第五章 8

   八


 かねは、石川備前貞清に嫁していたが、貞清が、関ヶ原で浪人となり、貞清の離れで、竹林宮家とともに生活していた。

離婚同然であった。

貞清は、茶人と称して、何もしていなかった。

かね本人も、父母も異論はなかった。

秀頼は、かねにあって、一目惚れをしていた。後の話である。

「もう一組、大助様にも、これは、淀様の直ぐ下のお妹様、おはつ様が京極高次殿に嫁がれて、鞠姫様がおられます。淀様の姪御さまと結婚をなさったら、と言うのが御上のご意向で、すべての四つの儀式を四日で行なおうとのことで、宮廷の神殿で行うとのこと。御上も相当の肝煎りでございます。これだけ硬く結ばれたら、豊臣、真田は一心同体と。さすがは御上、これ以上の案はございませなんだ」

 と正室、統室で、幸村が、大阪城の主で関白太政大臣になったのであった。

「と、一つ、大事なことを忘れるところであったわ。淀様が意匠された、桐六文の紋章を、この通り十六弁の菊花の御紋入りで」


『五七ノ桐ニ六文銭 是ハ之 桐六文ノ紋章ニシテ関白太政大臣ガ紋章也ト認ム 後水尾天皇 御名御璽』


「この通り詔勅によって、定められました。これで、大任を果たしましたな。茶など一服いただければ・・・」

 霊光は肩で息をしていた。


         *


 幸村と統室淀の結婚式。秀頼と幸村の七女おかねの結婚式。大助と鞠姫との結婚。竹林宮家の誕生式。

四日間で、宮中の神殿で執り行なわれた。


 終了して、竹林宮家は九度山に、厳重な警固で戻っていった。

 幸村と淀が、夜、二人になった。

「ああ・・・やっと、二人切になれました。殿下、どうか、淀と、秀頼を見捨てないで下さいませ。殿下のご命令ならなんなりでもいたします。殿下との間を、お認め下さった、宮様を大切にいたします。秀頼の正室の母上でもあるし、可愛い大助の正室は、わらわの姪・・・こんな、三重にも、四重にも、繋がった強い絆を、朝廷の神殿で挙式するなんて。信じられない。夢にも思ってみませんでした。どんなに、悔しくても、女のわらわには、関白になることはできませぬ。関白殿下を夫に持つことしか、わらわの最良の選択肢はなかったのです。殿下には、正室と統室、二人合わせて正統な室ということです。後水尾天皇は、素晴らしい贈り物を下さいました。これで、誰からも後指を差されずに殿下と、城内でも呼べるのです

もの。もう、孤独ではありません。関白殿下の、妻です。抱いてください・・・」

 幸村もいつもよりも、気分が高揚していた。

「淀・・・」

「はい・・・」

 淀は、蹲るようにして、幸村の胸に、縋りすいてきた。

これが、本当の淀の姿なのであった。

 幸村は、後水尾天皇が、型破りな、女関白を認めるかということだけを、思っていたのである。

あるいは次善の策で、秀頼を関白に据えるかなと思っていたのである。

しかし、結果は、思いもよらなかった。

方法で、この難題を、見事に解いて見せてくれたのが、後水尾天皇であった。

 式の終了後、神殿を新築すると、約束をしてきた。

「殿下。これだけのことをして、すべてでどれだけ出したのですか?」

「二十万両ほどではないかな?」

「その出費だけは、淀に出させてください。お願いです」

 と淀が泣いて、頼んだ。

「淀。判ったからもう泣くな・・・これで、徳川も朝廷との、糸は切れたな。もう、打つ手はあるまい・・・田中が、今年は、米が倍の収穫になると言ってきた」

「一千万石・・・」

「売ってよい米はな。蔵にも同量が入る。他に、駿河、遠州、三河、相模、伊豆、安房、下総、上総、常陸、下野、上野の十一ヶ国も、田中の方式にした。初年度だから基盤整備で、そんなには行かないだろうが、飢饉はなくなる。他に美濃と尾張、甲斐、信濃も田中式にした。十五ヶ国の結果が見たいものよな。徳川が勢いのあったときに、蔵入り米が、八百万石だと豪語していたが。すでに二千万石だ。後十五ヶ国で、どれだけになるか。その分、人も増えたが、効率は悪くはない。あとは、中国と、四国、淡路島、九州だが、もう、日本海側と瀬戸内海の水軍は、我ら豊臣の麾下に入りたいと、村上三家と、伊予水軍が、軍門に下ってきた。讃岐の生駒正俊も、初めから豊臣軍に参加していた、同族の生駒正純を通じて、高松城を渡し、水軍は、麾下に加わってきた。高知の山内土佐守忠義、伊予宇和島十万石の伊達秀宗は、長宗我部盛親に、暫定的に仕切るように命じた。これで、四国側も、中国側も、瀬戸内海は、安全に進軍出来る。阿波の蜂須賀の水軍、九鬼守隆の水軍も、軍門に降っている。イギリスで造った船で、水軍と、水陸隊が倍になった。常陸、房総、北関東の陸軍が、大阪城の演習場で、油を搾られているわ。戦い方が違うからな。で、孫一が、征夷大将軍だ、宮本武蔵が、征狄大将軍だ。二人に任せておけば、一人は重火器に強く。もう一人は、肚が据わっている。これに、師団長級が、二十人、薄田隼人、木村重成、渡辺糺、長宗我部盛親、仙石宗也、明石全登、後藤又兵衛、塙団右衛門、堀田正高、青木一重、毛利元隆、内藤忠豊、名島忠純、湯浅正寿、毛利勝永、戸田為重、石川康勝、井上時利、松田兵部少輔、大道寺孫三郎これで、二十人だ。これに水軍二十人の提督、水陸隊の二十人・・・これに十人づつの大隊長が付く。陸軍二百、水軍二百、水陸隊二百の六百人の幹部だ。さらに、工兵の松井、内田が入る。二人の大将軍も大変よな。以上は、国内だ、外国にこれの半分の兵がいる。艦隊が五艦隊、輸送船は、十艦隊、それに、商船が十船団、商船輸送船団が十船団ある。豊臣のある時期を支えてきたのは、こっちの戦力だった。儂はものの見事に、豊臣の金は使わずに、増やしてきた。淀にも、少し謎が解けたか?」

「薄々は知っていました。だって、どこから戦費が出てくるのだろうと思っていましたから」

「判ればいい。どのみち、武士も、農民も、人間があまる。余っても食わなくては、ならない。移民が必要なのだ。太閤はそれを知っていたのだ」

 淀は今までになく落ち着いていた。

幸村の言葉を黙って聞いていた。

早く、幸村を受け入れたかった。

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