第四章 3

   三


「家康は、この問題の解決のために、学問を用いて、儒教によって、譜代の臣に、我慢を強いた。外様には、取り潰し、石高の減封のために、領地替え、分国その他の方法で苛めてきた。その結果が大名の借金経営となっていった。儂も大将の俸給には考えが必要だと思っていた。それには、基本の俸給を押さえ、手当報酬を何種類にも分、定年制度をしこうと考えていた。近代化への道じゃ。しかし、六十万人の削減か・・・」

 と幸村が、深く考え込むように言った。

「獲るしかない」

 孫一がぶっきら棒にいった。

「六十万人で、この巨大な国を押さえこめるか。その何倍もが必要になる」

「殿下。軍人の成り手は幾らでもいる。兵は募集すれば、幾らでも集まり申そう。我慢して帰農しているもの。浪人も多い。四十万は、直ぐにでも兵で集まる。再教育、軍事訓練で、鍛え直す。教官は各練兵所におり申す。問題は、皇帝が誰かでござる」

「左候・・・」

 孫一と、清水が、同時に深く頷いた。

「殿下は、唐の時代分ぐらいで良かろうと申された。ただし第一期はなと・・・言い得て妙。大切なことでござる。外国の兵卒が持つ武器と、日本兵が持つ武器は、絶対に区分することでござる。拙者、大阪の役以来、刀を抜いたことがござらぬ。殆ど、重火器と、鉄砲、ガトリング砲、ガトリング銃で、敵は壊滅した。これの扱いは外国兵にはさせぬことでござる。中国大陸から、日本までは近い。船ならなお近い。彼の国の役人は、実に不正で、賄賂が極普通のことと聞き及んでい申す。役人の総入れ替えが必要で、有能無能ではなく、忠実か、正義漢か、正直かどうか。試用期間を一年置くことで正式採用を決め申すが、正式官吏に採用するのは、さらに三年の准官吏期間を置くことです。敵に信を置くのは、第一の油断でござる。内向きの用は一切させぬこと。調理人には下働きにも一切させぬことです。私室には、全室武者隠しを置くことです。私室は、すべて宮廷内であっても、日本の職人たちに造らせることです。外出は、すべて、大、中、小型の本陣車を造らせ、調理車と、外からでは、ものが入れられぬ湯さましの水用本陣車をすべて、日本で造って運ぶことです、今から、最高の本陣車の製作に掛かって下さい」

 武蔵の言葉に、幸村は、大いに驚いた。

(あの無口な、この男の腹の中には、こんなにも、用心深いものが仕舞われてあったのか!)

「見事な政治学だ。恐れ入った」

「飛んでもござらぬ。国を獲り、統治をするとは、徴税の権利が生まれます。例外なしに、官吏からも、源泉徴収をして頂きとうござる。天津(テンシン)の近くに、ターカンと言う港がござる。ここを整備して、本陣船と伝令船を毎日出してくだされ。肥前名護屋城を毎日音信することです。手紙はすべて暗号文でお願いしまする。暗号解読班は北京、肥前名護屋、大阪城に置き、大阪城、名古屋城、江戸城にも伝令船の定期便を置いてくだされ・・・さて、北京の主でござるが、殿下。関白をお退きくだされ、退位されて、その職を息子に譲られた場合のみ、太閤となることができまする。関白太政大臣は、秀頼様が居られる、立場が人を造りまする。拙者も、豊臣の将軍に、なっていなければ、一介の武芸者で終わっていたはず。立場が政治、経済を学ばせました。豊臣政府の名は、もう、不要でござろう。徳川も壊滅いたし申した。日本政府でよろしいと存ずる。殿下の豊臣への遠慮が、これ以上続くと、劣等感となり、組織に歪みが生じまする」

 武蔵が、ズケリといった。

「殿下は、太閤となり、前(さき)の太閤がなしえなかったことをなされませ。そして、北京で、皇帝となるのでござる。余人では、軽い。南方のシャムとカンボジアの間に山がござる」

「行ったこともないのに良く知って居るの」

「ここに出ておりまする」

 と武蔵が鉄扇の先で、地図上のシャム湾の海沿いにある山を差した。

「なるほど・・・」

 と幸村が苦笑した。

五百メートルと高い山ではない。

「三百間はない。低い山だが、平野の中にある山だから目立つ。海からでも目立つ。それを、どうする?」

「山城にいたしまする。山ごと城にし申す。日本式の華麗な天守閣のある、白漆喰の壁に、日本の瓦を乗せ、土塁と石垣を造って、南方中に、噂が立つほどの城にして、北から、江戸城、名古屋城、大阪城、北京の紫禁城、長安の城、武漢(ウーハン)にも城、上海、福州(フーチョウ)、広州、海南島の三亜(サンヤー)ツーランか、フェフォ、パタニ、クアラトレンガヌ、カマウ岬、大ナツナ島とナツナ諸島を買い取って、砲台を築けば、シャム湾は、おのずと支配権が我らのものになっていきます。満州は、瀋陽、長春、吉林、ハルビン、チチハル、牡丹江、チャムス、伊春、古蓮(クーリェン)、沿海州のジャリンダ、ゼーヤ湖の北側からのチュミカンのウーダ湾まで、濠を掘って土塁と石垣に、城壁を造り申す。ウラジオストクから、ウスリー川まで、運河を掘る。淡水が海に注ぐと、折角の不凍港が凍ってしまうから、凍りはじめたら水門で塞ぐ。これで黒竜江に入れる。ウラジオストクから、モンゴルのウランバートルまで船でいけることになる、ジャリンダから、チュミカンまで、山間を縫えば運河が造れるから、船でオホーツク海にも出られる。濠よりも運河が良いでござろう。その土を使えば相当に高い土塁が造れる。こうすれば、沿海州は、実行支配をしている日本のものになる。黒竜江(ヘイロンホー)に、三本の水路が出来るので、物資の輸送が、楽になり申す。シベリアの木を伐って筏で運び出せましょう。これで、北から南までの日本が出来上がるのでござる!」

 全員が、口をあんぐりとした。

無口の武蔵がこれだけ、話をしたのも、初めてだが、その考えのスケールの大きさにも驚かされた。

幸村も、驚いて、

「宮本武蔵は稀代の、軍師だわ!」

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