最終章 魔王城決戦

第54話 ミリアの選択

 ユーホスの街で数日を過ごして英気を養い準備を整えた僕らは街の入口の門の前に来ていた。


「勇者の兄ちゃん! 絶対に魔王を倒してくれよ! 応援してるぜ!」

「勇者様! 魔王を倒せるように祈ってます!」


 街の人々が集まって盛大に送り出してくれるんだけど、ちょっと気持ちは複雑だ。

 彼らも本気で魔王を倒して欲しいと思っているわけじゃなくて、異世界から来た勇者が魔王を倒しに行くというイベントを一緒に楽しもうとしているだけなんだというのを知ってしまったからだ。


 でも街に滞在している間、皆には本当に色々と良くしてもらったし、もう開き直って精一杯の笑顔で声援に応える事にしていた。

 それが一番の恩返しになるのだとルークさんからも言われていたし。


 街の人々の声援に背中を押されつつ僕らは魔王城のある山の麓へと向かった。

 街を出た時は青空が広がる快晴だったのだが、これから訪れる困難な道のりを象徴するかのように、近づくにつれだんだんと曇天へと変わっていった。


 山を見上げると、ここからでは先が見えないくらい長く果てしない石の階段が続いていた。


「ここを登ったところに、城の入り口があります。さあ、参りましょうか」


 ルークさんがそう口にしたその時、ミリアがエリスに向かって言った。


「姉さま、どうしても行かれるのですか? お願いです! 行かないで下さい!」


「ミリア……。でもわたし、ユウと一緒に向こうの世界に戻るって約束したし、もう覚悟も決めているから」


「何故ですか! 異世界になど、その男ひとりで帰ればよいではないですか! せっかく姉さまと再会できたのに、もうお別れなんて嫌です! そんなにその男が良いというのですか!」


「ユウの事ももちろんあるけれど、それは置いておくとして……。わたしね、もう少し日本で暮らしてみたいの。小さい頃にお母さんから聞いていた話。

機械の馬車に、天に突き刺さるくらい高い、石で出来た塔の森とか、その中に信じられないくらい沢山の人が居て暮らしているだとか、そんな世界があるなんておとぎ話みたいに思ってたけど全部本当だった。だからね。わたし、向こうの世界でもっと色々見たいものがまだいっぱいあるの」


「そうですか。伯母上の……。姉さまの意思が固いのは分かりました。

でも、ワタシは……。やっぱり姉さまには行って欲しくないのです。だから、ここから先はもう姉さまのお手伝いはできません。すみません姉さま」


 ミリアはすこし俯き、両手の拳を強く握りしめて必死に涙をこらえている様子でそう言った。


「うん。わかったわ。ありがとねミリア」


 エリスはミリアの頭を優しく撫でながら、そう呟いた。


「姉さま……。ご武運を」


 そう言ってミリアはくるりと後ろを向き、空から舞い降りてきた飛竜に飛び乗ってそのまま平原の方向へと消えていった。


 ミリア、ごめんな……。

 僕は心の中でそう呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る