第二章 10
十
柳生但馬守が、幽鬼のような顔で松山城に戻ってきた。
迎えた、家康も幽鬼のような顔になっていた。
「但馬。どうした?」
「柳生の庄の一族郎党、老若男女、赤ん坊にいたるまで、殺害され、家屋敷も木端微塵に・・・現場にはこれが・・・」
と「天誅」の紙を見せた。
「!・・・わ、儂の方では、ひ、秀忠が、儂を置いて家族で逐電したわ。行動をともにしたのは、本多一族よ・・・いよいよ、儂らが狙われるな」
「大御所様。あの船を使いまするか? 城が落ちる前に・・・」
と言った時に、荒川に浮かんでいる船から、一発大砲が撃ち込まれた。
幸村は、笑いながら、
「建て直すのが大変だから、城には当てるな。近間に撃て。それだけで、家康は、逃げ出すだろうよ」
といった。その通りになった。松山の兵どころか、川越や、近くの城はみな、空っぽになった。
それでも一応、掃討して、掃除もしていった。
残っていた将兵は、すべて捕虜になった。
田中長七兵衛がきて、大規模農業の作業に入った。
松井善三郎と、内田勝之介の工兵隊と、動物隊もきた。
現在の埼玉県と東京都の郡部が開発の、対象になった、農家向けの長屋が造られた。
納屋、土間(作業場)、自家消費の野菜畑が造られた。
無駄なものは、すべて壊して平にしていった、象十頭が投入された。
それに馬、牛、犬が、それぞれの場所で力を発揮していった。
犬は、犬橇の経験から、数頭の犬を、犬の背丈に合わせた、荷車を曳かせると、便利であった。
「どんなものからでも、学べるものはある」
犬橇から、犬の掛かりに、
「橇の代わりになる、荷車を造って、犬の扱いを学べ」
と夏季に犬橇の馭者を呼んで学ばせた。
街道や農道を、掘り返して、その底を、象十頭を歩かせた。
その後を、馬五十頭を歩かせて、踏み固めると、楠の大木を、道の幅に切ったものに、鉄の輪を嵌めて、木の年輪の中央に金具を付けて回転するようにして、ローラーにしたものを、牛二頭に曳かせていった。
それを四基使うと、掘った道の底が、がっしりと固まった。
そこに、牛が二頭で曳く荷車に、砕石を積んで撒くようにしてしいていった。
その上から栗石を撒き、ローラーで固めていった。
さらに上から細かい砂利を撒いて行き、コークスを造るときに出来る、コールタールを熱して、平らに流していった。
コールタールが、冷めないうちに、砂を撒いていった。
砂を何回か撒いて、熱が冷めてから、ローラーを掛けていった。
象にローラーを曳かせていった。
実に、平で立派な道が出来上がった。
これには、日当で働いていた、作業員の地元の農夫たちも、ビックリして、
「いやあ、こんな立派な道が出来て、徳川では造れないわ。実力が違う」
といいあった。
幸村は、やっと防弾ガラスが出来たのを喜んだ。
ガラスを何回も方向を変えて重ねて合わせていき、ガラスとガラスの間にこんにゃくの透明なものを薄く製造して間に挟み込み、造り上げていくと透明で、ガトリング銃で撃っても割れないガラスが出来た。
ガラスの繊維を造って挟み込むと、さらに強度を増した。
単発の鉄砲では傷も付かなかった。
これに鉄の枠を嵌めて、盾にした。
盾にするために、あらる武器で、実験を試みた。
鉄砲、矢、投げ槍、槍で突き、刀で斬りつけた、棍棒でたたいても、傷も付かなかった。
盾の鉄枠には、上下、左右に雄雌の鉤(フック)付けた。
これを、コの字型や、□型にすると、即席の砦になった。
二段に組んで、その上に屋根を造ることも出来た。
ガッシリとした造りになった。
これの訓練を徒歩兵にさせた。
火にも強かった。
しかも、木盾なみに軽かった。
木盾では、鉄砲の弾丸が貫通してしまう。
ガラスの盾には銃剣の出せる銃眼が開いていた。
銃剣のまま盾を相手に押し付けていくと剣が、敵の体に突き刺さっていった。
十文字に鉄の帯があって、そこに取っ手が、何ヶ所か付いていた。
五人一組の班で動く。
この盾と、銃剣を組み合わせて闘えば、弾丸(タマ)切れを起しても充分に戦えた。
「これなら、毒矢にも勝てるだろう」
幸村がいった。
その言葉に、孫一と、武蔵が、顔を見合わせて、
「そういうことか・・・」
と深く頷いた。
「孫一よ。頼んでおいた。馬が十頭で運ぶようなな陸軍用の大砲は?」
「用意出来た。十門な・・・」
「儂も、馬四頭で、曳く大砲を二十門造った。大和郡山と九度山でな。武蔵。鉄砲と火薬矢の三段撃ちの訓練は?」
「大丈夫でござる。ガトリグ銃の八方二段撃ちもです。連弩の六連発火薬矢の、三段構え射ちも熟練しました」
「医療隊の、竹中鑑三、梶井基一郎。毒矢の対策は?・・・」
「はい。掠り傷でも、この小刀で傷を少し大きくして、吸い取り、絞り出して、石炭から採れました。アルコールで消毒の上、傷薬を塗って包帯をすれば・・・」
「そうか、医療船と医療車も後方で待機させる。木村重成。筆頭師団長として、各隊の様子はどうか?」
「いつでもどこでも、出陣出来ます」
大阪城の練兵場でのことである。
「松井、内田。工兵隊の士気はどうか」
「あらたに増えた兵も含めて、実戦で鍛えております」
「動物隊は、こたびは、象は気候的に無理だが、その分虎を、虎使いを一頭に二人付けて三百頭に増やした。新たに投槍部隊を二千人創設した。穂先には、猛毒が塗ってある。鞘は投げるまで外すな。さらに、こういう武器ができた。戦車、戦闘装甲車、装甲車には大型を乗せたが、各小隊に一基を馬一頭で楽に運べる鉄製のボンベと言うそうだ。ガスが圧縮されて入っている。これを銃の形にしたものを造った。藁人形を立てろ」
と命じた。
数個の藁人形が立てられた。
それに目掛けて、幸村が、引き金を引いた。
その筒先から多量の炎が放出された。
全員が驚いた。
藁人形は、瞬く間に燃えきった。
石炭から抽出せたガスを使った火炎放射器であった。
「引き金を引きつづけている間は、火炎を出す。すでに火炎隊を造った。後は兵站の確保だけだが、渤海、黄海から九州の筑前、肥前、壱岐、五島列島、対馬、朝鮮の李王朝には外交的に仁川、身彌(シンミ)島それと済州島が使える。陸奥の十三湊、蝦夷の小樽、能登半島、佐渡、隠岐に兵站基地を造った。沿海州のナホトカ、ウラジオストク、清津(チョンジン)にも、兵站基地を確保したい。これは渡ってからのことだ。包(パオ)十万人分用意してある。石炭を焚くストーブというそうだ。これも同じ数だけ用意した。兵装も寒冷地用を用意した。すでに蝦夷、北蝦夷(樺太)、シベリアで越冬の経験を何度もしている。北のことは強くなった。蝦夷にいるシベリア犬と、犬橇も用意した。先ず敵の心臓部の瀋陽をいきなり、大砲で、営口から渾河(フンホー)、遼河(リャオホー)に旗艦も入れる。海兵隊、陸軍内海軍も入っていける。ただし南方から十万、清津から十万、沿海州から十万の。東、南、北から攻めるが、西に逃げられないように海兵隊が、遼河から、強襲揚陸をする。虎は百頭づつ渡す。本隊は渾河からの部隊、鈴木隊は、清津から。宮本隊はウラジオストクから。海兵隊は豆満河、鴨緑河を押さえよ。しかし、河が凍結したら、まずいので、海に、その前にでよ、予想以上に早く凍るぞ。今年の冬を越えて春に成ったら、出陣する。攻められたらせめかえす。これは、国の基本だ。そうしない限り侮られる。侮られたら、外交も、交易も出
来ない。これは世界中同じである。その意味も判らない家康と柳生但馬は、愚か者である、それを止められなかった徳川は、家臣一同も、大莫迦者である。儂が征伐に行くのは、意地でも何でもない。世界の常識である。毒を塗った矢は矢箱に、たくさん用意した、槍も同じである。毒には毒をだ。騎兵隊も、徒歩兵も必ず、弓か、弩を持て、毒を塗った矢が、槍が、どういうものか、自分たちの、体で知るが良い。敵は騎馬民族だ。彼らにもっとも有効なのが、馬防柵である。移動用の馬防柵を造った。現地で組み立てる。それと敵の馬は、蹄鉄を付けていない。大型の撒き菱が、効果である。個人装備に加える。それと、針金の長いものを張る。騎手の首の高さに張れば、敵の首が飛んでいく。馬の走る脚の高さに、十本も張れば、馬は転倒する。考えれば幾らでも方法はある。必ず痛いめに合わせる。これは、国と国の戦争である。得することは何もない。しかし、この返礼をしなければ、我々は、五流国として、何時までも蛮族に侮られる。いつでも攻められる、などという思いを、決して抱かせてはならない。これは、民族の誇りを守る戦いである」
と幸村が、熱く弁じた。
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