第六章 8

   八


 幸村も、淀も鎧の上に、白衣を着ていた。

「うむ。二人の息子、秀頼と、大助秀幸の成長よ・・・」

「このようなときに・・・」

「このようなときだからこそ、成長が判るのだ。秀頼も、大助も、見事に両睨みの戦略を考えている。この地図を見よ。瀬戸内海で、小豆島の後、村上三家と大三島を刺激しないように、屋代島まで飛んだ。村上三家と、大三島は、まだ安心は出来ぬ。そこで、屋代島まで飛んだ。これは、正しい。次に、太平洋を一気に速度を上げて走れる、薩摩の種子島、屋久島に、そこから甑島列島、天草諸島、五島列島、壱岐、対馬、隠岐と北を睨んでおいて、奄美大島、徳之島、琉球、宮古島、石垣島に施設を造り、健康を回復したものから、南北に分けて行く気だ。太平洋側には、島は幾つもある、伊豆大島、伊豆七島とな。そこかなら、東北にも近いし、航路にも慣れている。山陰は波が荒い上に、島は、隠岐、佐渡ヶ島で、それより北に島はない。次は、伊豆大島、伊豆七島に、施設を造れと言うだろう。常陸の那珂湊近くに施設を造れと、施設隊がフラフラになるまで、施設を造らせていくぞ・・・」

「そんな乱暴な人の使い方をしたら」

「構わぬ。多分、西側で、手の空いている施設隊を応援に廻すだろう。それで、土木・施設隊の重要さを勉強すればよい。孫一と、武蔵が付っきりになって、見守っている。難民船は、まだまだ、続々とやってくる。衛生隊、医療隊の必要性が判るはずだ。大阪城だけではなく、軍全体に、女性看護隊や女性医師、薬師(くすし)が必要なのが判ってくれるだろう。しかし、これは即席では育成できぬ。教育していく場が必要だ。実は江田島に衛生看護医療の教育隊がつくってある。男女ともにな。迎えに行かせよう。実地訓練にもなるはずだ・・・親父の先見の明を見直しでくれるだろう」

 と伝令に、

「江田島に、医療隊を迎えに行く船を、至急だせ二千人はいるぞ。船団で、至急に行け!」

 と命じた。

「まだ半人前だが、基礎は出来ているはずだ。良い戦場になる」

「手廻しの良い・・・」

「淀。儂は、その手廻しの良さで戦に勝ってきたのだ。東北は戦ではなく、経済戦で勝ち、東北十家を買収した。多少の金子を使っても、金子ですむなら、戦よりも良い。血を流すことだけが、天下統一の道ではない。今の豊臣に勝てる戦力は、国内にも、外国にもない。新たに造った、海兵隊の強襲揚陸艦十隻は、国内のためではない。日本は島国で、四方を海に囲まれている。海軍力が弱かったら、必ず敵国に侮られる。抑止力にもなる。伊勢の久居と、九鬼、和歌山の海南と広川、駿河の内浦湾にも引き続き造船させているし、阿波の吉野川河口の渡辺一族にも造船をさせている、北近江の国友(地名だが姓になった者もいる)一族は、総員、引き抜いた。越前の鍛冶の者たち、堺の者、薩摩の鍛冶職、雑賀の一族を、一ヶ所に集めて、海軍用の主砲になる巨砲を最新の設計で造らせている。造船は九鬼守隆と鈴木孫一。鍛冶は国友仁左衛門と弥五郎に孫一が付いている。間もなく完成するはずだ。これらができたら、もう、逆らう敵は、国内、国外にもいなくなる。それからだ。日本が国力を増していくのは。北国の暖房を研究している中で、後金の女真族から、貴重な、燃料を研究してきた。彼らも知らずに、なんだろう。と思ってきたのだが、ヨーロッパの資料を翻訳研究させている中で、燃える石があるのが判った。石炭というのだが、これは、北九州で採れる。東北と、蝦夷でも採れる。これを燃やす炉を東北の南部で研究させた。鉄器の産地だが、鍛冶ではなく、鋳造の鉄器だが、炉ならば、鋳造で構わぬ。これの見本を、雑賀の衆に研究させたところ。石炭乾留と言うことを行うと、コークス、ガス、タールという物質に、分けることが出来る。これには、千度から千三百五十度という高温が必要だ、これに耐えられる炉は意外にも、耐火煉瓦であることが判った。耐火煉瓦の造り方は、朝鮮から連れてきた、陶芸の職人が、知恵を出した。釉薬の造り方に秘密があった。これを、上り窯と言う方法で造って、炉を造りコークスを造った。副産物のガスと、タールが出来た。タールに砂を混ぜると、道路の舗装の資材になることが判った。そのうちにガスの使用方も考え付くだろう。このコークスを冶金の炉で使ったら、木炭等の比ではない、高温を発することが判ってな、冶金の技術が飛躍的に向上した。その技術で、巨砲を造っている。こうしたことは、分野別に研究班を造らせている。アルコールという消毒薬は、砂糖黍から採れることも判って、それを今、琉球から、大阪城に運ばせているが、火器厳禁で使わないと火事になる。これを、救護隊に徹底させている。目の前で実験して見せるのが一番早い。そのアルールを綿に含ませて体を拭けば、最高の消毒になる。焼酎の度を数十倍強くしたようなものだ。これらは揮発性が強いので、火器は引火する。ガスとアルコールの軍事利用を研究中だ。大砲の火薬との併用で、今までの油の何十倍の爆発力がえられるはずだ。研究所は人里離れた山の中にある」

「信じられませぬ。殿下の研究熱心さには、誰もついていけませぬ。一体、頭の中はどうなっているのやら?」

「一つの研究、発見が、次の発見、発明を呼び寄せるのだよ。だから、研究班は常に、何かを考えている。その彼らに常に宿題を与え続けることが大切なのだ」

「それでなくても、多忙なのに・・・」

「多忙だから、余計に頭が働くのだ。すでに、若い二人は、象と犬の、農業での活用を考えている。確かに、像を五頭ならべて、耕運機や、田起しの鋤を曳かせたら、馬や牛の力の比ではないはな。馬、牛では入れないところも、犬ならば曳けるわ」

 といって、伝令を呼び、そのことを動物班に伝えた。

そこから、ヒントを得て幸村は、揚陸時に荷物の陸揚げに象を使うことを考えて、これも、

伝令に伝えさせた。

さらに、通信隊に音の言葉化の研究をさせていたが、それが、完成した。

〈いろは〉を、音でどう伝えるのかを研究させたのであった。

〈・-〉で〈い〉。

〈・・-〉で〈ろ〉。

〈・-・〉で〈は〉、というようにさせて、竹の管を長く引いて、先端に木魚のようなものを付けて、撥で叩かせたのであった。

木魚を大・中・小と使い、金属の音を、文字の切れ目に入れたのであった。

〈小・大〉△で〈い〉で、小の記号を〈・〉、大を〈-〉中を〈○〉、△を、一字の区

切りといたので、「・-△・・-△・-・△・○―△」「い・ろ・は・に」 となるようにしたのである。

 これの発信と、受信の訓練をさせた。

そして、一里先まで到達するようにした。

しかし、竹筒よりも、銅線の方が電動率が何倍も良いことが判った。

二十里よりも先に伝わった。

 電気のない時代に幸村の軍は、こうした信号方法を考えて、信号所を造っていったのであった。

 これと、手旗信号を造らせた。

艦船間の信号には便利になった。

紅白の旗の振り方で、文字を造っていったのであった。

 これらのことは、猛烈な速度で、全軍に広がっていった。

信号兵の養成が、急務となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る