第40話 連携訓練と久々の町
「ココアちゃん、お願い!」
「うん。《オフェンシブオーラ》、《エスケープオーラ》」
「行くよエレイン!」
「任せといて!」
私が《空歩》スキルを手に入れて三日。最近はエレインやココアちゃんと一緒に、対空戦闘の連携を煮詰めてる。
本番ではティアと一緒にやるつもりではあるけど、一度連携を意識することを覚えれば、急造パーティでもすぐ形に出来るからやっておいた方がいい、というのはエレインの言。
ともあれそんな理由で、私はココアちゃんのサポートでATKやAGIを引き上げて貰いつつ、同じくステータスが上昇したエレインを杖の上に乗せ、上空を飛ぶエアコンドルに向けてぶん投げる。
「てやぁぁぁぁ!!」
「《大跳躍》!! そして~、《ツインスライサー》!!」
雄叫びと共に打ち上げられたエレインは、スキルの効果も合わせて普通なら絶対に届かないような高空まで一気に舞い上がり、攻撃スキルでエアコンドルを叩き落とす。
そこへ向け、私自身もまた地面を蹴った。
「《空歩》!!」
足りない跳躍距離をスキルで補いつつ、落ちて来たエアコンドルの頭をぶん殴る。
ギリギリHPが残ったその体を蹴り上げ、トドメはエレインに任せて私は次の個体を狙う。
「もういっちょ、《空歩》!!」
エアコンドルの体を足場にしたことで、《空歩》スキルの使用制限は解除。更に空へと舞い上がる。
その先にいたエアコンドル目掛け、両手の杖を構えた。
「いっくよぉぉぉぉ!! 《マナブラスト》ぉ!!」
無防備に飛んでいたエアコンドルに二本の杖を叩きつけながら、新しい魔法スキル。
弾速は遅いけど、ゼロ距離でぶっ放せば関係ない。強烈なノックバックが発生するこれなら、仕留めきれなくても飛行型を地面に叩き落とせる!
「キュオオ!?」
「うきゃあ!?」
難点は、私自身も爆発に巻き込まれて吹っ飛ぶことだけど。
うーん、これどうにかならないかなぁ。いや、普通はゼロ距離でぶっ放さなければいいっていう結論になるんだろうけどさ。
「何やってるの……《ジャンピングギフト》!」
「あはは、これも実験みたいな?」
吹き飛ばされて落ちていく私の真下に、ココアちゃんが足場を用意してくれた。それに足を着けて体勢を整え、そのまま地面へと着地する。
このゲームは落下ダメージがあるから、あんまり高く跳び過ぎると降りる時に困るんだよね。《空歩》やココアちゃんのアシスト魔法があれば、途中で勢いを殺してノーダメで降りられるんだけど。
「でもいい感じに立ち回れてるね。これなら新エリアもどうにかなるんじゃない?」
そんな私達の元へ、墜落した二体のエアコンドルにトドメを刺したエレインが戻って来た。
中々嬉しいその言葉に、私は思わず笑みが零れる。
「ふふふ、ティアと一緒にやったことあるエレインがそう言うなら、中々悪くない仕上がりってことだよね。よーし、この調子でレベル上げ頑張るぞ!」
「その前に、いい加減町に戻った方がいいんじゃない? ここ数日、狩場と私のホームを行き来するばっかりで、インベントリもいっぱいでしょ、どうせ」
「ああ、そういえばそうだった」
ココアちゃんに言われてインベントリを確認すれば、確かにエアコンドルやその他モンスターのドロップアイテムでギッチギチになっていた。
うん、レベル上げに夢中でインベントリの残り枠を気にしないのは悪い癖だね。お金も強くなるには大事な要素だし、気を付けないと。
「それじゃあ、偶には町に戻ろうか!」
「普通は一日に一回は立ち寄るものなんだけどねー」
エレインに苦笑されながら、私達はベースキャンプへと帰還する。
相変わらずの賑わいを見せるその町だけど、以前に比べてちょっとだけ、私に向けられる視線が増えたような気がした。
「……? 私、見られてる? なんで?」
「まあ、最近一部で話題のネタビルドプレイヤーだからね」
聞けば、どうもプレイヤー全体、というほどではないにしろ、私の名前が水面下で騒がれているらしい。
切っ掛けはもちろん、私がアップしたエルダートレント討伐動画と、この間の決闘騒ぎのログ。
特に、最強魔術師でありゲーム内にファンが多いティアの姉を名乗ったことが大きな物議を醸し、“ベル”の名前は知名度だけなら既にそこそこの域にあるんだって。
「決闘したいって言ってるプレイヤーも結構いたよ。ベルはほとんどフィールドでモンスターと戦ってるから、中々捕まらないって嘆かれてたけど」
「まあ、レベル上げで忙しかったしね」
決闘はシステムとしてちゃんとあるし、勝てば経験値も入るんだけど、特別多いわけでもない。ぶっちゃけ、プレイヤー同士の腕試しという意味合いが強くて、やることをやり尽くして次のアップデートを待ってるプレイヤー達の遊びとして利用されている。
だからまあ、あれだけ啖呵を切っておいてなんだけど、流石に武蔵坊弁慶とかみたいに、デンッと橋の上に構えて決闘相手を待つような真似をするつもりはないんだよね。ティアのファンには悪いけど、そういうのは私自身のレベルがカンストしてからだ。
まあそもそも、掲示板で話題に上がるほど拡散されるなんて予想してなかったわけだけど……。
「ベルは変わり者だから、どうしても目立つよ。ほら、あんなのもいるし」
「ココアちゃんどういう意味……って、あんなの?」
変わり者評価の真意を問おうとしたけど、それより先に指差された場所へ目を向ける。
そこにいたのは、エレインと同い年くらいに見える一人の女の子。
金髪ドリルロールというなんとも弾けた髪形に、お嬢様みたいなドレス装備。そこに、大きな盾と槍を背負ったなんともアンバランスでギャップの凄い装備を身に付けている。
そんな少女が、近付く私達を見てキッと鋭い眼光を向けた。
「ふっ、ふふふ……ようやく姿を現しましたわね、ベル!」
「えっ、私?」
まさかの指名に驚いていると、金髪お嬢様はその瞳をくわっ! と開く。
「当然ですわ!! あなたと戦うためだけに、ここで張り込みを続けること早三日……! ここで会ったが百年目です、私と決闘なさい!!」
「ええ!? なんで!?」
三日が百年になってる!?
じゃなくて、なんで私狙われてるの? こんな女の子に襲われるような心当たりは……えっ、もしかして。
「あなた自身が言ったことでしょう? ティアお姉様の姉妹を名乗っていいのは私だけです、姉妹の座を賭けて勝負ですわ!!」
「えぇーーー!?」
いや、えぇ!? 確かに私、ティアが欲しければかかってこいとは言ったけど、流石に姉妹の座を賭けて戦うのは予想外だよ!?
どうしたものかと思ってエレインとココアちゃんを見ると、それぞれ何とも困った表情を浮かべていた。
「ティアのおっかけって、変なのが多いからねー。しかも、大半がやられてもめげないどころか喜ぶようなドMの集まりだから……そこに喧嘩売ったわけだし、がんばれ、ベル! ティアの身の安全はベルに掛かってるぞ!」
「がんば」
「ちょっ、ココアちゃんまで!?」
頼りのココアちゃんにまで丸投げされ、退路が無くなる。
とはいえ、まあ……予想外の形とはいえ、ティアの追っかけに対して防波堤になろうとした気持ちに変わりはない。
となれば、やることは一つだ。
「分かった、ティアのお姉ちゃんとして、私が相手になる!」
「ふふ、いい度胸ですわ……!」
ブオン、と大きな盾と槍を抜き放ち、手慣れた様子で私に突きつける。
そして、決闘申請と同時に、高らかに名乗りを上げた。
「私の名はボコミ! ティアお姉様の妹分(自称)として、勝負ですわ!!」
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