第六章 3

   三


 やがて、読経がやんで、静粛になったところで、霊光大僧正が、同じ大僧正でも、管長ではないものや、権大僧正たちをしたがえて、進みでると厳かに宣言をした。

「戒香、定香、慧香、解脱香、解脱知見香、法界に遍く供養す・・・」

 と一連の文言を経典から説き起こして、

「今ここに、鳳の国、乃至鳳連邦王国、さらには、鳳帝国、大鳳国と申(まう)す。仏国土にも比肩する、御国(みくに)の大皇帝とならんに、その証(あかし)の大法冠、冕冠(べんかん)を戴冠す」

 と行信が恭しく差し出した赤いビロードの布団状の上の、ダイア、ルビー、サファイア、諸々の宝石で飾った冕冠を、幸村の頂に戴冠した。

この瞬間に幸村は、鳳幸村皇帝(ほうこうそんこうてい)となったのである。

 冕冠というのは、天冠ともいうが、即位のときに用いる冠である。「たまのかんむり・たまのこうぶり」ともいうものであった。

 二人の皇后にも、宝冠を戴冠した。

二人が用いたのは、「女帝用」であったが、幸村は、百も承知で、

「二人には苦労をかけた。最高のものを戴冠させたい」

と、冕冠とともに職人に図面を見せて造らせた。 

秀頼と、大助には、冕冠の簡略化したものを、二人妃には、宝冠の簡略化したものを戴冠させた、秀頼と大助の立場は難しかった。

(流れからいえば、秀頼に、大阪城と関白太政大臣を渡し、大助に、鳳の皇帝を渡すのがよいのかもしれない)

 と幸村は、思っていた。

 側妃たち九人には、宝髻(ほうけい)を与え、庶妃は全員が、ヨーロッパ人であるところから、ティアラを与えた。

 さらに、三人の将軍には、鈴木孫一と宮本武蔵には、武礼冠(ぶらいかん)を戴冠させた。

「武礼冠は、武官の最高位の冠(かんむり)でありまするぞ」

 と霊光大僧正が述べた。

 真田信幸には、礼服冠(らいふくかん)を戴冠させた。

「礼服冠は文官の最高位の冠でありまするぞ」

 と霊光大僧正が述べた。

 戴冠の間中、千人の僧侶の声明が流れ続けて、荘厳さを維持し続けていた。

 段上には、アジアの地図を極彩色で描いた。

大きな黒檀の板があった。

 幸村は、戴冠後、皇帝が持つ杖を手にして、ゆっくりとたちあがった。

そして、

「朕は、鳳乃至は鳳帝国の、鳳幸村皇帝である。この地図を見よ。アジアは、世界は戦をやめ、平和な国々にならなくてはならない。朕の最大の希望である。世界の最大の強者が希望しているのである。この希望に逆らうものは、容赦はしない。いま一度宣言をする。朕は、鳳幸村皇帝である」

 と宣言した。

この言葉に、大和殿の前庭の者たちは、静かに平伏していった。

そのなかには、鳳帝国の加盟軍の者たちも混じっていた。

 レセプションの後で、シャムのソンタム国王から、

「ご相談したいことがあるのです」

 といってきた。内容は、深刻なことであった。

「シャムは、残念ながら、一枚岩ではありません。スコータイ王朝、チェンマイ王朝、東の州、東北の州、ビルマ、カンボジアのアンコール朝から常に狙われています。シャムの皇帝の城を、一刻も早く完成させて、アユタヤ王朝によるシャムの統一を、支援して頂きたいのです」

「判った。朕の心の中に、常に入れておくことしよう」

 と答えた。続いてイギリスの提督がきて、

「イギリスは、鳳帝国と友好通商条約と安全保障条約を正式に結びたい」

「とても良いことだ。反対する理由は、なにもない。近く、具体的なことがらを、話し合う機会を持ちたいと思っている」

 と述べた。

後は、とても疲れているのを理由に面会をことわった。

風魔小太郎を呼んで、シャムむの国情を徹底的に調べるように命じた。

「賓客たちを無事に帰国させるように」

 盛親に命じた。

盛親の部下たちが、各国の要人を手分けして送り届けた。


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