第四章 10
九
やがて日没になる。
淀が、下に戻ることを望んだ。
奥に入った淀は、二人きりになると、涙ぐんだ。
「どうなされた?」
「こんなことは初めてです。大阪城は、太閤のころよりも広大で、強固になりました。幾ら家康でも、今の大阪城を攻撃するなんで、狂気の沙汰です。深く広い濠。高い土塁その上に、聳える石垣と白漆喰の土塀、漆喰の下は煉瓦で、煉瓦は三寸の鉄板に漆喰で貼られているのですね。その内側にも煉瓦が貼られ白漆喰で化粧されています、三尺間隔で、銃眼や、矢挟間造られて、十間の武者走りがついています。殿が描いた図面を穴の開く程見つめ続けました。自分が攻める側に廻って、見つめて見ました。五十間置きの砲台には、太鼓や銅鑼が置かれて、敵を発見したら、鳴らすようになっています。左右の、どちらかの砲台に、発見されてしまうでしょう。殿のことです。あらゆる仕掛けがしてあるのに違いありません。それでなくとも、五十間置きの大砲を見ただけで、家康は攻めてこないでしょう」
「うむ。十間の武者走りは、五十間置きの中の数ヶ所が開くようになっていて、下に降りられる階段ついている。石垣にも銃眼が、無数に開いている。特殊な積み方がしてござる。それと、仮に濠を渡っても、土塁を登る前の空間は、陥穽(おとしあな)になっている。落下したら、五間下には剣山のように鋭い刃が並んでいる。落ちたら、助からない。攻めるのは無理だ。大阪城に入るには門から以外は無理だ。火攻めを考えて十分な空き地を造ってある。井戸は何十本も掘ってある。食べ物も至る所に、貯蔵してある。城塞は城内だけで、七ヶ所もある。外には水軍がいる。小早船、関船が南の濠にも、廻って来られるようになっている。しかし、水門を開かなければ、船は入れない」
「こんな凄い城の上に、今までに稼いでくれた金子。すべて、金蔵に積んであります。来て」
と淀が鍵束を持って、秘密の入り口を入った。
「今までは、どうしていたんだ?」
「豊臣は、そんなに貧乏ではありません」
と言って、蔵の二重の扉を開けた。
「これが、豊臣の財布です」
千両箱が、幾つも、積み上げられてあった。
「こちらが、殿が稼いでくれた金子。自分でおどろかないで下さいましえ」
隣の蔵に通じる扉を二重になっているのを開いた。
豊臣の財布の三倍の千両箱が、うず高く積み上げられてあった。
「これが、殿が稼いだ金子の山です。すべて使わずに貯めて置きました」
「驚いた・・・」
幸村が、首を左右に振った。
「こにらへ・・・」
手燭を幸村にも渡して、地下室への扉を開けた。
かなり長い階段を降りてから、再び扉があった。扉を開けた。ここも二重の扉であった。
「これは太閤が貯めた金です」
手燭に照らしだされたものは、すべてまばゆい光を放つ、金の延べ棒であった。
厖大な量であった。
さすがに九度山にも、和歌山城にも、真田丸にも、真田屋敷の金蔵にもなかった。
「儂と淀の他に、この金を知っている者は?」
「秀頼も知りません。秀頼が知っているのは、殿が稼いでくれた金蔵までです。淡島は、財布もしりません」
「それで良い。儂は、この太閤様の金塊は忘れる・・・」
「殿らしゅうございます」
「足が汚れた。風呂に入ろう」
「はい・・・殿。わらわは、色々な男に豊臣を護るために抱かれました。お許しください。でも、この金塊を見せたのは、殿だけです。信じてください」
「金塊を見なくても、信じている」
と淀を抱いた。
「毎年、一千万両と、米五百万石が、入ってくるようにした。これで、豊臣の旗本たちは、養えるはずだ」
「はい」
「儂は、安心して、つぎの仕事に掛かる」
「はい」
「必ず豊臣に天下を取り戻す」
「はい」
「儂自身の仕事は、その後だ」
「世界に出るおつもりですね」
「太閤とは、別の方法でな。それが、太閤を越えたことになる」
「頼もしや」
「儂は、四十半ばだ。やれると信じている」
「はい。わらわも付いて行きます」
「む・・・」
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