第二章 1
第二章
一
ロシアの皇帝は、鳳国からの、使節団を、丁重にもてなした。
田川七左衛門、鄭猛竜、鄭明陽、鄭瑞祥に、清水将監と愛洲彦九郎、真田十兵衛の使節団である。
「ウラル山脈から東側は必要か? 約東経六十度からのシベリアとカフガニスタン全土を、購入したい。言い値で購入するが」
と、清水将監が、切り出した。
「我々は、すでに東側から、レナ川、エニセイ川、オビ川の北極の河口から、上流の支流まで、鳳国連邦王国のモンゴルに至る、全てを調査している。三本の川は見事に、繋がっている。少し手を加えて、運河のようにすれば、鉄艦の戦艦も川に入れる。厳冬であっても、砕氷艦の用意が出来ている。すでに、何度も、試験済みである。氷を、熱湯で溶かし、火炎放射器で、川の氷を溶かし、鉄船の船体の周囲を鉄の塊で砕氷してゆく。南側の薄い氷なら、どうということもない。北極圏の川も、東シベリア海、ラプテフ海、カラ海、バレンツ海も、意図的に、厳冬を選んで試験航海をしている、氷山さへ気をつければ、確りと航海出来ることが判った。当然だがウラル山脈の厳冬の頂上も踏破している。銃が凍るがどうかまで試験した。熱を持たせた、毛皮で銃身を包めば、無事に発砲出来ることが判明した。大砲も同様である。オビ川からなら、上流で、戦闘艇が何艘でも這入っていけるのも判った」
と十兵衛がいった。これは、ドズが効いていた。
「我が国には、研究好きなものが多い。競って研究をしている。あ、それから、チベット、ウイグル、内モンゴルの諸国は、向こうの方から、助けてくれと、鳳国の傘下に入ってきた。食料援助や、燃料援助、政策、軍事で、国の経営を面倒見ることになった。ウイグルはカザフスタンの隣国なので、紛争が起きないとも限らない。これは、凍らないから、赤子の手を捻るようなものだが、カスピ海もあるし、黒海までは、川を利用しながら、運河を造れる。黒海に這入れば、地中海だ。もう、ヨーロッパだ。ヨーロッパは、アフリカ、アジアに酷いことをしてきた。ご存じのように、インド洋海戦では、戦艦が、たった、二発ずつ、砲撃したでけで、五百隻、見事に海の底に沈んだ。我が国を怒らせない方が良い。カザフスタンから、ドン・コザックの、ステンカ・ラージンのように、攻めていくことも出来る」
清水将監と愛洲彦九郎は、フランス語ができる。
愛洲彦九郎がいった。凄く研究していた。
ロシアの皇帝も、その場にいた幹部たちも、顔が青ざめて、全身が震えているのが、判った。
「しかし、紳士的な取引にしたい。ウラル山脈以東で、山脈が終わったら、東経六十度以東のシベリアとカザフスタン全土を幾らであったら、売却していただけか。商談に入りたいのだが」
と、田川長七兵衛が、話を前に、進めた。
「幾らって・・・カザフスタンのことは・・・」
「今日、カザフスタンの王が来ているのは調査済みだ。こちらへどうぞ」
と、呼び入れた。東海党が攫ってきたのである。
「急に幾らといわれても・・・」
と、ロシアの皇帝が言いよどんだ。
「シベリアから税収があるのですか? 見渡しても、人なんかいませんよ。たまにいるのは、遊牧民だ。彼らから税金を聴収するのは、至難の業だ。農耕もしていない。本当に、シベリアが必要なのですか? シベリアがあるために、ロシアは社交界からも、ヨーロッパの扱いを受けていない。北の白熊とよばれているのでしょ。どこかが買ってくれないか、と愚痴っているとの噂ですよ。耳が良いものですからね」
清水将監が、笑いながら言った。
「だから、買いに来たんですよ」
これには、ロシアの皇帝も、驚愕した。事実だったからである。
「ここまで知られていては、皇帝・・・」
と、首相が、言った。
「価格だが・・・」
「思い切り、ふっかけたらどうですか。カザフスタンも、入っているのですから」
と言われて、
「カザフスタンも入れて」
日本の金額にして、五千万両だ、といった。
ロシアの幹部たちが、全員、驚愕した顔になった。
誰もが、
(買うわけがない)
と、思った。
ところが、清水将監が、
「判りました。これで、取引成立です。現物でお支払いします」
と、兵士に合図をすると、千両箱を卸し始めたのである。
箱は千両箱であったが、中は、ヨーロッパで、流通している、金貨であった。
蓋を開けた。
眩いばかりの光を放っている。金貨であった。
「どうぞ、金額を、お調べ下さい」
と、愛洲彦九郎が言ったので、係官が数名で、真贋と金額をしらべはじめた。その間に、田川七左衛門が、和文とロシア語で書かれた、売買契約書を、二枚取りだして、ロシア皇帝とカザフスタン王の署名と、印鑑を、捺印させた。彼らは,印鑑を指輪にして、はめている。その場の幹部たち、全員にもサインと印鑑をおさせた。二枚ともである。一枚は、相手に渡した。両方に金額が、ロシアの皇帝の手で書きこまれた。数字に強い、田川七左衛門が、金額を確認した。すでに、書類には、二枚に、幸村の署名捺印がなされていた。その下に、使節団一行の名が記されていった。効力はその日からであった。五千万両の金貨である。ロシア側は、その場で、即金で支払うとは、思っていながったので、驚愕した。戦車や輸送車の中から、取り出したのであった。
二時間掛かって、金を数え終えた。
酒が出されはが、誰も飲まなかった。
持参した、コーヒーを飲んだ。
徹底して、セーフティーを守りぬいた。
見事な使節団であった。
*
「お前たちの、顔ぶれていったのだ。これでだまそうものなら、大義は、我らにある。約束不履行になったら、町ごと吹き飛ばされるのは、覚悟の上だろうよ」
と、幸村が、ご機嫌に成っていった。
「契約書には、地図が添付されています。広さをご覧に成って下さい」
と、清水将監が言った。
地図を広げた。広い。広大なものになった。
「五千万両か。思ったより、安く買えたな。金で済むのが、一番安い。戦争は、金が掛かる。違うか?」
「その通りです」
清水将監と愛洲彦九郎が、揃っていった。これに、豪州が加わる。
「問題なく世界一でしょう。大皇帝です」
清水将監が、いった。
「はっははは・・・大皇帝はないだろ」
「しかし、これから大変ですよ。これだけの人間を食わせたければならない」
孫一の、ことばである。
大阪城にいる。
いつもの、小書院での、ことであった。
「ウラル山脈沿いに、随所に、城塞を造り、それを長城で結んでいかなければ、成らないな。山頂には塹壕で良いだろう。第一防衛戦だ。その塹壕で、戦う必要はない。撃ちおろしだから、優位だ。随所にトウチカを造って、ガトリング砲や、ガトリング銃、迫撃砲でかなり防げる。大砲は。幾つかで良い、持ち上げるのが大変だ」
「何よりも厳寒対策ですね」
「それだ。こちらの、ロシア方面指令管は、行きがかり上、宮本将軍に頼む。北方方面は、武蔵に敵うものはいない」
「そんなことはござらんが、北方方面のことは、拙者なりに、苦労はしてまいったが、ロシアのことは、工兵隊が、大変でござるよ」
「そこが判っているかどうかが、一番重要なことでござるよ」
幸村が、大切なことを言った。我武者羅に突き進んでも、北極の厳寒はどうにも、なるものではないのである。
厳冬の中で、耐え忍ぶことが出来る者が、本当の強者なのであった。
「副長官に誰が?」
幸村が訊くのに、武蔵は、即答した。
「松井善三郎どのでは、ござらぬか」
「む・・・」
「こここそ、土木は力なりござるよ。副将軍格にしたい」
「さすが、武蔵だ」
「アゼルバイジャン、トリビシ、グルシア、アルメニアに渡りはつけて、あるのか?」
「探らせてはいる」
「反ロシアの、者たちが多いはすだ。やさしく、話を持ちかければ、食糧支援で、運河の話は、乗ってくる。カスピ海に、造船所を造るんだろ働き口が増える。カフカス山脈の麓だ。小さな国が幾つもある。少数民族が固まっている場所だ。なんども、ロシアに戦いを仕掛けている。勝ったことはないがな。激しい気性の国だ。ステンカ・ラージンも、ここから出ている。戦艦が走れる運河があれば、黒海に入れる。その先は地中海だ。ヨーロッパだよな」
「武蔵、いつから、儂の腹が読めるようになった。ウイグル、カザフスタン、カスピ海、運河、黒海、地中海、ヨーロッパだ。鳳国の艦隊が、地中海に姿を見せただけで、イギリスは、豪州ところではない。黒海に鳳国の艦隊が、入っただけで、ロシアも戦戦恐恐だ。シベリアどころではない。その分、シベリアは、楽に良い仕事が出来る。運河は、そう難しい仕事ではない。これまでにも経験はある。カザフスタンから入った方が、得策だ。防備から入って、カフカス山脈の国々と誼を通じて、次に運河だ。いや、造船所が先か。仕事を与えて、稼がせる方が先か。勿論、食料支援と平行してだ。同時にシベリアに入る。シベリアは長く苦しい。というのが、拙者の意見だ。何か違っているか? 地中海に鳳国の戦艦船団が入る。商船と共にな。ウラジオストクから、カスピ海まで、川でいける、多少、川幅を広げたり、深くする必要はあるがな。松井、内田隊に掛かったら、どうと言うことはない。」
「武蔵よ。儂の言いたこと、全部、言ってくれたな。それで、儂は、五千万両なら安いといった。豪州の分も入るからな」
「悪い男だ・・・」
「どっちが、悪だ? 武蔵よ」
「十兵衛に、カフカス山脈の、各国の懐柔をやらせるか? 試験で、使節団に入れただろ。東海党の五百人が、勿体ない」
「武蔵将軍。儂は、要らなくなったな。それで、松井、内田が副将軍か」
「鳳国軍全体にやる気が出て、活気が変わる。苦労を掛けてきた」
すると、それまで、黙って聞いていた孫一が、
「正論だな。武蔵将軍」
といった。
そして、
「将軍には、御名御璽がいるからな。面倒臭い。で、副か」
「武龍城ができたら、真田信幸将軍は、将軍職から、武龍総統だ」
「なるほど。孫一も、凄い案が出るなあ」
武蔵が、感心した。
そして、
「武龍を、あそこまで、まとめ上げた手腕は、見事なものだ。拙者には無理だ。あそまで、出来るだろうと、信幸将軍を、はめこんだ、皇帝の慧眼にも恐れ入った」
と頭をさげた。
孫一も同様であった。
緊急の幹部会を開いた。
議題は、三つであった。
一つは、工兵部隊の、これまでの活動に対して各部隊長に、感謝状と、勲章の授与と一時金、各隊員に、皇帝からの、品物の授与。
そして、指令管の松井善三郎、内田勝之助を、工兵副将軍に推薦したいという、鈴木征夷大将軍並びに、宮本征狄大将軍の要請によって、その位に、皇帝として、両名を補す。
二目は、同じく、両将軍から、田中長七兵衛を、農事副将軍に、推挙したい旨があって、これも皇帝として補す。
三つ目は、鳳国武龍の真田将軍を、武竜の総統に推戴いたしたい旨があって、皇帝より総統職兼征胡大将軍に補す。
この三件について、賛意を表する者は、起立を、願う。
と言うことが、青柳千弥から、説明があって、全員が、起立をもって、賛意を表した。
だれもが、納得するものであった。
その後、農事部門と、工兵部門に、俄に活気が満ちていったのが、誰の目にも、明らかとなっていった。
これまでは、裏方の仕事、日の目を見ない仕事である、と思われていた世界に、思い切り陽が指した感じになった。
さらに、別件として、軍事渉外指令長官として、青柳千弥、高梨内記を任命した。また、外事長官として、田川七左衛門が、鄭猛竜、鄭明陽、鄭瑞祥を、任命した。
また、内政長官として、菅沼氏興、蔭山、石野、別所を、部門別に置いた。
勘定方取締役兼任であり、総取締役には、武龍総統の真田信幸が着任した。
豪州特任総監に、直江兼続が任官した。
鉱山総顧問に、大久保長安就いた。
皇帝近衛総長に真田十兵衛が就任した。
世界的に通用する呼び方としては、海軍には将軍というのはないので、提督という呼び方に成る。
五人が、就任した清水将監、愛洲彦九郎、高橋源吾、分部光長、沼津秋伸の五人であった。
海兵隊の提督は、白井賢総、櫛木玉海、渡辺親吉、妻良新之助、富永辰二郎が就いた。
「他の役職は、追々に任命したい。なお、こたび、このようになった」
と、巨大なボードを、小姓に出させてた。
「ロシアのシベリアは、ウラル山脈以東。東経六十度以東と、カサフスタンを、交渉の結果我が鳳国のものとなった。チベットと、ウイグルは、統治領であり、自治区とした。産業がなく、これといった特産物もないので、目下は援助国に近いが、カザフスタンの隣国なので、いずれは、鳳国領と成る。こちらは依頼されてきたものである。すると、このように、大きくなる。これに、豪州が入る。その下の二つの島、英語でニュージランド、東豪州ということにした。それと、ニューギニア島が入るので、こちらは、上豪州とする。以上だ。あ、それから、シベリア、カザフスタンの北方方面指令管、であり、総統は、宮本武蔵征狄大将軍になる。鈴木孫一征夷大将軍が、鳳連邦南洋総統となる。信幸総統は多忙なので、江戸、名古屋は、真田秀幸が総統代行となり、これの後見は、竹林宮が、行う。鳳国および、鳳連邦帝国の、総本部は、大阪城および、京都におき、軍事面は、大阪、政治面は京都に置くことにする。京都がそろそろ、旧宮廷の後地に、建ち上がる。お上(かみ)にはすでに、ご遷座は新宮廷に成られて、おられる。こちらは、秀頼と淀に、お願いする。大事なところであるからの」
と会議の幕を閉じた。
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