烈風「真田幸村戦記」(真田助村編)6

    六


 武吉は、先ずはイギリスの外交団と迎賓館化の会議場で対面した。

イギリスもそれなりの顔触れで訪問してきた。

 当たり触りのない挨拶から、イギリスの全権大使が、

「いやあ・・・鳳国軍は本当に強い。我々が束になって掛っても鎧袖一触で、何度も艦砲射撃で国ごと破壊されましたな。もう、鳳国軍と戦うのは懲り懲りです。今後は、こうして、話し合いで済むことは話あいで、ものごとを決めていきたいものです」

 武吉も大きく頷いて、

「我々も、戦争は趣味ではないのです。出来れば、穏やかな話し合いこそが希望なのです。今回の会談も、実は各国の皆さんと、話し合いで物事を取り決める場を持ちたいものという希望から、まずは一国ずつ、忌憚の無い話し合いの場を持ちたいということで、まずは世界のリーダーのイギリスから話をということでお招きしたのです」

「目下、鳳国とは休戦状態にある訳ですが、これを出来る限り講和条約にいたして、通商条約にまで持っていきたいと希望しております」

「それには、相合不可侵条約が必要でしょうでしょう。具体的に、互いの国境の確立が重要になってきます。我々は、現状維持の国境線の確立を考えています。一番問題になるのは、新大陸の北米とカナダと言うことになります。西経百十度、北緯四十度さらに、グリーン川の西の寄った地点が重要な基点となります。この基点より西経百十度より西側を鳳国の領土とし、更に北緯四十度以南をも鳳国の領土とします。いわゆる南部ですが、メキシコに到るまでです。メキシコもご存じのように、我が鳳国の領土となっていますが、イギリスとは無関係です。現在、ただいま申上げた線上には、鉄壁に長城、及び城塞、砲台、トーチカが随所に構築さえて居り、一目瞭然の国境を構成いたしております。これが、交渉の国境線となります」

 と、両者の向かい合った中央の大きなテーブルが置かれてある上に、大きな世界地図と北米の地図が展(の)べられており、朱線で国境線が引かれてあった。

「ここまで、明白に区分されては、我々としては手が出ませんな。戦えば、我が軍のみに被害が出る。海上には、無数の戦艦が主砲を我が領土に向いている。我々は、この上更に、戦いを挑むほど愚かではありません」

「では、このラインで、不可侵条約を結ぶと理解してよろしいですな」

「他に方法はありません。了とします」

「良かった。これ以上の戦いは無意味です。我が国では、交渉不調の場合に備えて、戦力を増強しておりました。それをつかわすに済んだのは何よりです」

 イギリスの全権大使と執権の武吉が固く握手をした。

 まだ、アメリカもカナダも独立をしていない。

従って、イギリスの意思がすべてであった。

「もう一つ、ご無理をお願いしたのですが」

「ほう、何でしょう?」

「インド洋に浮かんでいる小島のことです。イギリス統治領となっているチャゴス諸島をお譲り願いたいのです。現地を拝見いたしましたが、現状は単なる岩礁で無人島です。実行支配いたしている様子もありません。如何でしょう。我が国でしたら、大スンダ列島の外にあるクリスマス島、ココス諸島、マクドナル諸島は、豪州の統治領になっています。セイロン、モルディヴ諸島、ラッカディヴ諸島を手にして言います。理由はお判りですよね。スエズ運河から紅海に出て、アデン湾に到りインド洋ですが、ここに海賊がでます。折角、スエズ運河を使って戴いたのに、海賊に襲われたのでは、スエズ運河の意味はありません。そこで、海賊から商船を守るために、鳳国の巡視隊が警邏しようと思って、小さな島々の人々と話をして、巡視隊が休める場所と、海賊がそうした島々に隠れて居ないかをも調べていこうと言うことなのです。ご協力願えませんが」

「なるほど、そういうことでしたら、お断りする理由はありませんな」

「ありがとうございます。こうしたことも含めて、世界のみなさまのお役に立つ『世界連合』構想という組織を作っていく頃合いになったのではないかという事について、是非、イギリスのご意見を賜りたいのです。このようにしたら、欧州は纏まって行くぞ。たとえば、フランス、ドイツ、スペイン、ポルトガル、オランダ、ベルギー、チェコ、オースリアを一同に会して『世界連合』において話合って行きたいのです」

「それは、素晴らしい。イギリスは賛同します。鳳国が『世界連合』の旗を振ってくだされば、必ず成功いたします」

 イギリスとの会談は大変に成功した。

 続いて、フランス、ドイツ、オランダ、スペイン、ポルトガル、ベルギー、デンマークと言った国々と、先ず個別に話をしていった。

各国とも、かなり力の這入った使節団を送ってきた。

フランスに対しては、

「南米のギアナを占領して、すでに実質的支配をしているが、いつでも取り返しにきても構わない」

 といった。「フランスとギアナでは、距離が遠隔地過ぎるでしょう。統治はむすかしいと思います」

「しかし、彼らには、独立するだけの力が無いので、我々に援助を求めてきました。食糧支援を行い、生活全般の指導を行っていくなかで、我々に併合を求めて来たので、要望を聞き入れたものです。現在の彼らの生活水準を御覧になりましたか。耕作地は、すべて青々として、収穫も上出来です。租税は、他の国々同様に四公六民です。消費出来ない分は国で買いあげます。その金子で、色々なものを購入しているようです。食が充分に、成ってくると、衣類に欲望が向かいます。鳳国では、色々な布地や衣類を生産しています。それらを運んで見せますと、すでに、貯蓄が出来ていていますので、歓喜して、購って行きます。次は、家が欲しくなってくるでしょう。その用意も出来できています。そうしたことが、フランスに出来ますか? 論より証拠です。現地を見て来て下さい。植民地でも構いませんが、占領したら、そのまんまでは、現地の人々が気の毒です。鳳国が統治している領土では、必ず民政にも細やかな心配りをしています。病院、学校、警察、治安、保険衛生所も作ってあり、医師、看護師、介護士も配置してあります。フランスで出来ますか?」

「判りました。ギアナは鳳国にお任せします」

「ご理解、誠に感謝いたします。次に『世界連合』の話題に移ります。すでに、イギリスにはご賛同頂いておりますが、世界は平和を希求しております。暴力装置を使う、決定的な状態に成る前に、話し合いで、紛争以前に解決の筋道を付けたり、伝染病に対して、各国で、話合って、拡散を防げないか、という世界規模の、会議をもって、紛争や伝染病を、治癒してゆく、方策を構築したり、してはいけないものか。人類の英知を、集約出来る場が欲しい。それが『世界連合』と言うことなのです。ぜひ、貴国にもご賛同願えないかと、切実に希求しております」

「それは、素晴らしいことです。みんなが望んでいたことです。我がフランスも、賛同いたします」

 ということで、他の西欧諸国が賛意をしめした。

ドイツも例外ではなかった。

 一応、一番面倒な西欧諸国の賛同を得たので、さらに、北欧諸国を招いた。

ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマークと話し合いを持った。

西欧諸国が賛同しているところから、この四個国も、

「鳳国が、旗を振って下さるなら」

 というので、参加を希望してきた。

 ただ、フィンランドは、ロシアを、徹底的に、毛嫌いしていた。

 数世紀に亘って、国境を侵し続けてきた、恨みによるものであった。

 しかし、そのロシアを徹底的に痛めつけてくれたのは、鳳国である。

 よって、フィランドとロシアの国境をキッチリと封鎖してくれないかと要望してきた。

 続いて、バルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアと会談を持った。

 三国も、ともに、フィンランドと、同じ悩みを訴えてきた。

 さらに、ベラルーシ、ウクライナと会談をもった。

 各国が、ロシアとの同じ悩みを訴えてきた。

 その結果を得て、武吉は、武蔵、十兵衛を中心にして、これの作戦の会議を持った。

 各国と会談の場には、幹部全員が出席していた。

 六個国ともが同じ悩みを持っていた。

「ロシアの隣国の悩みと言うことになります。さらに、東欧諸国とも会談を持つことになりますが、彼らの言うことは、食糧危機の話に尽きると思います。これは、交易の回数を増やすことで解決していくと思います。地主と農奴の関係は、各国の内政事情ですから、突っ込みようがありません。それよりも、ロシアとの隣国関係の悩みでしょう。これは、話合って解決の付く問題ではありません。ロシアは、東側及び南側を我が鳳国によって完全に塞がれたしまった。そこで、はみ出すようにして、これらの六国に侵犯していくようになった。私の考えですが、今回の『世界連合』会議には、ロシアを省こうと思うのですが・・・」

「それは、適切だし面白い考えだな」

 最初に賛同したのは十兵衛であった。

 目下、一番、戦闘として接触の多い相手であった。

「一層のこと踏み潰してしまうか。その方が、後顧に憂いが残らないがな」

 と、武蔵が言った。

「そのためには『大義』が必要です」

 武吉が言った。

「単なる武力紛争では、他の国々が、単なる野蛮国としか、見なくなるでしょう。見なくなるでしょう。それでは、交易を行っていく上でも損です」

「武吉、いや、失礼、執権殿。どうしろと?」

「はい、宮本宿老様。まずは『世界連合』を成立させて、議題の一つとして、いまの六個国の悩みを議題として出します。それの解決として、六箇国プラス鳳国が『世界連合軍』となって、出席各国の承認を得ます。その上で、隣国、六国のために、長城及び要塞、大砲台、トーチカ、長城、その他の軍事施設を建設していきます。費用負担については、特別債務の証書を発行して、長期返還を互いに承認します。それと同時に、兵役の負担義務を国力に応じて負担させます。戦力には役に立たないでしょうが、それぞれが、兵役の負担義務を負うことで、立派に『連合軍』となります。これで『大義』が立ちます。世界の警察、大鳳連邦帝国となるでしょう。その上でなら、踏み潰すのも何をなさるのも勝手です」

 武吉が言い終えると、拍手をした者がいた。

 真田信幸であった。

「どんな親父でも、成長した子供には負けるものよ。立派に理が通っている。『世界連合軍』か。よく考えた。立派に世界のリーダー国になる。世界の警察だな。それが、大鳳国だ。それまでは待つ。支度をしてな。また、松井、内田組の出番だ。三、四年は掛ろう。『世界連合』を作る迄にはな。それまでに、ロシアの西側に造る、長城の資材の用意をしろ」

「いつでも、造れます」

 松井と内田が言った。

「頼もしいことよ」

「あと、東欧を説得して、中央アジア、中東、アフリカ、インド、南洋諸国、豪州、武龍、台湾、琉球ですが、朝鮮は外します。天虎国、虎虎国、カナダ、北アメリカは、まだ独立をしていませんので資格がありません。メキシコ、中東アメリカ、南アメリカ、以上でしょうが、殆どは鳳国に這入って居ます。出席するだけです。後から這入ってくる国は、理事国の推薦を得て、全体会議で承認を得ることになります。本部の建物は、この鳳凰城の敷地内にたてます。鳳凰城の西側、シャムのバンコク側に建てます、会議施設、宴会設備、事務棟、小会議室などでしょう。宿泊施設も必要です。『世界連合』ですから、それなりの規模と華麗さが必要だと思います」

 それまで、黙語のまま、話の推移を聞いていた、皇帝がその席から立ち上がて、

「執権宮本武吉。誠にご苦労であった。いや、苦労は未だ続くが、目鼻が見えて参ったな。注文を付ける。『世界連合』は、理事国数国と議長国、それに部会を付くって欲しい。例えば、軍事委員会、商業委員会、紛争解決委員会、農業改革委員会、食糧委員会、燃料委員会、文化委員会、医療衛生委員会などなどである。商業委員会があることで、七家あるというメジャーの存在に、かなり制限が掛るのではないか。今後の戦争相手は、このメジャーに成ることは眼に見えている。彼らが、自由に振る舞えないために『世界銀行』というものを作り、経済的困窮国に、委員会の承認を得て、担保を取り、融資に応ずることで、戦争をしようと言う国に、軍資金の制約が掛るものと勘考する。委員会の数は幾つあっても良い。悪しきことを成さんとするものに、懲罰委員会で裁判にかけて、悪しきことを成す者には、いつでも、懲罰を掛けられる、仕組みを作るが良かろう」

「ははーっ・・・」

 と一同が平伏した。

皇帝は、ポイントを確りと押さえていたのである。

「議論を続けよ」

 と皇帝が着席した。

 凄い厳かさであった。

 平伏するより仕方がなかった。

 得体の知れない七家の財閥に対して、皇帝は、明らかに敵意を見せた。

 これによって、鳳国は、領土内で産出したものは一切、メジャーと覚しき所には、売買の許可はしないことになる。

 食糧も、大量に買い付けるところには、販売禁止となった。

「今後、三つの運河、シャム、パナマ、スエズのうち問題が起こってくるとしたら」

 といったときに、皇帝が、

「待て。運河は四つぞ。デンマークの、喉首に、土地はドイツから購入したが、バルト海から、北海に直接でられる、便利な運河できている。忘れるな」

「はっ! 申し訳ございません。その四つの、運河の内、スエズ運河のある、エジプトで、問題が起ってくると、思われます。『世界連合』から話が逸れまが・・・」

「エジプトは古い国だ。必ず、土地に関してぐずってくる。すでに、スーダン内に水路を作り、ナイル川の水の流れを変えて、紅海に注ぐように改造した」

「はい。水門ひとつで、確実に紅海に流れます」

 と、松井善三郎工兵将軍答えた。

 松井と内田は共に副が取れて将軍になった。

 共に大将である。

 それとともに、田中長七部衛も農事将軍で大将になっていた。

「現在、スーダンからリビアのスルト湾に水が注がれる運河を建設していております。後一個月程で完成します。スーダンで、水流を二つに割ります。スエズもスルト湾も使えるようになります。水量が豊かですから可能です」

 と、内田将軍が言った。

「どうだろうな。運河のある地域だけを独立させてしまったら」

「紛争地にはしたくないですね。それだと船が寄りつかなくなります」

 と鈴木孫丸いった。

 武蔵は、

「む。それはあるな。ともかくエジプトが、何かを言ってくるまで、何も言うな」

 が、エジプトが言ってきた。

「もう少し土地の使用料を上げて貰いたい」

 というものであった。鳳国が運河を造るまでは何の価値もなかった土地である。一隻の船が通る度に、通行料が這入る。少ない金ではない。七分三分で土地代を払っている。工事に関する費用は全て、鳳国が出しているのである。しかも、鳳国の土木技術がなかったら、運河は造れなかったのである。運河を造る前に、船の通行料の割合は、契約しているのである。

「理由はなにか?」

「他の国々から割合が少ないのではないか、と助言を貰った」

「そんな、内政干渉をしてくる国はどこですか?」

「それは言えない」

「そんなの嘘でしょう」

「嘘ではない。ロシアだ」

「反証をとりますよ。場合に依っては、ロシアと戦争になりますよ」

「それは困る」

「ロシアと戦争になったら、エジプトも覚悟した方が良いですよ。鳳国の強さは知っていますね」

「判って居る」

「なのに、何でそんな文句を言うのですか? 鳳国の技術力を、知っていますか? この運河は、他の国で造れると思っているのですか」

「いや、鳳国だから造れた」

「運河が出来る前の土地に戻しましょう」

 伝令が走った。

 スーダンの水門が閉まった。

 水は紅海に注ぎはじめた。

 みるまに川の流れが変化して、エジプトへの水は流れなくなった。

 結果は思ったよりも早く出始めた。

 運河の水がグングン減り始めたのである。

 それと同時に、エジプトの糸を引いているのはロシアであることが判った。

 それを聞いて武蔵が、工兵隊に命令を出した。同時に十個師団が動いて、フィランドの一番北から長城を築き始めた。

 夏場である。

 鳳軍の工兵の動きは素早かった。重機類が唸りだして土を掘り、掘りを造った、掘った土を、積み上げてゆき、素早く土手に、同時に、仕上げていった。

そこに、ブロックが積まれ、鉄筋が入り、モルタルが塗られていった。

それが何個所で、猛スピードで始まった。

繋がる場所には砲台が運ばれて、そのまま出来たトーチカも、城塞の部分が運ばれて来るとそ、こでジョイントされていった。

フィンランドから、バルト三国、続いてベラルーシ、さらには、ウクライナまで、嘘のような早さで、長城が出来て仕舞った。

ロシアは身動きが取れたくなった。

これで、東西南と塞がれてしまったのであった。

バルト海も塞がれてしまった。

残るは白海だけになった。

しかし、白海には、チャバンガに水雷が何列にも浮かべられていた。

船が出るたびに爆発を起こした。

そこで、『世界連合』の会議が始まった。

すでに、『世界連合軍』が結成されて、ロシアの隣国六箇国が鳳国の支援を受けて冷戦に這入ったことを議題として取り上げられて『世界連合軍』として認知された。

次の議題に、エジプトのスエズ運河が、通行不可になった旨が告げられた。

理由は、ロシアの使嗾で土地代を大幅に値上げしたので、今後もあることなので、運河の水を抜いたというものであった。

代わりに、リビアのスルト湾から紅海に出る運河が出来たので、そちらを使って下さい。と言うことが発表された。

会場には、エジプトの、代表団が来ていたが、逃げるようにして、会場を出て行った。

食糧に難渋している国には、委員会で難渋国が決定されて、支援を受けることが出来るようになった。

先ず、理事国が、選挙によって選出された。

鳳国、イギリス、フランス、ドイツ、トルコ、イラン、インドの七箇国が常任理事国になった。

他にサウジアラビア、ナイジェリア、メキシコ、イタリア、オランダの五箇国が理事国になった。

『世界銀行』の頭取に鳳国、イギリス、フランス、インド、シャムが選出されて委員になった。

他にも幾つもの部会か出来て、それぞれに委員が振り当てられた。

第一回会議は成功裏に終了した。

「農務会」では、買い占めの禁止が決定された。

『世界連合』には入れなかったのは、ロシアと朝鮮であった。

朝鮮の場合は、国として認められなかったのである。

確かに、何処の国とも、交流がなかったことと、余りにも、知名度がなかったのである。

ロシアは、北海の白熊という印象で、強面過ぎて、連合入りを避けられた。


                  *


 ロシアが反撃に出てきた。

 バルト三国に向かってきた。

 が、長城の銃眼に取付いていたのは、鳳国の十兵衛軍であった。

 大砲を数門向けてきたが、その途端に、長城の砲台からその数門に向けて号砲が響きわたった。

 正確な大砲の狙いで、各門のたった一回の砲撃で、ロシアの大砲は見事に吹き飛ばされていた。

つづいて、騎馬兵が向かってきたが、長城の銃眼からの一斉射撃で、前列が撃ち斃された。

 二列目はガトリング銃の激射で、簡単に吹き飛ばされていった。

 バルト三国の兵士たちは雑用であった。

 その凄い反撃振りには、ただただ、ぽかーんとしていた。

「討って出るぞ!」

 十兵衛が叫んだ。

 全員が緊張した。

 戦車、自走砲、戦闘装甲車、装甲車が門の前で、多重で出撃を待っていた。

 やがて、門が開いた。

 同時に、戦車と自走砲が砲を水平にして砲撃しながら走り出た。

 それを追って、戦闘装甲車や装甲車が、ロシア兵に向かって、猛烈な砲撃を開始しながら進撃していった。

 弾丸が走る度に、ロシア兵の体が舞い散っていった。

 その間隙を縫って、機動騎馬隊が、ガトリング銃でロシア兵斃して行った。

 その鳳国の軍隊の強さというのは半端なものではなかった。

 十兵衛は普通の騎馬に乗って、右手に日本刀を持ち、左手にマシンガンを持って、軍を指揮した。

 十兵衛の廻りは、十重、二十重に騎馬が囲んでいた。

それでも、槍を持って掛って来る者がいた。

繰り出されて来る槍を左手の銃剣で払いのけ、右手の刀で敵の首をなで切りに刎ね飛ばしていった。

 まさしく、阿修羅のような戦いぶりであった。

「総統。司令車に乗って下さい」

 という部下の声で、司令車に飛び移った。

 内側から鍵を掛けた。

 が、もう一人、阿修羅のように大刀で敵を斬り伏せている者がいた。

 女であった。

 ケリー中将である。

 十兵衛は、そのケリーを引っさらうようにして司令車に乗せた。

 その後から、

「武蔵だな」

 と、思われる騎馬で、これも鬼神のように暴れ回っている男がいた。

やはり武蔵であった。

 これも司令車に乗せた。

 気が付くと、ロシア兵は誰も居なく成っていた。

 ロシア兵の屍が累々と横たわっていた。

「門の中に入れ!」

 十兵衛が命令した。

「これでよかろう」

 と武蔵が笑って言った。

 連合軍の大勝利であった。

 その後のロシアは、まさに地獄であった。

 北の寒さは駆け足でやってくる。

 食料がないのである。

 四方を塞がれたので、買い出しにも出られなかった。

 日本の戦さで飢餓(かつえ)殺しの策で、有名なのは豊臣秀吉がやった。

 鳥取城の総殺しとも呼ばれた兵糧攻めであろう。

 食料がとことん無くなって、木の皮を煮て喰ったという挿話が残っているほどである。

 ロシアはその状態に追い込まれてしまったのである。

 攻め手は、あとは、ロシアがそのような状態になって、いつ白旗をあげてくるかを、待つだけのことに、なったのである。

 中には頭に血が上って、長城に攻め掛かってくるのを警戒して、そういうのを撃ち落とすだけになった。

 十兵衛と武蔵、ケリー中将が、敵の白旗後のことを協議した。

「ロシアは世界の嫌われ者です。この際に、世界地図からロシアを消し去ってしまうというのも一つの考え方でしょう」

 と十兵衛はいった。

「む。確かにな。儂もその考え方に傾いてはいるがな。他の近隣六国の意見も聞いて見ることが必要だろう。形の上では『世界連合軍』なのだからな」

「そうですね。伝令を出して、鳳国の意見、特に皇帝のいけんを無視するわけにはいかないでしょう。例えば、どういう形であれ、ロシアの名を残すとなったときです」

「二案だな。一つは、ノヴァヤゼムリャ島に移す。二つ目は、コラ半島に、ということだが、儂は一案の方が後々の面倒が無い。それでも、東からベールイ島、ヤマル半島、ヴァイガチ島、コルグエフ島には、見張りと用心の要塞は必要になる。もうここは北極だがな」

 鳳国本部の答えは、隣国六国の結果に委任すると言うものであった。

 六国と鳳国の話し合いが持たれた。

 結果は、十兵衛の一案であるノヴァヤゼムリャ島に移住させる案となった。

 ロシアを消し去ると言う案には、全員が抵抗を覚えた。

 けれども、大陸内には置いておきたくは無くないと言うのが、六国の総意であった。

 しかし、白旗を揚げては来なかった。

 ノヴァヤゼムリャ島への移住に積極的だったのは、フィンランドであった。

 そして、バルト三国とベラルーシ、ウクライナの順であった。

「結論はでたようですね。本部に連絡をとります。鳳国は、みなさんの決定に従います」

 とケリー中将が意見を集約した。

 それを手紙にして鳳国に送った。

 皇帝は、それを見て、

「朕の予想通りになったな」

 と頷いた。

 ロシアから、

「食料を・・・」

 と、言ってきた。

「戦争中である。常識に外れている」

 と答えた。

 すると、最期の兵であろうか、よろよろしながら、それでも戦いの意思を見せて、小銃を撃ちかけ出来た。

 やむを得ず応戦した。

 六国の兵に任せたが、どうにも、もたついていたので、鳳国軍が、

「一斉射撃!」

 の号令のもとで、小銃が銃眼から発射された。

 攻城の兵が斃れていった。

「腹が減っては戦は出来ぬ」

 の見本であった。

 ある種の哀れを感じた。

 鳳軍が、握り飯を一千人分ほどを木箱に入れて門の前に置いた。

 しかし、それには、毒が仕込まれていた。

 六国のものたちには言わなかった。

 それはあっという間に消えた。

 それで、一千人以上が斃れたあとであった。

 握り飯を食べたいが、食べたら死ぬ。

判って居て、握り飯を食った者が何人も出た。

 以前、毒入りの紅茶を出された仕返しであった。

 それは、六国の者たちにはいわなかった。

 遂に騎兵用の馬を殺して喰った。

 これで、食べるものはなくなった。

 つぎに、米を強飯に炊いて、門の外に置いた。

 警戒して取りに来なかった。

 それを門の外に出て美味そうに喰って門の中に入った。

 おにぎりの箱が消えた。

 それを食べた者は悶絶して死んだ。

 胃の中に何も無い時に、いきなり強飯を食べたら、大抵は死ぬのである。

お握りのそこに、

「いきなり、硬いものを食べたらしぬよ。お粥にして食べなさい」

 と、書いてあったのである。それもロシア語で書いてあったのである。

 が、後の祭りであった。

 残りの部分をお粥にして食べた。

 何事もなかった。だが、鼠を捕まえて食べるようになった。

 飼い猫、飼い犬は、全て食べられていた。

「もう駄目だ・・・」

 一人が言った。

 すると、その一言が瞬く間に伝染していった。

 やがて、白旗が揚がって使者がきた。

「こちらとしては、無条件降伏が絶体条件である」

「了とする」

「まず、武装解除。軍資金の没収。一発でも銃の音がしたら皆殺しする。静かに、白海からノヴァヤゼムリャ島に、全住民、国民は移動して頂く」

「えっ!」

 と使者が絶句した。

「今後、ロシアといったら、ノヴァヤゼムリャ島が領土となる。現領土には、一人として住むことは許されない。一刻も早く、ノヴァヤゼムリャ島で、ロシアの復興が、かなうことを、希望している。これが、近隣六国と鳳軍の『世界連合軍』の総意である。北海の白熊さんは近隣に嫌われましたね」

「あんな北極の島には住める訳がない」

「現に住んで居る人はいますよ。研究してロシアを、再建してください。いやなら、このままです。我々としては痛くも痒くもない。それが無条件降伏と言うことです」

「帰ってみなと相談する」

 使者は帰っていった。

「まさか・・・」

 という条件だったのである。

 武蔵が、いきなり、

「掃討作戦を敢行する。降伏した者は捕虜。抵抗した者は迷わず射殺せよ。騎馬隊と歩兵で行え。全員盾を持て」

 とこれを敢行した。

「捕虜は、東シベリア、アラスカ、北カナダに送れ。念のため、戦車、戦闘装甲車を、随行させろ」

 と、南側からローラー作戦で敢行していった。

 一日これをやっただけで白旗を揚げた。

 使者がきて、

「ノヴァヤゼムリャ島に移ることを了解した。しかし、何も食べていない者が大多数である。食料が欲しい。動けないのだ」

「判った。支援しよう。取り敢えず。スープから送る。つきにピロシキとか、食べ慣れた物の半完成品を送る。その後は、小麦粉、コーン、馬鈴薯、人参、キャベツ、グロッコリーなどなどを支援する。白海まで来れば、鳳国の輸送船が相当の数で待っていて、島まで送る。相当の人口であろうから、輸送船は往復輸送をする。現地について、必要な住宅として、移動式のパオ一千棟支援する。他に薪ストーブと薪を一千棟分送る。みんなで固まって寝れば何とかなるだろう。他に寝袋、十万人分用意する。以上だ」

 と武蔵が言って、それの準備が始まった。

 ロシアの国民の移動は、輸送船二十隻を使ったが、約半月掛った。

朝から日が暮れるまで、白海とノヴァヤゼムリャ島の間を何回も往復輸送をした。

 旧ロシア領内を掃討隊と掃除隊が、南側から、隈無く捜索していった。

 家の中に隠れているものは捕虜とした。抵抗したものはその場で射殺した。

 掃除隊が、全ての物を回収して、荷車に積み込んだ。

 このやり方は、初代の幸村公の時以来、変えて居なかった。

 その後は、隣国六国で、小屋、古屋、動物小屋、柵類を徹底的に破壊して広場に穴を掘って燃やしていった。汚物類も、一切、燃やしていった。さらに、アルコールを薄めた物や石灰を蒔いて、消毒をしていったが、隣国六国の兵はのろのろとしていた。

「ここは、戦場だぞ。もっとキビキビ動かないと、敵の残兵がいないとも限らないんだぞ」

 鳳軍の者にどやされて、やっと普通の動きになった。

「使いものになりません」

 と言う下士官の報告に、

「歩兵五師団で、徹底的に跡形も無くしろ」

 と将校が命令した。

 そのあとで工兵が出て、重機を使って、全てを平らにした。

 家も、大きな建物も破壊して広場にしていった。

 ここですべてを燃やしていった。

 頑固な家をみると、周囲から人を退かして、戦車で大砲を撃って、一気に破壊していった。

 こうしたところでも、隣国六国との差が出た。

 隣国六国は、本当に使いものにはならなかった。

「鳳国見たいな国とでは、戦っても勝てる訳がない」

 と、ぼやいていた。

『世界連合軍』という名目にするためだけの軍隊であった。

 隣国六国と協議をした。

 長城をどうするかと言う会議であった。

 圧倒的に、

「残して欲しい」

 と希望した。

それを聞いた武蔵が、

「ロシアは、フィンランド側から侵犯してこないとも限らない。逆向きから攻められたら、長城の意味が無いぞ。三十間の幅を取って、反対向きにも同じ長城を造れ」

 命令して、占領当時の新長城と同じ伏線の長城を素早く造ってしまった。

 これで、ヨーロッパ側からの攻撃にも、備える事が出来るようになった。

(ふむ。なるほどな・・・)

 と思ったのは、十兵衛とケリー中将だけであった。

 これで、フィンランドからウクライナまで、両面の長城が三十間の幅を取って出来上がった。

「ロシア兵が襲ってきた時に、これだけの幅があれば避難できるだろう」

 と武蔵がいった。

 それで、隣国六国の者たちは納得した。

 ロシアは、完全にノヴァヤゼムリャ島に移動した。

 その跡地は耕作地になった。

 ウラル山脈から西側も、全て耕作地にした。

「これで、よかろう」

 と、武蔵、ケリー、十兵衛ひとまず帰国した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る