第六章 7

   七


 チャンタブリーの城は見事であった。

チャンタブリーよりも、カンボジア側にある五百メートル級の、平原の中に立つ山を、グルリと取り囲んで、幾つもの台地を造って石垣を組み、無数の曲輪が作ってあった。

その一番高いところに天守閣がたっていた。

典型的な山城で、天然の地形を活用した、難攻不落の要害であった。

随所に楼閣が建っていて、台場があった。

最新の大砲、迫撃砲、ガトリング砲、ガトリング銃が、設置されてあるのが判った。

麓には、屋敷や、蔵が無数に建っていた。

平野部には、近くの川から引き込んだ水濠廻されて土塁が築かれて、高さは三十間もある。

その上に石垣が十八間にも及んでいた。

五十間ごとに馬面がでて、大砲が二門置かれて、他の兵器も、もれなく搭載されてあった。石垣の上には、十間の土塀が作られて、白漆喰で塗られ、屋根瓦が置かれていた。

三州瓦であった。

十間幅の武者走りの中側は二十間幅の、総櫓になっていた。

宿舎や、蔵、物置、倉庫と何にでもなるのであった。

城の広さは、八里四方に及んでいった。

「これは、松井善三郎、内田勝之介の最高傑作ぞ。海からは、コンポンソムの湾に船ごと入っていける。城船も入れる。すぐにカマウ岬、コンソン島、ラウト島、大ナトゥナ島、アナンバス諸島を買い占めろ。砦と砲台を置け。マラッカの、クアラ・トレンガヌと、コタ・バルにも城塞と砲台を搭載しろ」

 それらの島々や、マラッカのクアラ・トレンガヌと、コタ・バルに、猛烈な勢いで、砦と、城塞が造られて、砲台や、その他も兵器が搭載された。

七ヶ所で、城を守ったのである。

とてもではないが、シャム湾には、船で攻め込むことはできなかった。

 このシャム湾と、交趾の交都、ハイフォン、海南島、雷州半島、北海(ペイハイ)、南寧、広州で囲んだ、トンキン湾を実質支配しているのである。

誰にも手が出せなかった。

ヨーロッパ勢も、至って、おとなしい交易に、終始するようになったのである。

すべてが出来てから、幸村は、

「この城を鳳凰城という名にいたす」

 といってから、あらゆる場所から、それまでははバラバラの基地に置いてあった、金塊、銀塊、鉄、銅、鉛、硝石、硫黄、木炭、石灰、石英、雲母、石炭、薪、材木、煉瓦、瓦、陶器、黒檀、紫檀、伽羅、沈香、虎の皮、鹿皮、貂の皮、ミンク、香辛料、胡椒、丁子、ナツメック、紅茶、珈琲の豆、小麦、陸稲(おかぼ)、水稲、コーン、大豆、味噌、醤油、塩、乾物類、海草、医薬品、更紗、絹、ウール、木綿、ペルシャの緞通、ダイア、ルビー、瑪瑙、瑠璃、玻璃、珊瑚、水晶、鹿の角、砂利、川砂、栗石、石垣用の石、弓、矢、火薬矢、鉄砲、ガスボンベ、火炎放射器、ガトリン砲、ガトリング銃、槍、長柄の槍、刀、銃剣、ナイフ、書籍、盾、馬、牛、犬、羊、鶏、アヒル、孔雀、豚、象、虎、戦車、戦闘装甲車、装甲車、旗、衣類、靴、家具、船(各種)寝具、蚊帳、扇子、団扇、文房具、食器、炊事道具、本陣船、本陣車、印刷機、製本機、製紙設備、精錬炉、鋳造炉、炭焼き窯、陶器の窯、煉瓦の窯、瓦の窯、銅の精錬、鋳造、塗料、絵の具、兵士、将校、将軍、提督、水兵、旌旗、隊旗、国旗、吹流し、農具、種(各種)、苦土石灰、堆肥、化学肥料、ミミズ、泥鰌、植栽の樹木、灌木、芝の巻いたもの、鹿砦、兵士の軍装 (各種)、将校の軍装。弾丸各種、その他の小物が、船が列をなして運んできた。

これだけのものが、南洋のどこの基地においてあったのか、と驚くほどの量であった。

 それを、ただただ呆れて見ていた淀は、

「つくづく皇帝の力に敵う者はおりません。南にこれだけの軍資金があって、見る間に金蔵は五十の蔵が埋まってしまいました。きっと、まだ一部なのでしょう。あらゆる食糧、武器、兵器、こんなに、用意の良い人物はおりません。北京にいた側妃や、庶妃も、南方系の者は、この城につれてきて、北方系、モンゴル、朝鮮、台湾、琉球は、北京に置いてきた。どうやら、すべて接触出来たようですね。安心しました。そうしないと、連邦にひびが入りますものね」

「む。それも連邦の糸と考えているのだろうからな。正直、鬱陶しい。十四人もいてみろ。皇帝には、そういう役割があるなんて考えてもみなかったからな・・・」

「閨閥は、古今東西、国の外交の基本なのですよ・・・皇帝はやっと気が付いたのですか? 今後は、鳳の国の閨閥は、わらわが造ります。これと思う女子は、養女で育て、国の繋がりを強くしていきます。徳川秀忠の妻小督にも、千姫や、ほかのものもいるでしょう。秀忠は、伯爵になって、ほっとしているそうです。最後まで抵抗するようなことをしなければ、公爵になれたのに。真田信幸様にも閨閥の資格があるのですよ」

「そちらまで、頭が廻らん。淀にまかせる」

「はい。孫一様には、淡島、武蔵様には、毬妃の姉。みんな豊臣と、真田で固い絆で結ばれました豊臣と真田は、完全な一族です。秀頼が大阪で、関白。予定通りです。大助が、この鳳凰城で、どのような位にするか。皇帝は、北京と武漢で、皇帝で、太閤・・・信幸様は江戸を守り、木村重成が名古屋。城の数はたくさんあります。武蔵は成り行きから、北の国王。孫一が、トンキン湾一帯を守る。将軍は三人以上はいりません。あとは、大将、中将、少将、大佐、中佐で良いでしょう。わらわは、皇帝がいてくれれば十分。側妃や、庶妃も可愛がってあげてください。淡島にも言って、わらわが妃たちすべてを統括します。武漢城が出来るまでには手なずけましょう。東皇后陛下は、九度山、和歌山、大和郡山、津、久居の五つの城をしっかり守っておられます」

「む」

「西皇后のわらわは、皇帝をお守りするのがお役目です」

 鳳凰城の窓という窓には、防弾ガラスが嵌っていた。

そのくせ、どこからともなく、涼しい風が入ってきた。

天守閣からシャム湾を望んでいると、飽きることはなかった。

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