番外編8 エリスとタピオカミルクティ4

「ちょっと、悠くん! どういう事? エリスちゃんの言ってる事は本当なの? ちゃんとお姉ちゃんに説明しなさい!」


「いや、まあ、うん。本当だよ。説明するのは難しいけれど」


「なんでよ! この前言ってた転校生ってエリスちゃんの事でしょう! 振られてショックで家出したって言ってたのに、どうして結婚するって話になっているのよ!」


「違うんです! わたしがユウを振ったっていうのは誤解で、二人で異世界転移しちゃった時に、わたしが説明を間違えちゃっただけなんです」


「ちょっと待ってエリス! いきなり何を言い出すんだ!」


 エリスとは異世界の話は他の人にはしないっていう約束をしていたので驚いた。

 もちろん約束なんてしなくても自分から言いふらすつもりはなかったけど、秘密にするっていうのはエリスの方から言い出した事なのに。


「異世界……?」


 案の定、姉さんは鳩が豆鉄砲をくらったようにポカーンとした表情をしている。


「いや、違うんだ姉さん。エリスってちょっと妄想が激しいっていうか、そ、そう、現実とゲームの区別がつかなくなっちゃってるんだよ」


「え、ああ。そうなのね……結婚って言ってるのも、もしかしてゲームの中で結婚するって事なの?」


「そうそう、そういう事。だから、大丈夫だから安心してくれ」


 よかった。一時はどうなるかと思ったけど、上手くごまかせたみたいだ。


「違うもん! ゲームじゃないもん! わたしは悠と一緒に本当に異世界へ行って魔王を倒す冒険をしてきたんだもん!」


 エリスはわなわなと小刻みに震えながらそう言い放った。

 エリスが混乱している!? 


 以前、ミリアやルークさんと戦った時みたいにスイッチが入ってしまったみたいだ。

 エリスはテンパるとこうなるから注意しろって話はルークさんから聞いていたけど、このタイミングで!?

 このエリスの様子を見て、姉さんも目を丸くしてさすがに驚いた表情を見せたものの、しばらくして何か悟ったというような顔になり、こう言った。


「あ、ああ……そっか、そうなのね。こんなに可愛い子が悠くんなんかと付き合ってるなんて変だとは思ってたけど……こういう感じの子だったのかあ……。それなら、なんだか納得だわ」


 弟に向かって『なんか』とはなんだ、というのは置いておくとして、なんか納得してくれたみたいだし、いいか。

 いや、いいのか? 

 なんかエリスの事を中二病的なイタイ子だって思っちゃてるぞ。当たらずも遠からずだけど。


「分かってもらえたんですか? お姉さん」


「あ、うん。でもねエリスちゃん。高校一年生で結婚っていうのはまだ早いと思うのよ。だいたい、悠くんの方はまだ結婚できる年齢でもないしね。エリスちゃん、良い子みたいだし、お付き合いする事自体は反対はしないけど、結婚を考えるのは少なくとも高校を卒業してからにした方がいいと、お姉ちゃんは思うよ」


「え? そうなんですか? わたしの世界では15歳から結婚できるので……すみません。わたしもちょっと焦ってたみたいです」


「わたしの世界って……。そ、そうなのね。わかってくれればいいのよ。うん。ちょっと驚いちゃったけど、タピオカミルクティを好きな女の子に悪い子はいないって、あたし知っているもの」


 微妙に話が噛み合ってない気がするけど、お互いに納得してくれたみたいだし、もう放っておこう。

 下手に突っ込むと泥沼にハマりそうだ。


「それじゃあ二人とも、誤解も解けたようだしもう話はいいかな? エリス、外も暗くなってきたし家まで送って行くよ」


「ちょっと待って、ユウ! わたしまだお姉さんに話があるの」


「そうよ。あたしも、悠くんがエリスちゃんのご両親に挨拶したって件をもっと詳しく訊きたいわ」


 せっかく、収拾がつきそうだったのに、見逃してもらえなかったか。仕方がない。


「姉さんの質問の方は後でゆっくり僕から説明するとして、エリスの方は姉さんに話があるって何?」


「お姉さんって、何か魔法が使えたりしますか?」


 おーい、エリスさん!? 

 いきなり何を言い出すんだ!?


「魔法って? あの、魔法少女とかが使う、あの魔法のこと?」


「ええと、魔法少女の魔法と同じかは分からないんですけど、こういうのです」


 そう言うと、エリスは右のてのひらを上に向け、周囲の冷気を集めて空中に氷の塊を出して見せた。


「エリス!? いきなり氷魔法を見せるなんて、何を考えてるんだ!」


 さすがに僕もエリスが姉さんの前で魔法を使って見せるなんて、微塵も想像してなかったので驚いた。

 これじゃあいくら姉さんが相手でも誤魔化しきれないじゃないか。


「なにこれ? 本物の魔法……? て、手品か何かよね……?」


 姉さんも驚いた様子で、氷魔法を使ったエリスの姿を茫然とした表情で見つめていた。

 そして、エリスはこう言った。


「わたし、人の体内の魔法力の流れを視る事ができるって特技を持っているんですけど、お姉さんがかなり強い魔法力を持ってるのが視えたので気になったんです。もしかしてお姉さんも何か魔法が使えるんじゃないですか?」


「姉さんに魔法力がって、本当に?」


「ええ。こっちの世界の人って基本的にはほとんど魔法力を発現できていないんだけど、強い力を持っている人が身近にいると魔法力が目覚めてしまうケースがあるらしいのよ。お父さんが言っていた話なんだけどね。たぶん、ユウの影響でお姉さんの魔法力が目覚めてしまったんだわ」


 なんてこった。

 でもエリスがそう言うんだからそうなんだろう。


「でも、どうしようエリス? どうしたらいい?」


「魔法力が暴走しないように、正しい使い方を覚えてもらうのがいいんじゃないかしら。お姉さん良い人だと思うし、ユウのお姉さんだしね。力を悪用するような悪い人なら魔法力の源を切断するしかないところだけれど。手荒になるからなるべく避けたいし」


 誤解を解いて丸く収めるだけだと思っていたのに、とんでもない事になったなと、僕は頭を抱えるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る