第六章 5

   五


 しかし、出発寸前になって、東北から、早船の伝令があった。

「東北十家分、難民状態の農民、庶民、浪人、下級武士たち、新たに主家を失って、僅かな主家離れの金子と米の配給だけで、それらの群れが難民化しているので、収容して、初期医療の、衛生の配慮を行い、汁状の食べ物を、与えていますが、難民は、老若何所、幼児、赤ん坊、妊婦もおります。武士、浪人からは、槍、大刀、脇差、小柄にいたるまで、武器になるものは解除いたしました。しかし、難民の数は異常多く、現地に置いても、作業は無理ですし、今後は気温は低下していきます。凍死、もしくは、餓死が、容易に考えられますので、これを大阪に送り、暖かな地方で、一、健康回復、二、身元の確認の名簿造り、三、身

分証の発行、四、宿舎の確保、五、健康回復後、本人の希望する職種の聞き取り、六、特殊技能、七、文字が書けるか、事務能力の有無、八、伝染病保菌者の隔離、九、村はともかく、家族単位の確保、十、健康回復後の、職種単位の教育と、訓練、演習の実施。なを、こうした状況は、東北全区域に起こっており、これは第一次の難民に過ぎません。最終的に何万人になるのか。把握不可能であります。もっと寒く成れば、再度の難民がもっと、悲惨な形であらわれるでしょう。船にも乗れない、衰弱した者は、現地に、救護施設を開設しておりますが、状況回復次第、東北に残るか、脱出するか、本人たちの希望に基づいて、対処しております。なお、上杉の、直江兼続殿は、私財を投げ打って、難民対策に奔走しております。他にも、東北のために粉骨砕身して、居られる方が多く居られます」

 このように、手紙も添えて、東北部隊総本部、民生隊々長、速水守久師団連合総司令官から、切々かつ、緊急の要請が入った。

 伝令を聞き終えた幸村は、伝令の者を、近くに手招き。

「船は、小早船か?」

「はい。帆を満帆にした上に、全員で、櫓を漕いで疾走してきました。水夫たちは、何日も寝ていません。休ませてやって下さい」

 言って気絶しそうになった。

「しっかりしろ! 誰か、砂糖と塩を混ぜた温い湯を与えよ。他の者の手当は?」

「はい。全力で介護しております。湯と、毛布であります」

 江藤盛時と言う、小姓頭の一人が、湯と毛布を差しだした。幸村の馬廻りの者が介抱した。伝令役の手を見ると、血だらけであった。自分も櫓を漕いで来たのであろう。

「手を、染みるが、焼酎で拭き、傷薬を塗って、両手に晒しを裂いて、巻いてやれ」

 と命じながら、伝令の小林太吉に、

「しっかりしろ、任務を終えていないぞ!」

「も、申し訳ありません。直江兼続殿の書面、最上義光殿、伊達政宗殿の城代、溝口秀勝殿、小野寺義道殿、秋田実季殿のご城代、戸川政盛殿、南部利直殿のご城代、村上義明殿、津軽為信殿ら、十家からの書状が・・・」

「む。直ぐに読むぞ。で、現地の人手はどうか?・・・」

「は、はい。現地は雪が深く、かんじきがなくては歩行できません。馬、牛では足が、新雪の中に潜って、橇は曳けません。シベリヤ犬だけです。橇で使えるのは。秋田犬の橇は使えません」

「誰か、蝦夷に発って、蝦夷の犬橇を、東北に廻せ! 小太郎」

「はい」

「シベリアから、犬橇を、可能な限り買い漁ってくれ中古でも構わん」

「はい」

 と答えて、縁側にでると、鉄扇で、コツコツと縁側を軽く叩いて、

「聞いたか?」

 縁側で、コツコツと音が返ってきた。

「二十名で、走れ。資金は小頭に言え」

「待て、千両箱を、一つもて。儂の手形を、持って行き日本海の輸送船船五隻で、買ってこい」

 手形と、千両箱を小太郎に渡した。

小太郎が、それを縁先に置くと、音もなく床下に消えた。

「軍事部門は?」

「冬場の戦はありません。軍事の連合師団長の木村重成隊長は五分の一を警戒に当て、五分の四は、難民の送り出しを行なっています。犬橇の数がが足りません。難民は救護所に辿り着いた途端に歩けなくなってしまうのです」

「判った。蝦夷に伝令が走った。やがて、届くだろう」

「食べ物と、薪は?」

 孫一が訊いた。

「はい。難民のための部屋を暖めるのと。風呂を沸かすことは、計算外で、食べるように薪がなくなります。あと、生鮮野菜と、蜜柑とあれば」

 と言って、限界だったのであろう。

気絶した。

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