
『そろそろ脳筋ドSプレイが見たいんだ』
「うんなるほど、取り敢えず最後の人は出てきなさい」
杖を構えて凄んで見せれば、『可愛い』『可愛い』『画面越しだと普通に癒される』となぜか真逆の反応。一部怖がってる人もいないではないけど、最終的にはそれも『それはそれでご褒美』とかって意見に収束した。
ねえ、このチャンネルなぜか変態が多い気がするんだけど? 気のせい?
『気のせい気のせい』
『人類皆変態なんだよ』
「それは絶対に違う」
否定するも、なぜか賛同は得られない。解せぬ。
というか、また話が脱線してるよ。駄弁るのも楽しいけど、気を付けないと話が進まないのは難点だね。
「まあともかく……ざっと見た感じ、まずはガンガン行けって意見が多いみたいだから、私達はまず、ノープランで攻略に励みたいと思います!! 町中の探索はその後で!!」
『おーー!!』
『いけいけ!』
『そのまま最後まで攻略しちまえ!』
盛り上がるコメントを横目に、改めてパーティのみんなに確認の意味を込めて視線を送れば、それぞれ同意の首肯が返ってくる。
よーし、それじゃあいよいよ、新エリア攻略開始だ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます