第六章 7

  七


「問題はその後だ。収容施設だ。健康になってくれるまでの間の施設だ。近間では、淡路島だな」

「それだけでは足りないぞ」

 幸村の言葉に、そういったのは、それまで黙っていた。秀頼であった。

「総都督!」

 と大助を呼んだ。

「はい」

「豊真隊の指揮を執れ。豊真隊総登場だ。日頃の訓練の成果を見せよ!」

「豊真隊とは?」

 幸村が訊くのに、武蔵が、

「摂政と総都督とともに武芸や、訓練を受けている青少年の部隊です。二万人いますよ。みんなしっかりしています。素晴らしいお子飼いです」

 と答えた。すると淀も負けじと、

「豊真紅隊を出動させよ。総登城!」

 と香苗に命じた。

「はい」

「豊真金蓮部隊も出動させよ」

「はい」

 と触れ太鼓がなった。

「豊真紅隊とは?・・・」

「殿下。わらわの近衛隊です。陸軍、海軍、海兵隊に、衛生隊、医療隊もおります各五千人です。豊真の名は、宮本先生が名付け親です。豊真隊も、豊真紅隊も、本部は武道館です」

「豊真金蓮隊とは」

「女性特有の優雅な技を使う部隊ですが、剣も、体術も教えてあります。教練もいています」

「忍びか?」

「はい。金蓮特秘も来ます」

「む? それは?」

「閨房で夜伽をしながら、機密を訊き出したり、暗殺もします。その技も拙者が教えました。特別に美人な外国の女性もいます。南洋進出に不可欠でしょう」

 武蔵が答えた。現代でいう『ハニートラップ』であった。

この技は、古今東西を問わないのであろう。

「あ・・・そこまで考えていたか」

 幸村が驚くと、武蔵が悪戯っぽく笑った。

「日本を護るためです」

 淀が言った。

「企画したのは、淀様です」

「・・・」

「施設隊は、淡路島に続いて、小豆島、家島諸島にも施設を建てろ。念のため、屋代島にも建てよ。さらに、五島列島、甑島、壱岐、対馬にも、第二期、春先の第三期に備えて建てよ。天草諸島にも基礎教育の設備を建てよ。農耕馬、牛の使い方鋤、農耕機の使い方が判らないはずだ」

 秀頼の命令に迫力が、加わっていった。

「提案があります」

「何か? 総都督」

「広大な場所には、象を使いたいと思います。力は、馬、牛の比ではありません。狭し場所には、犬が適切です」

 大助が意見を述べた。

「判った。象使いごと、我が国が購入したものだ。犬もそのような訓練をさせろ。秋田犬でもはいれないところは、柴犬、甲斐犬を使え」

「象使い、犬係を至急呼べ。対策本部を、海軍会館に移せ! 地図、図面、全国地図を忘れるな。名簿もだ。儂と摂政の鎧をもて、鎧の上から、白衣を羽織るぞ。竹箆を、二本用意せよ! 紅隊、金蓮隊、孔雀隊は、豊真隊傘下に入れ。そうか、鉄器係も呼べ、耕運機を引くときの、寸法が違うはずだ。摂政、今一つ・・・」

「なにか?」

「堺を町ごと接収して、健康回復後、武士階級のみ、帰農するのか、浪人するのか希望を聞いた上。浪人では食えぬことを教え、武士は、もう豊臣軍以外にはなく、豊臣軍も定員ピッタリであることを、教え帰農を勧めます。いうことを聞かぬものは、時間の無駄ですから、叩き出します。浪人と言う職業はありません! その教育の場につかうこと。他の家々は、伝染病のないことを確認の上、療養所に使います。医薬品その他、医師、薬師(くすし)看護師、衛生師、料理人、材料を、搬入せよ。紅隊、豊真隊隊ともに、五百人ずづで待機。男女を区画する幕、壁板を忘れるな。紅隊、女性の生理用品を持ったか?」

「はい」

「妊婦がいる。産気づく者が出るぞ。産屋を確保せよ」

 秀頼と、大助の活躍に、幸村、淀、孫一と、武蔵が、呆気にとられて、

「どうなったんだ? あの二人・・・」

「働き場所を得たのでしょう」

 淀が、幸村にいった。

「どこまで出来るか、やらせてみよう」

 全員が頷いた。

 船が次々と着いて、生きているのがやっと、といった難民たちが、降り初めてみると、全員が息を呑んだ。

まるで、幽鬼の大軍が、ゾロゾロと降りてくるようであった。

「何をしているんだ。助けてやらんか!」

 その声に、兵たちは我に返って、彼らのもとに走った。

「重湯を与えよ。毛布はいきなりかけるな。蚤、虱の巣になるぞ。風呂入れよ。長湯はさせるな。今までの衣類はものが、はいっていないか確認の上の上、箱の中に入れろ。上から焼酎をかけろ。髪の毛をよく洗え、洗ったら拭いて乾かせ、風邪をひかせるな。陰毛も良く洗わせろ。体が乾いたら用意した着物を着せて、粥を食べさせろ。毛布を掛けて、寝かせろ・・・」

 大助と秀頼が、陣頭指揮をした。

女性の方は、佐助と香苗が、紅隊を指揮した。

「これは、想像を絶するな・・・」

 孫一がいって、

「とても遠くまでは運べない。運んだら死ぬぞ」

「予定変更で、風呂に入って着替え、粥をすすって、毛布を被った者は、戸板ではこんで、海軍会館の中で、寝かせろ、火を焚け部屋を暖めよ」

 と幸村が命令を出した。

「城内と海軍丸との間に、壁を造れ。仮設でよい。至急にいたせ」

 武蔵が命じた。

工事班は眼の廻るような忙しさになった。

その中で、幸村は、立ったままで、携帯用の地図帳を見ながら、

「大阪城、堺、淡路島、家島、小豆島、屋代島、甑島列島、天草諸島、五島列島、壱岐、対馬、隠岐、種子島、屋久島、奄美大島、徳之島、沖永良部島、琉球、宮古島、石垣島・・・気候を考えると隠岐が、限界だな・・・」

 と幸村呟いた。それを聞いていた淀が、

「殿下、何を呟いておられますのえ?」

 と訊いた。

みな、戦支度同然で、立ち働いている中でのことであった。

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