「烈風真田幸村戦記(大助編)」19

     六


 作戦司令室に、幹部の殆どがあつまった。

「本当に、この城艦は便利じゃの」

 大助が言った。始めて使ったのである。

「気に入ってくれれば、なによりだ」

 孫一が答えた。

「今後は、下手な本部の城塞は、不要じゃの」

 「皇帝は不機嫌ではなかったので?」

  と、清水将監が、訊いた。

「む? 清水よ。そちまで、莫迦になったか?

「あのようにしなければ、黒人兵もインディアンも、納まらんぞ。ハシャギ切っているわ。誰が、正常に戻すのだ。七日間・・・充分に時間はやったぞ。もう、元に戻って言い頃だ。黒人兵とインディアンに、キツい演習を遣らせて、絞れ。手綱は緩めるときと、絞るときは、ハッキリと動作をしなければ、兵は、言うことを利かぬようになるぞ。直ぐに実行にうつせよ。下士官は緊急出動だ!」

 その言葉に、武蔵は、

(大丈夫だ。この皇帝はもっと大きくなる)

 と、安堵の思いを、抱いた。

 下士官たちは、思い切り、扱いた。乱闘の訓練としょうして、黒人兵やインディアンを思い切り、投げ飛ばし、地面に叩き付けた。

黒人にもインディアンにも、子供の頃からの武道の心得は無かった。

下士官たちに、体術で、投げつけられてしまうのであった。

どうやっても、太刀打ちが、出来ないのであった。

体に触れたかと思った、次の瞬間には、投げ飛ばされていた。

「戦場で、倒れるのは、死を意味しているんだぞ!」

 と、激しい特訓を行ったので、白人への恨み、つらみなどは、何処かへ吹き飛んでいった。

元の一兵士に戻すのは、これが、一番早かった。

 それに、現実には、殆どの黒人奴隷たちは、救出しているのである。

その上で、白人の、女という女は、思い切り、強姦、輪姦をしてきているのであった。

気は晴ればれとしていた。

黒人兵とインディアンは、急激に仲良くなって、戦友という感じになっていったのである。

 対して、白人たちは、恐怖の上にも、怯えていた。

捕虜になった者は、全員、囚人服を着せられた上に、輸送船の船倉の営倉に入れられていた。

逃げても、外は海である。

女たちも犯された上に、捕虜となって、別の輸送船の営倉に入れられていた。

「このまま、奴隷で売られるのかな? 毎日毎晩、男に抱かれるのも悪くないだろう」

 兵士が、小声で、からかった。それが、女たちに伝わって、

「私たち、奴隷で、何処に売られるの?」

 と、怯えて、体を震わせいた。

 暫定的な、首都機能を果たしているニューヨークも、艦砲射撃で、都市機能は麻痺

していた。

幹部たちの結論で、

「我々の、結論は誤っていた。宗主国は、鳳国にするべきでありました。無条件降伏をします」

 申し出てきた。

対して、皇帝の大助は、

「今更遅い。全て、占領する。以降、アメリカは全て、鳳国のものとする。カナダも、逆らえば、同じ事になるだろう」

 と返答を、返した。

「まず、奴隷を一人残らず解放して、一個所に集めろ」

 として陸軍五師団を、本土に上陸させた。

 本来も鳳国軍に、鈴木師団の黒人兵とインディアンがいた。

この中で、大きく変化したことがあった。

インディアン部隊が、宙ぶらりんのかたちであったのが、全員、鳳国の市民権を得て、鳳国民になったことであった。

木村重成の部隊に、組入れられた、ことである。

 鈴木師団は、皇帝の大助が西アフリカに行って、西海岸を整備したことで、軍隊の骨格も出来たのであった。

本来の鳳軍は、そのまま、木村重成の部隊であった。

木村部隊が、アメリカと戦っているところから、カナダ方面が減ることで、本来は、海軍であった。

高橋源吾が、陸軍に回って、カナダを攻めていった。

高橋が、カナダを攻撃するたびに、カナダは、投降を重ねていった。

これらの、イギリス人やフランス軍を次々と捕虜にしていた。

カナダは、もう、戦う兵力が無くなっていた。

 高橋は、カナダ国としての投降を勧降していていた。

南のアメリカの南部地区に置ける、悲惨な戦闘振りから、アメリカと戦っている黒人とインディアンの混成部隊が、いずれ、北に上がってくるのを予想していた。

そして、それは、カナダが予想していたよりも、早い速度で、北に、進軍を開始させていた。

その理由の最大のものは、海軍が、パナマ運河から、大西洋に這入って行ったことであった。

軍艦は、兵士も、武器も積んで、任意の場所に行けるのである。

カナダにもアメリカにも、戦艦は無かった。

あったとしても、鳳軍の海軍の前には、鎧袖一触であったろう。

 アメリカもカナダも、進退窮まっていた。

元々、イギリスやフランスで、大志があって、アメリカに渡ってきた者立ちでは無い。

食いはぐれたのが、新大陸で、一発当てようというので、移民になってきただけのことである。

根が根性なしの者ばかりである。

政治的な意味合いで、国を逃れてきたのは、この時代には、滅多にいない。

自分の国で上手く行かないから、新天地で一儲けを企んで、移ってきただけである。

そして、非人間的な、奴隷を使って、農奴を使って、成功して、巨大な農園を運営してきただけのことである。

精神的には、現今流行のハングレみたいなのばかりである。

田舎で、村会議員みたいのを遣っていたのが、市長に納まっているだけのことである。

 皇帝の大助とでは、最初(はな)から、勝負にならなかった。

 結論から言えば、アメリカもカナダも、全て、鳳国に蹂躙されていった。

 大助は、その間に、メキシコ、グアテマラ、ベリーズ、ホンジュラス、ニカラグア、エクアドル、ペルー、ボリビア、パラグアイ、ウルグアイ、チリ、ベネズエラ、ガィアナ、スリナム、ギアナと。

 ブラジルと、アルゼンチンだけを残して、中南米と南米も総取りしていった。

抵抗するところは、どこでもなかった。

スペインの将兵らしき者はいなが、全て、射殺か捕虜にした。男も、女もである。

船倉の営倉にぶち込んだ。

「一度戻ろう」

 と皇帝が言って、パナマから、太平洋を横断した。

三十五ノットの戦艦である。

快適な速度で、大阪城に帰還した。

改めて、世界地図を作らせた。

鳳国の領地を赤い縁取りでしました。

 大会議室で、大きく貼った。

「どうだ。親父の時よりも、増えただろう。領土が・・・」

 新大陸を構っている間に、シャム湾とアンダマン海を結ぶ運河とスエズ運河が完成した。

紅海も、安心して通過できた。

「もう、捕る所もなくなったな」

 と、大助が、言った。

「これだけ、領土を増やせば、もう十分でしょう」

 孫一と、武蔵が珍しく、声を揃えた。

すると、大助が、

「シベリアと新大陸の皇帝は、宮本武蔵。中国は信幸叔父さんが皇帝。鈴木孫一が、南洋の皇帝。直江兼続が、豪州の皇帝。カザフスタンと中央アジアは真田十兵衛が皇帝。アフリカは鈴木孫介が皇帝。これで、全て、皇帝が決まったな、親父より、少し若いが、引退する。上帝にも成らん。無役だ。儂が遣りたかったことは、親父を越えることだけだったのよ。九度山に帰る。才蔵と佐助は、大阪に残れ」

 全員が、唖然とした。そういって、大助は、小用に立った。「疲れた・・・」と呟いた。大助は、そのまま、風呂に入った。しかし、やけに早い風呂であった。着替えて、広間に、戻った。大助は、何故か、額に、鉢金の付いた、鉢巻き、を巻いていた。

「いかが、さなれました。鉢巻きなどを、なさって」

「うむ。少し頭痛がしてな」

 と答えだが、別人にように、声が、擦れていた。

 と、―その時に、一人の雲水が現れた。

ボロボロの衣姿であった。

仁王立ちになって、懐中から、一丁の拳銃を出して、大助を撃った。

眉間に、命中した。

 雲水は、秀頼であった。

「もう良かろう。弟よ。一緒に、逝こう」

秀頼は、自分で頭を撃ち抜いた。


                *


大阪城内にある大助と秀頼の墓を詣でた者があった。

覚法禅師であった。

静寂の中で、金剛鈴を一振りして立ち去った。

その後、禅師の姿を見た者は、誰も居なかった。

大助と秀頼の墓は、現在では朽ちている。

歴史は、結局、何も教えてはくれない。


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