第四章 2

   二


「ま、そんな訳で儂は、南方にしか、気が向いていなかった。南方で交易をしている者の数は決まっている。そんな中でも、堺の商人は悪ばかりだ。絲屋、茶屋四郎次郎、今井宗薫・・・」

「確かに悪でした。しかも、家康とつるんで、おりましたな。 堺を潰したのは、正解でした。商人というのは、実に狡知です。 しかし、殿下が、社会変革をしてからは、嘘のように、彼らの活動は止まっています。加藤清正と並んでマニラに良く来ていたのは、薩摩の船でしたが、ピタッと来なくなりました。 琉球を倭寇のように襲っていた薩摩も、琉球にも来なくなりました。すべて薩摩の小船を蹴散らしたからです。 尚王朝も豊臣に帰順しています」

「つまりは、日本の農地に匹敵するだけの農地は、南方に持っている。軍備もこたび、二十万の兵と海軍五艦隊、海兵隊五艦隊を出しても、なお、南方の守りに支障がないだけの軍備は備えてある。儂は、冒険は嫌いだ。南方でならなお飛躍できると思っていた。琉球の尚王は、儂が直接口説いて、豊臣に帰順させた。ざっと、こんな具合で、繰り返しになるが、儂の眼は南方にしか向いていなかったのだ。ところが、田川と鄭兄弟は、北海から雷州半島、海南島を、手土産に寄越した。この湾をトンキン湾というのだが、大変に重要な湾だ。それの守りには、北海、雷州半島、海南島は、南方の絶好の門番だ」

「拙者が見ても判り申す。澳門、香港、広州もまもれますな。ポルトガルも逃げ出すでしょう。香港のイギリスも、今後の関係を考えれば逃げ出し申す」

 武蔵がいった。

武蔵は穴のあくほど地図を睨んでいた。幸村が、続けた。

「満州征伐の後、五十五万の陸軍と海軍、海兵隊が一気に明を南北から攻めたら? 他に、海軍と海兵隊がいる、この長江と黄河は、海のように広い。赤い印が北京で、首都だ。青い印が、大都市だが、見て判る通り殆どが二本の大河に面している。勝てるだろう。いや、勝てる・・・問題は、戦勝後だ。この大きな国の運営だこれを考えると、うんざりして、胃が痛くなる。意見を述べてくれ」

 幸村が、投げ出すように、意見を求めた。

「では、拙者の意見を述べさせていただく。日本の総人口は大体、六、七千万人ほどでござる」

 と珍しく、武蔵が、意見の口火を切った。

「ふむ。面白いところからの切り口じゃの。ぜひ武蔵将軍の意見を、深く聞きたい」

 幸村が、真剣な顔になった。武蔵が続けた。

「一人の軍人が、国民二百人を守るとすると、三十万人の軍隊で済む。大阪城の役での東西両軍を合わせた数でござる。国内で、今後も大名制度に代わる、勢力が現れないと仮定してです。しかし、今は過渡期です。多少過剰なのは仕方がありません。南方は除外してでござるが。南方は豊臣政府の軍ではなく、ユキムラ国の軍でござる。殿下御自身で申されているように私兵でござる。故に除外いたす。私兵の所有は日本国内においてでござるから、南方では、違法ではない。現在、豊臣軍は、陸軍だけで、約五十万、これに海軍が、三十艦隊。海軍内陸軍を入れると、一艦隊一万、師団と同じでござろう。三十万人。海兵隊もほぼ同数で三十艦隊、三十万人でござる。百十万人でござる。さらに工兵以下は、平和利用が出来るのでよろしかろう。八十万人が過剰になる。この、過剰兵力をどのように吸収していくか。警察に、十万人だと、国民六百人を、一人で治安を維持していくことになる。消防に十万人、警察予備隊に二十万人。各州府に駐屯させて、通常警察では対応出来ない暴徒などの鎮圧にあたらせる。これで四十万人を吸収したことになるが、さらに40万人の過剰がで申す。これは、近い将来に武士を強引に帰農させたのと同じ、苦しい削減問題になり申す。すでに、警察、消防には、旧武士を当てているので、各十万づつと言うのは無理な数かもしれませぬ。三万、三万の増員で、六万か? 十四万で過剰が、五十四万人でござる。恐らくこの数字は、甘い数字で六十万になり申そう。この削減はきつい。国民百人で、一人を養う計算になる。折角大名制度を廃止したのでござるが、ここの処置をあやまると、大名に代わる、新勢力が生まれることになる。米の石高が飛躍的に伸びたことと、大名など、特定少数が、大幅に減ったことで、経済が健全化しているおりでござる。この問題をどう解決してゆくか。殿下にお考え頂きとうござる」

「武蔵よ。菅沼氏興も、お辞儀をする計数管理よの。まさしく、国内最大の問題だ・・・」

 と幸村が、武蔵の顔を見た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る