第43話 ドMタンカーと滞空戦闘

「さて、どうするか……!」


 ボコミに向かって突っ込み、両手の杖を叩き付けながら、頭ではこの子を攻略する術を必死に考える。


 圧倒的なHPと、それを支える自動回復スキル。

 攻守の切り替えが上手くて、私の立ち回りや回避行動すら念頭に置いて追い詰めてくるPS(プレイヤースキル)は、こう言ってはなんだけどクッコロさんと比べ物にならない。


「動きが雑になってますわよ! 《パワースラスト》!」


「くっ!!」


 私の攻撃が途切れた隙に捩じ込むように、再装備した槍の穂先が襲い掛かる。

 直撃を避けるも、ちょっとだけ掠ったその一撃だけで、私のHPが一割以上持っていかれた。


「でやぁぁぁぁ!!」


 お返しとばかりに懐へ飛び込み、殴る。殴る。殴る。

 足への攻撃で体勢を崩し、すかさず叩き込んだ頭部と腹への同時攻撃は、割り込まれた手足によって防がれた。


 ダメージは通るけど、これじゃあ足りない。


「《グランドブレイカー》!!」


「っと……!!」


 無理矢理放たれた範囲攻撃スキルから逃れるように、私は一旦距離を取る。

 ボコミも、あくまで仕切り直すつもりで使ったんだろう。躱されたことを悔しがる素振りも見せず、盾と槍でガッシリと身を固める。


「キツいなぁ」


 思わずぼやき、チラリと視界内に写るタイマーを確認。

 これまであまり気にしてなかったけど、決闘にだって一応制限時間がある。今回だと五分だ。

 それが過ぎれば、残りHPの割合が多い方が判定勝ちってことになる。


 残り時間は三分、それが尽きる前に、あれだけ殴って未だに八割近いHPを消し飛ばさないといけない。


「でも……燃えてきた!!」


 ティア以外にも、強い人はたくさんいる。

 当たり前なようで、これまでモンスターとばかりやり合っていたから意識してこなかった事実に気付いて、私は胸が高鳴っていくのを感じた。


 だって……これを乗り越えれば、ティアにまた一歩近付けるってことだからね!


「行くよぉ!!」


 高鳴る気持ちのまま、私は再び突っ込む。

 真正面から杖を叩き付け、隙を作り、小さな体を活かして強引に懐へ飛び込んでいく。


「また同じ手ですの? 何度やっても同じですわ!」


 私のバカ正直な突撃に対し、ボコミは弱点部位のみを上手く庇い、凌ぎ続ける。

 確かに、さっきから懐に飛び込むまでは成功してるけど、毎度私が削るよりも、途中で少しだけ反撃を受ける私の方が痛いね。


 だから、今回は少し趣向を変えることにしよう。


「それなら、これはどう!?」


 それまで弱点部位を狙うばかりだった攻撃の目標を、ボコミの腕に変更する。


 防御の要である、盾を持った方の腕に。


「なっ!?」


「《マナブラスト》!!」


 殴り付け、大きく跳ね上がった腕に対して魔法スキルを発動。後ろ側から盾を思い切り叩き、ボコミの手から弾き飛ばす。


 これまでは、盾の存在で動きや狙える場所が制限されていたけど……それを失った今なら!!


「《魔法撃》!!」


 CTが明けた強化スキルを発動し、最適な間合いで両手の杖を振るう。

 足でその場にしっかりと踏ん張り、全身のバネを活かして左右交互にボコミの体を殴って殴って殴りまくる。


 それに対して、ボコミは槍を盾代わりに、空いた手足も使って防ごうとするけど、やっぱり盾を失ったのが大きいのか、HPの減りがこれまでの比じゃない。


 左の杖が槍に防がれればそれをかち上げ、右の杖で空いた脇腹を痛打。どうにか杖を押さえ込もうと手を伸ばしているのを見て取るや、私は思い切り踏み込んでボコミの額に一発頭突き。揺らいだ頭へと両手の杖を叩き込む。


 ゴリゴリと削れていくHPは留まることを知らず、僅か十秒ほどで半分を割り、残り四割程度に。


 これなら、三十秒かからず削りきれる……!!


「くっ、させませんわ! 《リベンジャーズブラスター》!!」


「っ!!」


 いつの間にかCTが明けていたのか、ボコミの槍から必殺のスキルが放たれる。

 とはいえ、こんなヤケクソで放たれたスキルを喰らうほど私だって甘くない。

 掠っただけで蒸発しかねない攻撃を、余裕を持って躱し……その一瞬、私の連撃が止まってしまったことに気付き、失敗したと内心で吐き捨てた。


「これ以上、削らせませんわ……!!」


 ボコミの指先が宙を掻き、捨てたはずの盾が戻ってくる。

 アイテムショートカットキーによる再装備……! そうだよね、槍を登録しているなら、盾も登録してたっておかしくない。本当に厄介な!!


「弾き飛びなさい、《シールドバッシュ》!!」


 巨大な盾がエフェクトを纏い、壁となって押し寄せる。

 元のサイズが大きいのもあって、この攻撃は距離を取らないと上手く躱せない、私にとっては厄介なスキル。


 でも……ボコミ、焦って使いどころを間違えたね。

 このタイミングなら、私の迎撃だって間に合う!!


「うおりゃあ!!」


「っ!!」


 振り抜いた杖が盾の側面をピンポイントで叩き、《パリィング》の効果でスキルを強制終了させる。

 隙を晒したボコミの懐に飛び込みながら、けれど私は少しだけ迷っていた。


 さっきは不意打ちだったから盾を飛ばせたけど、流石に二度目はそうも行かないと思う。とはいえ、盾を残したままの攻撃じゃ、致命打には至らない。


 なら、どうするか。盾があっても、それを上手く使えないように封じ込める手段。それは……


「……そうか! うおりゃあ!!」


「きゃあ!?」


 上体が泳いだボコミの体を、下からかち上げるように殴り飛ばす。

 空に向かってふわりと浮いたボコミに向かい、私は更なる一撃をお見舞いした。


「《マナブラスト》ぉ!!」


「くっ……!!」


 私の魔法スキルを咄嗟にガードするボコミはしかし、空中で踏ん張りが利かないのもあってそのまま弾き飛ばされる。


「これでどうするつもりですの? 飛んでようとなんだろうと、私の回復スキルは健在で……」


「でも、足場がなくて自由が利かない相手なら、後ろを取るのも簡単だよ」


「なっ!?」


 ふわりと浮かんだボコミを追い掛け、私もまた跳び上がる。

 あれだけ散々見せ付けられたPSも、こんな状況じゃ発揮出来ない。あっさりと背後を取った私は、無防備な後頭部を全力で殴り飛ばす。


「どりゃあああ!!」


「ふぎゃ!?」


 女の子らしからぬ声を上げて吹き飛んだボコミが、ぐるぐると回転しながら決闘エリアにぶち当たって、ようやく止まる。

 目が回ったのか、少し焦点の合っていないその眼前に、私は《空歩》スキルで急接近した。


「もういっぱぁつ!!」


「ぎゃん!?」


 頭をかち割る勢いでぶっ叩き、飛んでいくボコミ。

 本当なら、ここで追撃は終わり。一度着地しないと《空歩》スキルだって使えない。


 でも……私は"エリア制限の壁"を足場に見立てて蹴り飛ばし、再び空を舞った。


「まだまだぁぁぁぁ!!」


「ちょっ、待っ……ふごっ!?」


 痛みは無くとも何度も頭を殴られて、ぐるぐると体ごと回転しながら空の旅。そんな状況じゃあ私の動きどころか、自分の体の状態すら掴めないんだろう。反撃はもちろん、まともな防御行動すら取れていない。


 無防備なボコミの弱点を何度も殴り飛ばし、空歩と壁蹴りの併用で追い続ける。

 何とか防ごうと適当にスキルを打ったりしてるみたいだけど、そのどれもが明後日の方向に飛んでいって、全く牽制にもなっていなかった。


「ふあっ、ぐっ、あぁぁ……!! この、情け容赦ない徹底した蹂躙……!! まさしく、あの時と同じ……いえ、それ以上のっ……!!」


 減少を続けるボコミのHPが、ついにレッドゾーンへ。

 残り一割を切り、なぜか全身から力が抜けて緩み切ったその顔面に向け、私は両手の杖を振り被った。


「これで、終わりだぁぁぁぁ!!」


 渾身の力を込めた一撃が、ボコミの体を地上へと叩き落とし、HPゲージを粉々に粉砕する。


 こうして、ティアの姉妹の座を賭けた決闘は、私の勝利で幕を下ろすのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る