第50話 5年前~エリスとミリアの小さな冒険 前編
5年ほど時は遡る。魔王城の一室、王妃の部屋。
この春に11歳になったばかりのエリスは、体調を崩しがちだった母の見舞いに訪れていた。
「けほっ……けほっ……」
「大丈夫ですか!? 母さま」
「大丈夫よエリス。ごめんね心配をかけて」
「いまお薬を……」
エリスはそう言って振り返り、テーブルの上に置いてあった薬箱を開けた。しかし、そこには何も入ってなかった。
「あれ? 空っぽだ? 待っていてください母さま。すぐもらってきます!」
「あ、待ちなさいエリス……!」
母が呼び止めるより早く、エリスは部屋を飛び出していた。
母の体の異常は普通の病気とは少し違う。
異世界人特有の現象。魔法力と肉体の不一致。
強すぎる魔法力の器として、日本から来た異世界人である母の身体は脆すぎるのだ。そのため魔法力を抑える薬を必要としていた。
母の魔法は氷の属性を持つ。その反対の炎の属性を宿す薬だった。
「どうしたんですかエリス姉様? そんなにあわてて」
エリスにそう声をかけて来たのはミリア、9歳。
2年ほど前に魔王の妹である母親を病気で亡くし、魔王城へとやって来た2つ年下のエリスの従姉妹。
二人は家庭教師であるルークの下で一緒に魔族の歴史や戦術を学び、時には魔王城の外へ繰り出して遊んだりと、本当の姉妹のように仲良く過ごしていた。
「あ、ミリア。ルーク先生を見なかった? 母さまのお薬をもらいたくて」
「先生でしたら先ほど禁書庫の方へ歩いて行くのを見ましたが……」
「ありがとうミリア!」
「あ、待ってください姉さま! ワタシも一緒に行きます!」
二人が禁書庫へ向かって回廊を走っていくと、前方から向かって歩いてくるルークの姿が見えた。
「ルーク先生!」
「エリス様? それにミリア様も。どうしたんですか? こちらに来てはいけないと魔王様に言われているでしょう? この先は結界が張ってあって危ないですからね」
「ごめんなさいルーク先生。母さまのお薬がなくなっちゃたんだけど、届いてない?」
「その事ですか……。申し訳ありませんエリス様。今朝、使いの者を薬師の元へ行かせたのですが、まだ戻らないのです。もしかしたら何かトラブルがあったのかもしれません。もう少しして戻らないようなら、別の者に見に行かせようかと思っていたところです」
「薬師ってルーク先生の妹のアイリスの事でしょう? わたしが行ってくる!」
「エリス様がですか? しかし……」
「大丈夫だよ。アイリスの所なら前に行ったことあるし」
ルークは右の拳を口元に当て、少し考えた後エリスに向かってこう言った。
「そうですね。分かりました。お願いしましょう。でも何か問題が起きているようなら深入りせずにすぐ城に戻って下さい」
「分かったわ。ミリアはアイリスには会った事なかったわよね。一緒に来る?」
「行きます。ワタシも伯母上にはいつも優しくしてもらってますし、先生の妹にも会ってみたいので」
「決まりね。じゃあ行ってきます!」
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