第三章 2

   二


 幸村は、京都に、

「もっと、皇居に相応しい宮殿をお造り申し上げます。それが、関白の勤めであります。さらに、皇宮警察と、皇宮近衛隊を創設し、所司代も外内裏に造りましょう。所司代を通じて、豊臣政府から御内裏お台所費を金子と、米をもってお納めいたしますように努力いたします」

 と後水尾天皇に約束したのであった。

 勿論、幸村にも計算があった。

皇居を移したあとしに、規模を大きくして京都所司代とは別に、豊臣政府を造り、政務と軍事を分けて独立させるつもりだったのである。

その上で、

「危ない」

 と思える、重要拠点に巨大な、江戸城並みの、城塞を造る積りであった。

 そのことを、大阪城の書院に、淀、秀頼、香音(かねを漢字に改名させて、妃をつけた)妃、大助、鞠妃 (姫を妃にした)。孫一と、武蔵を呼んだ。

孫一と、武蔵には、正式な時には「豊臣滋野真田」を冠にして、風格をつけるようにした。

「その危ないと思える場所は?」

 と武蔵が訊いた。

幸村が、

「西から、琉球、首里を陸軍、普天間に海軍、与那原に海兵隊を腹積もりだ」

「なるほど。近すぎないか」

 孫一が、訊き返した。

「基地と基地の間が遠いと連絡が難しい」

「それはある」

 孫一が頷いた。

「伊木、青柳、高梨と、木村重成、薄田隼人、後藤又兵衛、塙団右衛門、長宗我部盛親と清水将監、横井神太郎、高橋源吾、梶原忠勝、才蔵、佐助、松井善三郎、内田勝之介、菅沼氏興、田中長七兵衛、何人だ?」

「十八人ですえ」

 淀が答えた。

「香苗も呼んでくれ。この部屋で、大丈夫だろう。あまり、広い部屋で、白けた雰囲気よりも、この方が、まとまる。身内の雰囲気になるだろう」

 小姓が走り廻った。みんなが来る間に、幸村が、微苦笑していった。

「徳川の者たちも、豪の者と言われた、本多忠勝や、榊原康政なども来たそうだが、大阪城で毎日行われている、演習や、軍事教練を見て、驚愕したそうだな。長柄の槍の稽古から、弓、鉄砲の稽古、道場の鎧を着ての格闘技、武蔵の剣術の稽古の付け方には、恐れをなしたらしい。特に、当たり前のことなんだが、儂までが一兵卒に交じって、演習に参加しているのや、淀、秀頼、大助ら、あの高い城壁を上ったり、ロープ一本で、猿のように降りるのを見て、淀様や、秀頼様までが、あんな凄いことが出来ると、腰が抜けそうになったらしい」

「演習をやって置かなかったら、戦に連れていってもらえませんからね。それは、武蔵先生の稽古には、手加減はありませんからね。最初は鬼かと思いましたよ」

 と明るく笑った。

「わらわも、叔母様に誘われて、稽古や、演習をはじめましたが、あいやあ、これは大変なことを、はじめてしまったと、一日素振り千回とか」

「え?・・・私は二千回でしたよ」

 香音が、鞠にいった。

「その人の腕に応じて、宿題を出しているのでござるよ。今の淀様の腕なら、雑兵が、五人束になって掛かっても敵いませぬぞ。武蔵が保証し申す・・・」

「いや、鉄砲の腕もあげられましたな。いまは、佐助に拳銃を習っていると。儂が、良い拳銃を探しておきます」

「孫一。余のも頼む。二挺拳銃にする」

「だったら、私も二挺拳銃にしたい」

 と大助がいった。

「佐助の影響だな。二挺拳銃は・・・」

 幸村がいった。

「いま、奥で武道をやっていないといったら、変人扱いを受けまする」

 香音がいった。

「秀頼隊の杉山伯一郎と、大助隊の石原昇介も呼んで下さい」

 と秀頼が言った。

「そうであったな。凄い人物たちの話を聞くことも勉強になる。ところで、二人の隊の軍装は、誰の考えだ。いきなり、戦であの姿で現れたので、驚いたぞ」

「余と大助が真剣に考えて、意匠は母上に助けてもらった。でも、動きやすいと評判はいいですよ。隊員たちの評判ですが」

「いや。理に適っている。虚飾を廃して、実利に徹しているところが、実に良い。後は、死角の研究だな。たとえば喉が狙われる。これは、肩までスッポリと被る方の者に喉当てをつけるとか」

「ほら、ご覧なさい。わらわの注意と武蔵の意見は、同じでしょ」

「うーむ・・・判った」

「実は、正式軍装に取り入れたい。一着貸してくれぬか」

「父上のことだ。徹底的に分解して、研究所で研究される気でしょう」

「秀頼に読まれたな。実は、気になっていた。防弾の部分は、鉄だと思うが、防弾ガラスや、炭素繊維を使えば、鉄よりも丈夫で、軽いものが出来る。上着と、ズボンは、布にそうしたものを織り込めないか。顔の部分は、防弾ガラスなら、もっと軽くなる、染料は石炭から採れるようになった。迷彩色も大丈夫だ。意匠は淀が得意だ。最高のヒントをもらったよ。あとは、南では涼しく、北では、暖房だな。下着に、中着を二枚、駱駝の繊維が暖かい、家鴨の羽根が保温がいいともきいた。もっとみんなで研究しよう」

「わらわは、意匠を考えるのが好きなのえ。素晴らしい。戦闘意匠を考えまする。伯父の信長公が、南蛮鎧を着て、みんなを驚かせていたけれど、もっと凄いものを考え、考えまする。陸軍、海軍、海兵隊、工兵、屯田兵、農兵、医療隊、動物隊、施設隊、通信隊、伝令隊、音楽隊、女性隊、迎賓隊、それに、気になっていたのですけど、日常の服装も、豊臣政府ならではと言うものをきせたい。いまは、ばらばらの服装ですけど、将軍は将軍、兵士は兵士の服装にしないと、けじめがつきません」

「言われてみるとそうだな。日常服、制服、戦闘服の三種類で、冬服と、夏服、南方隊と、北方隊では違ってくる。位階でも変えなくてはいけない。淀に、そちらの方面の研究員と助手が必要だな。場所も、必要だ。被服廠としよう。素材の研究から、意匠、縫製、こりゃあ思っていたより大変だ。出来るか淀・・・」

「やります。やらせて下さい。わらわにしかできません」

「判った。被服廠長官だ」

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