製造の結果
五日後。
DNAの採取も終わり、後は手術をするだけ。
理論上は完璧。
マウス実験だって完璧だ。
これが上手くいけば、我が国は能力者だけの軍隊を作ることができる。
俺と、俺の弟と、ノゾム。
まあ、あと何人かは増えるだろうが、たったそれだけの人数で、始まった戦争をすぐに終わらせることができる。
しかも勝利で。
合理性を考えて、トウシロウはこの実験を正当化することにした。
この国の人間だから、この国の人間を使って、この国の人間が死ぬのを防ぎ、戦争を終わらせる。
「やるか」
白衣をまとったトウシロウの前には、ヒサトが横たわっているベッドがある。
ヒサトはすやすやと眠っていた。
父さんが、ここまで背負って連れてきたのだ。
「なぁトウシロウ。やっぱり」
「いまさら変更なんできないよ」
父さんの言葉を即座に否定する。
「そう、だよな」
父さんは、嘲るように笑った。
「そういや、母さんは?」
「……母さんなら、外で待ってるってさ」
「へぇ。……来なくても良かったのに」
「一緒に行くって聞かなくてな」
親子なのに、父と息子なのに、会話のキャッチボールがとてもぎこちない。
俺はこうやって大切な存在を失い続けていくんだな、とトウシロウは絶望した。
「そろそろ始めるから。この部屋も閉め切るし、あとちょっと準備もあるから、廊下で待ってて」
「分かった。…………トウシロウ」
部屋を出て行こうとした父は、息子のことをじっと見て、
「白衣、似合ってるぞ。ま、トウシロウもそれくらい大きくなったってことだよな」
「うん。ありがとう」
「……成功させてくれよ」
父はやっと部屋を出て行った。
トウシロウはベッドの上で気持ちよさそうに寝ている弟の顔をしばらく見つめて、
「当たり前だ。天才なんだから」
そうつぶやいてから、弟を隣の部屋――手術室へ運んでいく。
これは理に適っていることなんだ!
吐き気もすべて飲み込み、トウシロウは眠っているヒサトと一緒に手術室に入った。
そこにはすでに眠っているノゾムもいる。
ノゾムは自分の意思でやってきて、自分の意思でトウシロウにすべてを託した。
「これでいいんだ」
もう後戻りなんてしない。
できない。
後悔なんてない。
これから
口を真一文字に結び、出てきそうな懺悔の言葉を必死で抑え込む。
「これがベストなんだ」
トウシロウは二人に必要な器具を取り付けていく。
無表情で淡々と作業を進める。
戦争に勝つために。
この国の平和を守るために。
手術は、一時間とかからず無事に成功した。
トウシロウは、そのまま二人が自然と目覚めるのを待とうとしたが、ヒサトだけは眠っている状態で父親に引き渡すことにした。
心配しているだろうし。
「成功したのか?」
弟が寝ているベッドを押しながら手術室から出ると、父さんだけが近寄ってくる。
母さんはどこだろう。
まあいいや。
「もちろん。とりあえず目覚めたら、これを投与して欲しい」
トウシロウは父さんに透明な液体の入った注射針を手渡す。
「これは?」
「能力の増幅剤だ」
「何故そんなものが必要になる?」
「移植者は俺みたいに訓練で能力を強くすることはできないんだ。これはマウスで検証済みだから」
「なるほどな。だから薬で無理やり強く……」
「無理やりじゃなくて、そうするしかないってこと」
無理やりなんていうなよ、とトウシロウは思った。
まるで、俺が悪いみたいじゃないか。
「むしろ努力なしで強大な力を得ることができる。もちろんヒサトはまだ小さいから、能力の覚醒度は抑えて作ってある」
「そうか」
父親は深く頷いてから、ヒサトを背負った。
ヒサトはまだまだ夢の中。
広場で走り回って遊ぶ夢でも見ているのだろうか。
「じゃあ、明日の朝にはトウシロウも帰って来られるか?」
「そんなにかからないよ。ノゾムが目を覚まして、能力が本当に使えるかどうかの確認がすんだら帰る。ヒサトの能力についても確認しないといけないし」
「わかった。じゃあ明日は家族一緒に、飯でも食べに行くか」
「……できたらね」
「必ず行こう」
父親は笑顔を浮かべ、帰っていった。
トウシロウは白衣を脱いで、「あああああ!」とうなりながら壁に投げつける。
あざけるように笑いながら、ノゾムのもとへ戻る。
麻酔が切れるまで、あと一時間弱。
「何やってんだよ。俺は……」
「……トウシロウ。どう、だった?」
ノゾムは想定よりもだいぶ早く目覚めてしまった。
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