第二章「幸村の戦闘法」1

 第二章「幸村の戦闘法」


   一


 伝令が、

「虎は全頭無事に戻りました。敵の先陣は、総崩れです」

 と伝えてきた。

「騎馬隊でろ! 左右の山の斜面に、犬を五十頭ずつ放せ! 狙撃隊、犬に追われた敵を、撃ち獲れ! 犬を撃つなよ」

 狙撃隊と、犬隊に伝令が走った。

 施設隊にも、伝令が走って、足船を横に、ジョイントした。

 船の舷側に、ロックできる金具がついていた。

 その上に橋に成る板を三枚ずつ渡して、見る間に渡河橋を造った。

 すべて事前の訓練が、重要なのであった。

 犬は、秋田犬と、土佐犬と、清水将監たちが、イギリスに行った時に、ドイツまでいって、軍用犬である、シェパートと、ドーベルマンを雄雌を二十頭ずつ購入してきたのを、増やしていったのであった。

 犬にも鎧を着せてあったし、三本の犬用の槍を背負わせてあった。

 犬種別に放した。

 片側百人ずつの狙撃隊を配置した。

狙撃銃には、銃の上に望遠鏡(スコープ)が付いていて、スコープの中に十字が付いていた。

 銃の先には、折り畳みの二脚が付いていた。

犬に追い出された敵兵は、姿を晒した。その瞬間に狙撃隊に、確実に撃ち斃されていった。両側の斜面は、綺麗に掃除されていくように、狙撃されていった。

実に効率的であった。

 高康の軍は、散々であった。

 公称八万の軍は半減した。

その上に、元々が豊臣に対する不満分子たちの集まりであったから、一人去り、二人去りが、心理的に伝播していき、

(まけるぞ!)

 と思ったときには、団体で逃げ出していた。

 しかし、清里側に逃げた者は、小諸、佐久からの兵で、挟撃される羽目になったし、甲州路を敗退していくものは、下諏訪の兵に、待ち伏せされることになった。

「全員殲滅しろ。生き残りを造ると、後顧に憂いを残す」

 と騎馬隊で、本陣を襲って、全員、射殺していった。

赤石山脈を越えても、高遠の兵が待っているだけであった。

「捕虜は不要、戦死させよ」

 高遠にも、佐久、小諸の兵士も、下諏訪にもつたえた。

 下諏訪で、高遠、小諸、佐久、上田からの兵を待った。

次の相手は異国の兵である。

「この蛮族を征伐しなければ・・・」

 と幸村は厳しい眼でいって、兵が集合したところで、

「全軍、進発!」

 号令をかけた。

 そのとき、

「総大将。徳川高康を捕えました」

 と言ってきた。

「斬れ!」

 といって、あとは何もいわなかった。

(天下の経営とは、ときに非情になることも必要なのだ。ここで、益にならぬ伝説を造ってどうなる。黙って、踏み潰す他に何があるというのだ)

 思いながら、幸村は、

「これからは、最大の敵に成るのは、国内の、反豊臣ではない。これまでの態勢を、大きく、極端に変革して行こうとしている者に対する、個人々々の既得権益との戦いだろう・・・儂はこれまでの者は、降伏の意向を示したものを、殺せといったことはない。韮山で斃れていったものは、掃討隊と、掃除隊が、跡形もなく綺麗にしていくだろう。道も山もだ。倒れた木材まで、筏にくんで、富士川を降っていくだろう。大きな穴を掘って、死者たちを、紙の白衣を掛けて、油を掛けて荼毘伏して、穴を戻し、木の墓標を建之して、連れてきた僧侶たちに読経をさせ、さっぱりと掃き清めて、血を水で洗い流す。儂が昔から、やってきたことだ。戦場には、折れ矢一矢、折れ弓一つ、残したくないのだ。住民たちには、すべて関係のない。武士という、暴力階級の者たちが、自分たちの都合だけで、醜い争いを行ったいるだけだ。庶民の生活には、なんら関係のないことだ。だから儂は、出来る限り戦場を清めて去る。庶民たちに『申し訳ない』と思いながら、心で手を合わせる。この考えの無い奴は、人間じゃない・・・違うか? 淀、秀頼。大助。逞しくなったな。強くなれ! 日本で一番強い大将になれ、一人では、何も出来ない。ここに、素晴らしい大将が二人人いる。どちらが右手で、どちらが左手か? この二人が正確に聞いている。秀頼は、わしの嫡男じゃ。この大豊臣を、日本を背負っていかなくてはならない。秀頼にならできる。大助は、秀頼から、大切な一字秀を頂戴して、秀幸となり、必ず、双子かと思うほど、ピタリと寄り添って、ともに強くなり、秀頼を補佐せよ。儂も、淀も、宮も二人の大将もまだ元気だ。今のうちにこうして戦に出て、出たら勝て! 秀頼。お前には、儂の子ながら、太閤様の血が流れている。偉大な豊臣の血だ。なんでも大助に相談しろ。時代は、いつかお前たちの時代に成る。儂は家康のようにはなりたくない。老害であり、老醜である。まだ、この日本に、どんな最悪な大将であれ、異国の蕃を入れたことはない。それを、家康は、最低のことをやりおった。許せぬ!」

「同感でござる!」

 孫一と、武蔵が同時に強く頷いた。

「嫌な予感がする?」

 幸村が眉根を寄せた。

「来るのが遅い」

「なるほど」

「糸魚川で乱暴狼藉を働いているか!」

「武蔵、孫一の言う通りよ」

 といってから、伝令管に向かって、

「各城、各隊は、戦車、戦闘装甲車、装甲車と、騎馬隊だけを出せ本隊も同じである、徒歩兵は後から走ってこい! 松本から糸魚川まで、全騎、疾走する。象二十頭は虎から離せ! 牛隊、角に槍を付けろ。一番隊、全戦車隊。二番隊、全戦闘装甲車。三番隊、全装甲車、四番隊、牛隊百頭。五番隊、象隊二十頭。六番隊騎馬隊真田赤備え。隊長幸村!」

「ええ!・・・」

 と言う声が上がった。

「殿下、お考えを・・・」

 淀が言ったが、

「七番隊、騎馬隊宮本武蔵隊。八番隊、鈴木孫一隊。徒歩兵以下は、儂の骨を拾いに来い。馬引けい! 手槍! 鉄砲は右の筒へ。ピストル、二挺!・・・」

 手早く支度をして、

「三人は本陣車に鍵をかけて、外すな!」

 素早く、佐助が、本陣車に乗り込んだ。

「殿下!」

「父上!」

 秀頼と大助が、叫んだ。

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