番外編7 エリスとタピオカミルクティ3
学校から自宅までは徒歩30分ほどでそこそこ距離はある。
自転車通学にしようかと考えた事もあったが歩けない距離ではないし、今日みたいな雨の日に自転車に乗るのは面倒なので、姉さんに倣って徒歩通学にしていた。
ちなみに僕の通っている高校は中高一貫校なのだが、僕は高校からの編入組で、姉さんの方は中学からこの学校に通っている。
その道のりを歩き終え、姉さんとエリスと僕の3人は家に着いた。
僕の家はごく普通の住宅街にある普通の一軒家なので、異世界の城で育ったエリスから見てどう映るのかはちょっと気になるところだ。
エリスの方に目を遣ると、少し緊張した様子ではあるけれど、特に困惑したりだとかそういった反応は見て取れなかった。
こちらの世界に初めて来てからは半年近く経っているし、だいたい想像通りだったという事だろうか。
そしてエリスをリビングへと招き入れて、テーブルに腰掛けた。
姉さんはお茶を用意すると言って台所へ行き、お盆に3人分の飲み物を乗せて戻って来て、配り終えた後、席に着いた。
さて、何から話したものかと切り出すタイミングを見計らっていた時、テーブルの上に置かれた飲み物が目についた。
僕はてっきり姉さんがお茶を持ってきたのだと思っていたのだが、よく見てみると明らかに初めて家を訪れるお客さんに出すものとして、普通じゃないものがテーブルの上に載っていた。
「ちょっと待て姉さん! なんで当たり前のようにタピオカミルクティが出てくるんだよ!」
「え? でもお客さんが来たら普通、タピオカでおもてなしするでしょう?」
「普通じゃないから! それ全然普通じゃないからな! 姉さんだけだそんな事する人は!」
「そんなことないもん!」
「そんな事あるだろ! 普通の家は自家製のタピオカなんて常備してないぞ! いくら名前が『たぴる』だからってタピオカばっかり飲むなよ! 少なくともお客さんが来た時くらい自重しろよ!」
「ひどいよ、悠くん! 私からタピオカを取ったら何も残らないのに! タピオカは私のすべてなんだよ!」
「どういう事だよ! お願いだからエリスの前で変な事を言うのはやめてくれ! 恥ずかしいから!」
言い忘れていたが、姉さんの名前は『八木崎たぴる』だ。
名前の由来は確かタピオカとは無関係だった思う。
そして姉さんは、たぴるという名前で幼い頃からタピオカばかり飲んでいる。
ブームになっているとかいないとかに関係なく昔からずっとだ。
何か運命的なものを感じているらしく、自分の事を、タピオカを愛し、タピオカに愛された女と言ってはばからない。全く意味がわからない。
一言で言うと、姉さんはちょっといろいろと変な人なのだ。
そんな姉さんと僕のやり取りをよそに、エリスはタピオカミルクティのカップを興味深そうに眺めたあと、手に取って飲んでいた。
そしてエリスが姉さんに向かって言った。
「おいしい! これおいしいです、お姉さん! こんなの初めてです」
「そ、そんな事を言ってもごまかされないんだからね、エリスちゃん! 悠に結婚詐欺なんてして、いったいどういうつもりなの? 何が目的? 今日はちゃんと理由を話してもらうまで帰さないからね!」
そう言いつつも、お手製のタピオカミルクティを褒められたのがよっぽど嬉しかったのか、姉さんは厳しい顔を作ろうとしながらも微笑を堪えきれないといった微妙な表情をしている。
だが、変な思い込みで誤解され続けているのは困る。
「いや、姉さん、違うから。何で結婚詐欺って話になるんだよ」
「そっちこそ、高一で結婚を前提に付き合うなんて、おかしいでしょ! 冷静になりなさい! だいいち、こんな可愛い子があんたと結婚してくれるわけがないでしょ! 悠くん、あなた騙されてるのよ! いい加減に目を覚まして!」
実の弟に対して暴言が過ぎるが、反論出来ないところが悔しい。
客観的に見て僕がエリスみたいな超絶美少女と釣り合わないというのは、その通りだろうから。
「お姉さん、わたし騙してなんかないです!」
「じゃあなに? 本気で悠くんと結婚したいって言ってるの?」
それを聞いたエリスの顔が真っ赤に染まる。エリスは少し俯いて考えたあと顔を上げて姉さんに向かってこう言った。
「はい。わたしユウのお嫁さんになるんだって決めたんです。ユウだってわたしの両親の前ではっきりと言ってくれました! だから、わたし……」
エリスはちょっと涙目になりながら、それでも真剣な表情でそう言った。
確かに、僕はエリスのお父さんである魔王の前で、エリスを僕にくださいとはっきり宣言した。それは間違いない。
だけどそれは魔王をやってるエリスのお父さんから『世界の半分をお前にやるからエリスからは手を引け』とよく分からない事を言われたので、勢いで『エリスさんをください』と言ってしまっただけだ。
はっきり言って結婚とかそこまで深く考えてなかった。
それが、どうしてエリスの中で結婚という話になってしまったのだろうか?
うん、答えは簡単だ。
冷静になって状況を客観的に思い返すと、完全にお義父さんに娘さんをくださいと。結婚させて欲しいと言い放っている。
エリスが結婚を申し込まれたと思うのも当然なのだ。
結婚を前提にした付き合いを考えてくれているのは僕としては嬉しい事ではあるけど、困った事でもある。
なにせ、まだ高校一年生だし。
どうも今のエリスを見ていると結構本気みたいだ。
こっちの世界だとこの歳で結婚なんてそこまで本気で考えて付き合ったりはしないのが普通だと思うけど、エリスの世界では違うのかもしれない。
いずれにせよ、勢いで言ってしまっただけとか言ったらエリスは怒るだろうな。
もちろん、僕も遊びなんかではなく、本当に真剣にエリスの事が好きだし、ずっと一緒にいたいと思っているし、否定する必要はないと思っている。
ただ、それは僕らの間だけの話にしておいて、あまり表で言わないようにしたかった。家族を、特に姉さんを巻き込んでの話になると本当にややこしい。
どう収拾をつけたらいいんだろうな……。
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